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1-6 白水病 2

腕を切り落とすとか考えたくもないけど腕から手裏剣飛ばしたい。

 「え……」


 つくしは耳を疑った。


 (あと数ヶ月で死ぬ……?)


 異世界に来てからまだ3日。

 もうすぐ死ぬことを宣告されることなどあって良いのだろうか。

 しかも前世を含めて人生初の死亡宣告である。

 つくしの心に与えたその衝撃は計り知れなかった。


 「大丈夫です。今ならまだ患部を切り落とすか、確実性を取るのなら、腕を切り落とせば命の危険はありません。こちらで手配いたしましょうか?」

 「ちょっ、ちょっと待ってください」


 安心させるような微笑みを浮かべて全然大丈夫じゃないことを立て続けに言う医師に慌てて待ったをかける。


 「考える時間がほしいので、後日、伺います」


 流石にそんな大事を即決できるほど胆が太くない。

 頭が真っ白になって軽く茫然自失になりながら立ち上がると、医者はそうですかと頷き「取り返しのつかなくなる前に英断をお待ちしております」と心配そうな顔で締めくくった。

 つくしは彼に礼を言うと足早に聖堂を抜け、診察料込みのお布施に銀貨5枚を受け付けに渡す。

 そして、教会を出てから初めて大きく息をはいた。

 ゆっくりしていたら腕を切り落とされそうで何となく落ち着かなかったのだ。

 とぼとぼと肩を落として帰る道中、つくしはぽつりとフードの中のしおりに呟くように言う。


 「しおり、短い間だったけど、ありがとな」

 「諦めるの早すぎなのです」

 「だって生きてたとしても腕が無くなるんだよ!? 腕が! こんな世界で生きていくのに隻腕とか笑えないよ……手術とかめっちゃ怖いし」


 と言うか隻腕になること事態は何となくかっこいいと思ったこともあったが、手術、それも異世界故、麻酔もなにも無いような痛みに耐える拷問のような手術を想像してつくしは震える。


 「ふっふっふっ……」


 つくしが肩を抱いているとしおりが不適な笑い声をあげた。


 「な、なんだ?」

 「マスター、私を誰かお忘れですか? 収集者(コレクター)目次(コンテンツ)が一つ収集司書(ビブラリアン)のしおりなのですよ?」

 「!? そうだった! ただのひきニートオタクかと思ってた!」

 「いつのまにか評価が酷いことになっているのです!」


 ショックと言うようにしおりは大袈裟にのけぞった。


 「それで、スキルがすごいのは分かるけど、物を作ったりするくらいしか出来ないよね。どうするの?」

 「まぁ、宿に帰ってから話しません?」

 「……そうだね」


 教会から出てきて一人でしゃべっているように見えるつくしを「精神を病んでしまった人か」と思い、かわいそうな人を見るような目で通行人が見ていたことに気づくと、つくしたちは押し黙ってそそくさと宿へと帰った。




   ―――――――――――――――――――――――




 「んでんで、どうするの?」


 宿屋の主人に追加分の銀貨を支払ってから部屋に戻ったつくしはしおりを備え付けの机の上に下ろして催促した。


 「これなのです!」

 「ん? 軟膏?」


 再現(リプロ)で再現されて手渡されたそれはアルミのチューブに入った見覚えのある軟膏だった。


 「これって……」

 「はい。マスターがアトピーになったときに使った抗生物質を再現したのです!」

 「なるほど! それなら治せるかも!」


 細菌性皮膚炎になら抗生物質は効果的だ。

 昔、アトピー性皮膚炎で病院にかかったとき、貰った薬がそれで、よく効いた覚えがある。

 俄然、希望のわいたつくしは声を弾ませた。


 「でも、異世界の細菌に効くかどうかは未知数なのです。だからこの世界の医者に行ったのですが……なので過信は禁物なのですよ」

 「確かに、そうだな」


 なんと言ってもここは異世界。

 同じようなものでも全く組成が違うものがあってもおかしくない。

 

 「でも、これで希望が見えた。この先生きのこれる!」

 「まぁ、今日塗って様子をみて、効きそうになかったら切り落としにいきましょう」

 「よーし。早速塗るぞ。効きやがれこのやろう」


 つくしは患部に数ミリメートルほどの厚さで薬を塗り、他のネズミの噛み後にも一応、塗っておいた。

 そしてその上から絆創膏で蓋をした。

 後はゆっくり療養するだけだ。


 「寝るか」


 となると寝るしかない。


 「僕はもう寝るけどしおりはどうする?」

 「私はアニメでも見ながら過ごすのです」

 「睡眠不要って羨ましい」

 「そんなにいいものでもないのです。ゲームとかがなければ退屈すぎて発狂していたのですよ」

 「そっか、そうだよな」


 娯楽が満足に無い中、一人でずっと過ごすのはかなりの苦痛だろう。

 そう考えると寝ることも娯楽のひとつなのかもしれない。

 つくしはあくびを噛み締めてまぶたを閉じた。




   ―――――――――――――――――――――――




 朝、誰かが宿の階段を降りる音でつくしは目を覚ました。


 「あ、マスターおはようございます」


 しおりが机の上にハンモックを作り、その横に置いてあるテレビにアニメを写しながら揺れていた。


 「具合はどうなのですか?」

 「そんなに痒くはないけど……」


 視線だけこちらに向けるしおりにも見えるように絆創膏を張った箇所を見せる。

 おおまかな痒みは取れたが、寝起きで感覚が鈍いだけかもしれない。


 「……それじゃ、剥がすぞ」

 「どうぞ」


 ごくりと息を飲んでぺりぺりと絆創膏を剥がして行く。


 「悪くは、なってないな」

 「治っているんじゃないですか?」


 傷は水分を含んでいて、多少、膿んでいる感じだが、白くなっている場所の侵食はなくなり、周囲から新しい皮膚が伸びていた。

 言われてみると確かに治ってきている感じはする。


 「まぁ、これなら安心してもいいかな?」 

 「ですね」


 その後、一安心したつくしたちはせっかく異世界に来たのだからと外にでて、適当な冒険者組合の依頼をこなしたり、グルメスポットを探したり、ゲームをしたりしていたらあっという間に一週間が流れた。

 毎日欠かさず薬を塗っていたので、その間に白水病は完治しており、大袈裟に騒ぎ立てたけれど、結局、大したことのない病気だったという感想で一連の騒動は呆気なく、ひっそりと幕を下ろした。



白水病は一応終わり。だけど終わらない。

けもみみまでもう少し。


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