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3-8 転生者

みんなが幸せになれる訳じゃあない。

 「なっ……あれは……まさか……!」

 「そう、その魔物、ドラゴンの死体を元に作った魔導兵器……魔導機龍……うん、やっぱ壊すなら物理に限る」


 皇帝は満足げに頷いた。

 動き出す巨大な金属の塊に騎士たちは言葉をなくしたが、子爵はこのような状況でも冷静だった。


 「貴方は本気で戦争を仕掛けるつもりですかな? 残された国民はどうするのです」

 「ん? 言ったでしょ? この国にはもう僕しかいない。街にいる魔導人間はただのロボットだし、しゃべるものは僕が遠隔操作していた人形に過ぎないよ。うまかったでしょ? 僕の演技」

 「しかし、私たちは交渉に来て――」

 「しつこいなぁ。僕にその気はないって言ったろ」

 「そう、ですか……」


 何を言っても皇帝の意見は覆らない。

 それを理解した子爵はキッと皇帝を睨み付けた。


 「ガキが為政者気取りやがって……!」

 「心外だなぁ。これでも君たちよりよっぽど年上のはずなんだけど」


 子爵は下手に出るこちらを見下した態度をとる皇帝に堪忍袋の緒が切れていた。


 「あ、そういえばまだ気づいていない人もいるようだから一応」


 皇帝は思い出したように言って兜を脱ぐと、そこにいたのはやはり先日、話しながら街を案内してもらった魔導人間の少年だった。


 「先日はどうも。一応、外の人間がどういったものか調べさせてもらったけど、大して違いはないんだね。君たちも滅ぼしてやろう」


 皇帝に答えるように遠くのドラゴンが咆哮し、街を壊しながら塔へと向かってきた。


 「総員! 彼奴を討て! もはやそいつは人ではない!」

 「そうこなくっちゃあ」


 右手をあげ、騎士たちに攻撃の指示を出す子爵を見て皇帝は笑った。


 「魔法隊、攻撃はじめ!」


 騎士たちの後方にいた者たちが魔力を練り上げ、炎の魔法を皇帝に浴びせた。

 しかし、魔法は皇帝に当たることなく霧散してしまう。


 「なんの準備もしていないわけがないだろう?」

 「ちぃっ! 切り込め!」


 魔法は無意味だと判断した子爵が物理的に攻撃しようと騎士たちをけしかける。


 「なっ……!?」

 「無駄だよ」


 だが、彼らの剣は皇帝に届くことはなく、その体の前で切り込んだ分だけ剣そのものが溶けるよにして消えてしまった。


 「お前は……何者なんだ」

 「僕は後に引けなくなってしまったただの皇帝だよ。さて、実力も見たことだし、そろそろ邪魔者は退場してもらおう」


 皇帝がさっと手を一振りすると、子爵や騎士達、それにテトラとフィーアも一瞬で消えた。


 「これで邪魔は入らない。おっと、そう睨むなよ。彼らは外に出てもらっただけだ」


 その通りの様で、テトラたちの魔力の反応ははるか下に移動しただけで消えてはいない。


 「やっと静かになったね。ツクシ君」

 「皇帝……いや、ジグ。何が目的なんだ?」


 その場に一人残されたつくしは語りかけてくる皇帝の真意を探る。


 「いやなに、ちょっとここ数日君を見ていたが、君には不可思議なことが多い。多すぎる。普通じゃあない」

 「……」

 「だから僕の願いを叶えてくれると思ったんだ」

 「知らん。星にでもねがってろ」

 「そう邪険にしないでよ。君もまた僕と同じ目をしているのに」


 ジグはじっとつくしの目を見てくる。


 「……どういう意味だ」

 「人間なんてどうとも思っていない。そんな目だよ」

 「馬鹿言え。僕には友人がいるし仲間もいる」


 ラルドやその仲間の冒険者、それにテトラとフィーア。

 この世界に来てから友人も仲間も増えた。

 どうでも良いなんて思っているわけがない。


 「うまく付き合うよね。でもその感情はきっと人とは違う。自分になつく動物を愛でるようなものだ」

 「うるさい」

 「少しは自覚があるんでしょう? 選民主義的なとこ」

 「わかったようなことを言うな!」


 つくしはつい最近出会ったばかりなのに、自分でも分からない心のうちがわかってたまるかと声を荒げる。


 「じゃ、あのドラゴン君が来るまでなぜ、どうやってこんなことになったのか教えてあげよう」

 「聞くと思うか?」


 つくしは素早く再現(リプロ)で拳銃を作って撃とうとするが、ジグの魔力の向かう方角を見て止めた。

 その魔力は外からテトラたちの方へ向けて練られていた。


 「……僕は人間なんてどうでもいいんじゃなかったのか?」

 「自分のものは壊されたくない。傲慢な人間だ」


 ジグはつくしが矛を納めたのを見て練っていた魔力を消す。


 「それじゃ、話そう。愚かな人と壊れた魔導人間の話を」


