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1-7 出会いを求めて

出会いは嫁の数だけある。

 「出会いが……ない!」


 つくしはベッドの上で大の字になり、宿の天井を睨みつけながら叫んだ。

 異世界にきて困っていることがひとつあった。

 それは出会いがないことだ。

 つくしはただ、出会いに飢えていた。


 「こう、運命的に最初から好感度が最大値のかわいい女性冒険者が声をかけてくるとか、お忍びで下町に遊びに来ていた王女を助けて王城に招待されるとか、才能を見極められて学園ハーレム生活みたいなものがあっても良いと思うんだ僕は」


 早口で妄想を撒き散らすつくしにしおりは嘆息する。


 「妄想のし過ぎですよ。それにマスターの理想から創造されたこの可愛い私がいるじゃないですか」


 いつの間にか宿の机の上が布団やら羽のない扇風機やら人をダメにするソファーやらが散らばる快適空間に変わっており、その中でしおりが得意気に、無い胸を張った。


 「しおりさんって僕の理想から生まれたのか……そりゃ可愛いわけだ。僕の想像力に感謝するんだな!」

 「つまりマスターはロリコンってことでよろしいのです?」

 「そそそそそんなことないよ?」

 「声が震えているのです。それに記憶を共有している私に下手な誤魔化しは通用しないのですよ? ロリコンマスター」

 「すごいロリコンみたいな名前はやめてくれます!?」


 そこまで行くともはや仙人クラスで、時代と共に変わり行くスクール水着を全種類持っていそうだ。

 イエスロリータノータッチ。


 「そう言えばランクも上がった事だし、中型の魔物の討伐、行っちゃう?」


 不毛な会話をする彼らは、白水病の治療中、冒険者組合の依頼を一定数こなし、ランクが一つ上がってFランクになっていた。

 下から2番目のランクだ。

 だからといって特別、毎日の生活に変化があるわけではなく、少し強い魔物にも挑めるようになっただけであった。

 基本的に冒険者はランクがどうであれ、それぞれ得意な分野があるのでどんな依頼も受けられるが、経歴からあまりにも身の程にあっていないと判断されれば受付の時点で弾かれる。

 なので実質、ランクと言うのは言わば、その人の実力を一目で分かるようにした指標に過ぎず、ひとつ上のランクの依頼までが適正とされていた。


 「ちやほやされたいだけでしょう? それにその体力でまともに戦えるのです? この間だってうさぎに突き刺されかけていたじゃあないですか」


 最初に受けようとしていたホーンラビットの討伐に向かい、予想外の狂暴さに逃げたら追いかけてきて、突き刺されかけていたところをしおりが助けた事を持ち出すと、つくしはぐっと拳を握った。


 「やられる前にやれ! だ!」

 「ウサギにすら勝てていませんし、決闘じゃないのですから不意討ちされたら死ぬのですよ?」

 「そこはほら、しおりさんがフォローしてくれれば」

 「私は忙しいのです」

 「ゲームをしているだけじゃないか」

 「ゲームが忙しいのです」

 「ならしかたないな」


 自身もゲームで忙しかった経験があるので、つくしはその答えに納得するしかなかった。

 となると背伸びせずに今まで通り適正な依頼をこなして行くしかない。


 (またアイツが待っているんだろうなぁ)


 ここ一週間の依頼のほどんどにラルドが絡んできており、一応、前衛として置いておくのと、冒険者組合のあれこれを教わったりしながら過ごしていた。

 依頼の帰りにたまにはいいかと一緒に酒をのみに行き、酔っぱらってげろったのは記憶に新しい。


 「マスターは夢を見すぎなんですよ。記憶から見たらわからなくもないですが、異世界って言ってもマスターはただのもやし糞オタクなんですから」

 「糞は酷くない!? 否定はできないけど!」

 「この間の私に対する評価のお返しなのです」


 やり返せたしおりは嬉しそうに漫画のページを繰った。


 「そうだ。白水病が治ったってあのお医者さんに言いにいこう」

 「何でですか?」


 治ったのにわざわざ言いに行く意味があるのかとしおりが思っていると、つくしは白水病のあった左腕を押さえた。


 「ほら、腕を切りにこられたら嫌じゃん?」

 「流石にそれはないと思いますが……」


 それではもはや切り裂き魔みたいなものだ。

 

 「わからんよ? あぁ言う真面目な人こそ有言実行で恐いものだよ。それに来なくても次あったときになぜ生きている!? って言われたら嫌じゃん? それにすごいってなって、シスターの子が僕のところに修行しに来るかもしれないじゃん?」

 「……まぁ、特にすることもないようですしご自由にどうぞ」


 しおりは我関せずとばかりにつくしのフードに入って行く。

 その姿を見てつくしはふと疑問に思った。


 「そう言えば僕としおりが離れたらどうなるんだ?」

 「私が否応なしにマスターの所にワープします」

 「某クラフトゲームの犬みたいだな……」


 そうして出会いを求める暇な冒険者は鞄を引っ提げて教会へと向かった。




   ―――――――――――――――――――――――




 「本当にどうにかならないのか? 金なら積む!」

 「いえ、ですから無理ですって……」


 教会につくなり静かな聖堂に怒声が響いているのが耳に入った。


 「どうしたんだろ」

 「さぁ?」


 怒声の主を探すと、先日、案内をしてくれたシスターが小太りの中年男性に絡まれていた。

 中年男性は「頼む!」やら「金は出す!」などと連呼しており、シスターは困った顔でそれを固辞し続けている。

 端から見たらおっさんがシスターを金で買おうとしている危ない図である。


 (……ま、あまり関わらないようにしとこ)


 面倒に巻き込まれるのはごめんだった。

 つくしは受付をそそくさと済ませると、なるべく遠くの椅子に座り、陰でこそこそとゲームをしながら暇を潰した。


 「番号札4番のかた、どうぞ」


 ほどなくして呼ばれたつくしはゲームを倉庫(ストレージ)にしまい、案内役のシスターが来るのを待った。

 そのシスターは助かったという明らかにほっとした表情で、つくしの所まで駆けてきた。

 中年男性は苛立ちを隠せないようで、近くの椅子にどかっと座ると腕を組んで貧乏ゆすりを始めた。

 どうやらシスターが帰ってくるまで待っているらしい。

 シスターさんも大変だなぁと思っていると、シスターが「どうぞ、こちらです」と営業スマイルで案内を始めた。


 「あれ? この間の白水病の方ですか?」

 「はい、そうです」


 シスターが「やっぱり」とにっこり微笑む。

 覚えてくれていたことが少し嬉しいが、患者の情報が駄々漏れなのは如何なものか。


 「腕を切る決心がついたんですね!」

 「いえ! 治ったんで!」


 せっかく治ったのに腕を切られては堪らないと必死に否定する。


 「何!?」


 それを聞いて驚いたのはシスターだけではなかった。

 中年男性が椅子を蹴り倒さんばかりに勢いよく立ち上がったのだ。 

 つくしはその様子を見て、めんどくさいことに巻き込まれそうだなぁと確信した。

次辺りにやっとけもみみでる!

やっとだせる!

まだまだ序章もいいとこね。

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