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3-7 絶望

まだ今日だ!

ほんとぎりぎり間に合った!

間に合ってる……よね?



 つくしは地上から空の青には不釣り合いな黒い巨塔を見上げる。


「とうとうここまできたか……」


 改めて近くで見る魔導塔は壮観だった。


 「すごいよなこれ、どうやって作ったんだか……」


 ラルドがつくしの横で同じように空を見上げて言った。

 道中、傭兵のなかに交じっていた彼と合流したのだ。


 「いるなら飯食べてる時にでも話しかけてくれたらいいじゃないか」

 「お偉いさんがいる前に一兵卒ごときが堂々と行けるか……」


 わかってはいるが、アウェーな空間で知り合いが欲しかったのにいなくてちょっとさみしかったので拗ねてみせた。


 「では、事前に話した通り騎士4名と兵士以下はここに残れ。賓客であるツクシ殿達はこちらへ」

 「はい」


 呼ばれることを確信していたつくしはにやりと笑った。


 「えぇ、お前も行くのか」

 「まぁ、賓客だしね」

 「大きく出たもんだ……」

 「事実だもん」


 絡んでくるラルドを適当にあしらい、つくし達は騎士たちの元へ行く。

 呼ばれると確信したのは子爵に「良かったらその料理を皇帝にも振舞ってやれ」と言われていたからだった。

 その真意は、帝国側に少しでも王国側の権威を底上げして見せつけたかったから。

 これほどまで文化の発展している王国を滅ぼすのはいかがなものかと、万が一の時のための小さな布石にしようと考えたのだ。

 テトラたちもついてきているのはどうしてもついて行きたいと言ったからだった。

 さすがに泣き付かれてはつくしもよんどころない。


 (まぁ、そのせいで昨日のうちに作法を叩きこまれたけどね……)


 つくしはまだしも礼儀作法の「れ」もしらないテトラたちに一から叩き込むのには手間がかかった。

 騎士の一人と夜通し練習し、腰をかがめすぎて今もじくじくと痛む腰をつくしは叩く。

 当の二人は稽古の時は疲れた様子だったが今は澄ました顔をしている。

 つくしは「若いっていいなぁ」とぼやいた。


 「準備、ノ方はヨろシイでしョうか?」


 塔の扉の前で微動だにせず待っていた、先日も来たものと同じ魔導人間が突然しゃべりだした。

 置物と見まがうほど塔と溶け込んでいたのでみんなぎょっとする。


 「あ、あぁ。お目通りを願おう」

 「了解いたシまシた。ご案内いタシます」


 魔導人間はそう言うと塔の扉にある幾何学模様のようなくぼみに手を押し入れ、ぐるりと手を回すとガリガリと歯車の回る音が響いて扉が開いた。


 「どうゾ、こチラニ」


 魔導人間が先行し、使節団一行はおっかなびっくり塔の中へと入ってゆく。

 

 「おぉっ……」


 するとその塔の中は予想以上に広かった。

 黒い塔の中にもかかわらず明るいのは壁についている小さな輝く球体のおかげだろう。

 それは魔力で動いていた。


 「さすがは魔力を集める場所……国の中枢か……」

 「綺麗っす……」

 「でも、なんかとても危ないような感じだわ」


 そして塔の中央。

 そこには目で見てわかるほどの魔力の奔流が上へと昇って行っていた。

 幻想的とも取れる暴力的なまでの魔力はフィーアの比ではない。

 いつ魔力が暴走するかわからない、バラの刺のような危うさをはらんでいた。


 「魔導式昇降機ガありマスのでソチらに別レてお乗りクだサい」

 