 彼はつくしの了解も得ずに勝手に話始めた。


 「まず始めに、僕は転生者だ」

 「……」

 「あれ、あんまり驚かないんだね」


 それは大体予想していた。

 剣と魔法の世界でこれほどまで高度な技術をもっているのは一部の天才か、ずるをしているかしかあり得ない。


 「君もそうだろう? ジープを見て一目でわかったよ」

 「確かにそうだ」

 「やっぱり! 君から見てこの世界はどう思う?」

 「どうって……僕の夢見てきた世界そのものだよ」

 「本当に?」

 「何が言いたい」

 「結局、人は変わらない。人は汚いままだと、そうは思わない?」


 今まで経験したテトラやフィーアを取り巻く環境、悪と断言できる人間たちのことが脳裏に浮かぶ。

 

 「思い当たるとこ、あるでしょ? 根本的なとこは変わらない。だから僕はこの塔から膨大な魔力を瞬間的に拡散させ、人間を構成する魔力を強振動させて魔力へと置換、分解し、破裂させてすべて消した」


 それから一呼吸開けて続ける。


 「僕の前世の死因は自殺だよ」


 彼はそう、告白した。


 「人に騙され、功績もなにもかも奪われた。そんな世界に絶望して自ら命をたった。この世界に来たときは狂喜したよ。あんな糞みたいな世界から離れられて新しい生をもらえたって」


 その頃を思い出しながら微笑みをその顔に浮かべる。


 「でも、違った。いや、同じだった。ここ世界もまた前の世界と同じだったんだ」


 途端、彼のかおは憎しみに染まった。


 「前の世界で得た知識をもとに僕は魔力を使って思いのままの機械を作った。もちろん帝国側からは重宝されて人工知能にも挑戦した。僕は嬉しかった。みんなが笑顔になってくれることが。でも、それは仮初めのものだったんだ。結局、僕は利用されていただけだったんだ」


 その憎しみを噛み潰して租借する。

 忘れてはいけないから。


 「君が背負っているその魔導機械の素体はなにか知っているか?」

 「いや……」


 拾っただけなので詳細など知るはずもない。


 「人間だよ」


 つくしはその言葉に目を見開いた。


 「僕は人の魂を打ち付けた板を渡され、それを元に魔導人間を作っていたんだ。また、騙されていたんだ」


 そのときのジグはとても小さく見えた。

 背負った罪の重さに潰されそうなほど。


 「人として生きているのなら、まだ救いがあった。しかし、一度魔導人間となったものは自我を持たない。何度やっても、失敗した」


 しかし、それはおかしい。

 何故なら――。


 「このCAなんとかは自我があるぞ?」

 「何!? そんなはずない! 」


 ジグは否定するが、CA-37自身がすぐにそれを証明証明した。


 「お話しはお聞きしました。私は多分、自我があります」

 「自律で会話した……!?」


 驚きを隠せないと言ったジグにCA-37は続ける。


 「私は職務上、様々な人と関わるうちに自分のなかの自我に気がつきました。でも、元々の私はわかりません。それでも、私は今に満足していました」


 ジグは頭を抱えて「学習機能による自我の芽生え……いや、偶然なのか? いやしかし――」とぶつぶつ独り言を言った後に上げた顔は憑き物が取れたようだった。


 「そうか……一人は救えていたのか……」


 ずっと力んでいた肩を落とす。


 「だが、もう遅い」


 しかし、直ぐに自虐的な笑い声を上げた。


 「僕は罪を背負いすぎた。もう引き下がれないところまで来ている。すべて壊すか誰かに罰を受けるかだ。さぁ、一騎討ちといこう! つくし君。この世界を私から守って見せろ」


 彼がそう言うと壁を突き破って来たドラゴンの手が彼をすくい上げて自身のからだのなかに取り込んだ。


 「何だか、大変なことになっちゃったな……しおり、準備は出来てる?」


 つくしも覚悟を決めた。

 自分の心のうちの闇と折り合いをつけて守りたいものは守るというあくまでも利己的な思いを遂げるために。


 「準備はできていますが、出力に限界があるのです。マスターに無理させますが良いのです?」

 「あぁ」


 つくしは収集者(コレクター)の本を出して胸に押し当てる。

 すると、本は沈みこむようにして彼のからだのなかに吸い込まれていった。


 「最終決戦(フィナーレ)と行こう」


 つくしは両手に今まで溜めた膨大な量の魔力を込めた。


次回、最終決戦!

果たしてバトルになるのか!?



お知らせ

取り合えずこの章で一端完結させ、幕を下ろすつもりです。(たぶん@2話)

よろしければ評価感想レビューなど、準備して頂けるととても嬉しいです!

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