3-9 収集スキルは何でもありですか?
勝った!
第三部完!
「ここは……!?」
急に変わった景色に子爵たちは困惑した。
突然現れた彼らに塔の扉の前で待っていた者たちも驚く。
何が起きたのか全く理解できない中、騎士たちの中の魔法使いが口を開いた。
「恐らく魔力による座標移動……これほどの範囲を一度に転移させられるとは……」
驚きの連続でもうあまり動揺しなくなった騎士たちが塔を見上げる。
塔の内部へと続く扉は固く閉ざされており、向こうの管理下にある以上、再び上るのは恐らく不可能だろう。
「ご主人! ご主人!! どこっすか!?」
テトラがつくしを探すが、何処にもいない。
その様子を見て騎士たちも探すが、やはりいない。
「いないとなると恐らく……」
「取り残されたか……」
「そんな! ご主人! 今行くっす!」
テトラが手地の扉を開けようとするが、全く動かなかった。
ガンガンと鉄の扉を殴ってもびくともしない。
「君たちもさっき見ただろう? この扉は頑丈だ。無駄だよ」
「うっさいわね! 私たちはアイツに借りがあんのよ!」
フィーアもテトラに当たらないように魔法を扉に当てるが、同じく効果は見られない。
彼女たちの必死な様子を見て動かないほど彼らも人でなしではなかった。
「仕方ない。俺らも行くぞ! 飯の礼だ!」
「「おぉ!」」
ラルドの掛け声を皮きりに全員が扉を押し始める。
それでも扉は固く閉ざされ、開く気配はない。
しかし、諦めることはできなかった。
目の前にドラゴンが迫っていて、どうせ逃げ場などないのだから。
「斥候の一人はこのことを王都へ!」
「しかし!」
「行け!」
「はっ!」
一人だったらきっと逃げ切れて、このことを王都に伝えてくれるだろう。
子爵はせめてもの願いを託し、斥候を送り出した。
「ふんっ! ぬあぁぁ!」
扉を押し始めて何分が経過したころだろうか。
とうとうドラゴンが街を揺らしながら塔のすぐそばまでやってきていた。
近づくとその巨体がいかに大きいかわかる。
立てば塔の高さになった。
「くっ……ここまでか……」
恐怖を覚える者、腰が抜けた者、諦めない者。
様々な人の様々な思いが交錯する。
そしてドラゴンがまさに破壊の限りを尽くそうと魔力を大きな口に収束させ、その首をもたげた。
だが、突然塔の最上階が爆発したかと思うと、そのドラゴンの力が抜け、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「なにが……」
いったい何が起きたというのか。
舞う砂ぼこりのなか、彼らは銀色の山を見上げた。
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「そらっ!」
つくしは魔力の込められた両手を魔導塔の中心を走る柱に向かってつきだした。
膨大な量の魔力が混ざり合い、せめぎ合う。
徐々に増えて行く魔力の流れ。
それは塔が許容できる量を越えていた。
多すぎる魔力はオーバーフローを起こす。
「そろそろかな」
仕上げに特大級の魔力をぶつけた。
すると塔は溢れるエネルギーを押さえきれなくなり、破裂する。
光の中、つくしは思う。
(わがままで生きてて何が悪い!)
と。
最上階が爆発し、魔力の供給源を失った魔導機龍は動きを止めた。
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異世界の壊れた街をジープが一台走っている。
それに乗るのは一人の青年と一人の収集司書と一人の獣人と一人の魔女。
「ご主人が何ともなくて安心したっす!」
「まぁ、あんたなら何とかしそうな気はしたけどね」
テトラとフィーアの声に無傷のつくしは「心配かけてごめんね」と言う。
「爆風とかも吸収できて良かったよ」
ジグを見て恐らく自分も同じようなことが可能だと考えてぶっつけ本番で爆風を倉庫に回収してみたのだが、なんとかなった。
倉庫の中が大変なことになっているだろうがきっと大丈夫。
それからテトラに泣きつかれながら、急に塔から落ちてきて驚く騎士たちに詮索をされる前に別れを言ってそそくさと出てきたのだ。
「しーえーさんはどうしたっすか?」
テトラがCA-37がつくしの背にいないことに気がつく。
「父親の元に置いてきたよ」
「おとうさんがいたっすか! ならそれが一番っす」
「機械の父親……?」
獣人のテトラは頷き、魔女のフィーアが首傾げた。
つくしが塔を破壊した後、CA-37は動かなくなった魔導機龍の前で言った。
「私には生前の記憶がないので、言うなれば彼が父親です。せめて私が動かなくなるまでの間、一緒に過ごさせてください」
つくしはその願いを受け入れ、鉄屑の山の下に彼女を置いてきた。
果たして鉄屑に閉じ込められて魔力切れを待つだけの父親と親子の会話ができたかは分からないが、人の幸せに口を挟むものではない。
険しく見えていたの山が少し丸く見えたのは気のせいではないだろう。
「おっ、きたきた」
門の近くまでくると、門番をしている魔導人間が手を振ってきた。
「こんにちわ」
「この国はどうだった? 楽しかったか?」
「えぇまぁ……散々でしたよ」
「ははっ、ま、そうだろうな」
彼は乾いた笑いを浮かべる。
「奴は死んだか?」
やつと言うのはジグのことだろう。
「鉄の棺桶に閉じこめただけです。燃料切れになれば死ぬかもしれないですが」
「そうか、きっともう死んでるな」
「なぜわかるんですか?」
「何となくだよ」
「魔導人間故の勘?」
「みたいなものかな」
門番は空を見上げる。
そこにいる誰かを見ているかのように。
「あなたはいったい皇帝のなんなんですか?」
皇帝の他にいた意思のある魔導人間。
無関係ではないだろう。
「ただの親友。本当に、それだけだ」
「そうですか……」
「さ、もう行った行った。この国はもう終わったんだ」
「ええ、では」
門をくぐり、荒野に出ると風に運ばれて門番の呟くような声がつくしの耳に届いた。
「ありがとう」
「……え?」
振り返ると、そこには壊れた魔導人間が地面に転がっていた。
小さくなっていくそれは荒野の強い風のなかに直ぐに消えていった。
「彼らは、魔導人間って言うのは満足した時に死ぬのかな」
「たぶん、そうなのです。亡霊みたいなものなのです。ジグとか言う迷惑なやつも言っていたのです。罰が欲しいと。だからたぶん……」
その人にとって何が幸せかは分からない。
でも、ひとりぼっちだと思っていた皇帝には思ってくれる人がいて、それに間違う前に気がつけなかったのが最大の不幸だろう。
つくしは自身の幸せのために利己的に世界を渡り歩く。
仲間もきっと幸せでいてくれていると信じて。
一応これで終わりですが、そのうち気が向けば練り直して新しいタイトルで投稿したりおまけの話を投稿したりするかも。
他にも色々習作を投稿していくかも。
その時また会えばよろしくお願いします!
(よろしければ批評よろしく)