 言われるがまま困惑しながら柵が四方に付いた床の上に乗ると、その床がゆっくりと上昇を始めた。


 「な……!? これは……?」

 「床が浮いた……?」

 「魔法の一種か」

 「そノ通りデス。魔力ヲ浮力に置換シて浮かセテいまス」


 比較的落ち着いた様子の子爵の言葉に魔導人間は肯定した。

 魔力の扱いに王国以上の知識があることに子爵は歯噛みした。

 そして床は何階か経由した後に最上階で止まった。


 「こちらの扉の奥に皇帝陛下がお持ちです」


 そこから案内された先にあったのは3メートルはある大きな鉄の扉だった。

 重厚なそれはまるで他者を強く拒んでいるようで、ひどく冷たかった。


 「さぁ、行こうか」


 魔導式昇降機が数回に分けて全員を運び終わった後、子爵が一歩前に出て覇気を込めた声を張る。

 その声に騎士たちはもちろん、つくしたちまで背筋が伸びた。

 ここから先は国と国のぶつかり合い。

 戦場だ。

 踵をそろえて出兵の準備を整える。


 「シンリ王国使節団ノ到着でス」


 ガンガンと金属同士をぶつける音を響かせながら魔導人間はノックした後、扉に向かって言い、返事を待たずしてその重い扉を開け始めた。


 「ようこそ。王国使節団諸君」

 「ぁっ……!」


 正面のメカニックなデザインの玉座にローブを垂らして座るのは一体の甲冑。

 しかし姿は違えど、その甲冑は先日、話をしながら街を案内してもらった魔導人間の少年だった。

 その少年の魔力の波長はしっかりと記憶している。

 それと寸分違わない色をしているのだ。

 思わず声を上げそうになるのをつくしはぐっとこらえた。

 もしかしたら似ているだけで人違いかもしれないと首を振る。


 「この度は皇帝陛下にお目にかかれて大変光栄でございます」


 子爵がその場で膝をつき、騎士以下、つくしたちも同じように膝をつく。


 「あー……そういう堅苦しいのはいい。さっさと要件を聞こうじゃないか」

 「はっ! この度の帝国国内での動乱の詳細をお聞きしたく存じます」


 さすが場数を踏んできているだけあって子爵は適当な対応をする皇帝にも柔軟に対応する。


 「あぁ、この国を僕が滅ぼしたことね」

 「あなた様が……?」

 「そう。国も人も僕がすべて滅ぼした。聞きたいことはそれだけ?」


 衝撃の事実を告げられ、次の言葉を探している子爵に皇帝はつぶやくように言い放った。


 「君たち凡骨ごとき、死んでもこの世界は何も変わらないのだよ」

 「は?」

 「むしろ世界の邪魔でしかない。人間はそのことを理解せず、王者を気取って生きている。それが気に入らなかった。だから消した」

 「一体、何を……」


 子爵は恐ろしかった。

 この子供のような傍若無人な皇帝は次に何を言い出すのか。

 一人の考え方ひとつで国を滅ぼすなどあってはならない。

 個人がそのような強大な力を持つことはあってはならないのだ。

 だから怖かった。

 とんでもないことを言い出しても、それを実行できる力があるだろうことが。


 「始めよう。戦争を」

 「!? お待ちください! 急に何を――!」

 「待つも何も僕は君たちを認めていないよ。一人を除いてね」


 彼はそう言ってつくしの方をちらりと見た。

 暗い甲冑の目の中はゾッとするほど冷たかった。


 「外を見て御覧」

 「……!?」


 皇帝はさっと手を一振りすると建物の天井部分から壁が透明になり、最上階は外一面を見渡せる展望台となった。

 彼はカツカツを靴音を響かせ、透明になった壁に向かって歩く。


 「最近、この近くに巨大な魔物がすみついていたな?」

 「え、えぇ。ですからこの大所帯になったのです」


 言葉を失っていた子爵は我に返る。

 きっと先ほどのは何かの間違いだと信じて次の言葉を待つ。


 「なっ!?」

 「なんだ!?」


 すると突然、塔が揺れるほどの地震が起きた。

 

 グォォォォ……


 鉱山のあった方角。

 そこから地に響く咆哮と共に天を衝く金属のドラゴンが山を壊しながら起きた。


 「あれが、君たちに送る絶望だよ」


 皇帝は振り返り、輝く銀色の暴力を背に嘲笑して言い放った。

とうとう最終局面。

彼らはどう転んで行くのか。

まだ白紙。

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