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3-6 晩餐会

ヲ食事回


 「おぉ、来てくれたか!」

 「どうも」


 つくしは日を改め、街から少しだけ離れた荒野に展開されている王国の使節団のキャンプ地に来ていた。

 そこで昨日貰った紹介状を警備していた人間に見せるとすんなり通してもらえた。


 「そう言えば名を聞くのを忘れていたな! 私の名はジェイド・クロムウェル。ここの大隊長をやっているものだ。今日はよろしく頼む」

 「大隊長……僕は一応冒険者のつくしです」


 思ったより大きな役職につくしは驚く。

 しかし、それは好都合。

 偉い人間とコネクションを作って悪いことなどない。


 「ツクシか! 面白い名だな!」


 快活に笑う彼は実に機嫌が良さそうだ。


 「やっと飯を作ってくれるという者が来たか!」


 テントの幕を翻して入ってきたのは見るからに高官と言った風情の高級感溢れる黒い服を来た壮年。

 余程楽しみにしていたのか目が爛々と輝いている。


 「おぉ、貴君か!」


 ずんずんとつくしの元へ歩いてくると彼の手を握った。


 「私はこの使節団の代表をしているレッケル・ナウド子爵だ。今日は宜しく頼む!」

 「は、はぁ……」


 子爵まで出てきてこれほど期待されては、下手なものを出せない。

 つくしは苦笑いで返しながらメニューを今一度、考え直すことに決めた。


 「では、出来上がるまで少々お待ちを」


 今回は魔力で作った謎肉ではなく、道中狩った猪の魔物の肉を使うことにした。

 何でも作れるが故の大鍋を再現(リプロ)と気合いで作り、そこに倉庫(ストレージ)からだした下処理済みのジャイアントボアの肉をぶちこんで煮込む。

 その間にせっかくだから米を同じ要領で炊く。


 「魔法使いの料理人か……初めて見るな」


 レッケル子爵が感心したように料理を作るつくしを見る。


 「あとは半時ほどお待ちを」

 「ぬぅ……長いな」


 そうはいってもまだ昼時より早い。

 つくしはこの「おっさん、せっかちだな」と思ったが、気づけば匂いにつられて騎士や兵士と雇われ冒険者の人だかりができていた。

 余程うまい飯に飢えているようだ。



 

   ―――――――――――――――――――――――




 「こちら、ジャイアントボアの煮込みと銀の穀物です」

 「おぉ、刺激的なよい香りだ……では早速」


 料理が出来上がり、つくしが取り分けると子爵はなんの疑いもなくすぐに肉を口にした。


 「なんだこの味は……」


 初めて食べる味に目を見開きながら子爵は白米と一緒に肉を口のなかにかき込んだ。


 「ジャイアントボアの固い肉質がほどけ、うまい油とこの穀物が何ともよい具合だ」


 それから彼は体裁など気にせず、一心不乱に食べ始めた。


 「これ、あのジャイアントボアの肉だよな……?」

 「信じられん……」


 兵士たちが口々ににやけた顔で驚きを言葉にする。

 涎を垂らして見られていたら流石に無視できないので結局全員に振る舞ったのだ。

 すると、配膳するや否や勢いよくかぶり付き、なかには涙を流しているものさえいてつくしは少し引いた。


 「ご主人、お皿が無くなったっす!」

 「こっち肉が足りないわよ」


 その配膳にはテトラとフィーアが手伝ってくれた。

 宿で待っていても良いとは言ったのだが、付いてくると言い張ってみんなできていた。

 だが、結果としては良かった。

 みんな食べるばかりで手伝う余裕のありそうな人は居なかったから。


 「これほどとはな……どうだ? 暫くの間、雇われないか?」


 その子爵の提案につくしは頷いた。


 「そうですね。ここにいる間くらいでしたら」

 「そうか! これは僥倖。危険で嫌な旅とは思ったがとんだ巡り合わせだ!」


 子爵は実に嬉しそうに手を叩いて笑った。

 周りの兵士たちもその決定に全面賛成で喜びの声をあげている。

 それから子爵は小声でつくしに話しかけてきた。


 「もしなんだったらうちの屋敷で料理を作らないか? 厚待遇を約束するが……」

 「いえ、もう少し世界を見て回りたいので」

 「そうか……だが、何かあればぜひうちを頼ってくれ」


 まだ世界を見て回りたい旨を伝えると、子爵は大変残念そうな顔をした。


 「コンにちワ。ヲ食事中の所、失礼しマス」


 よく食べる彼らのお代わりに対応していると、一人の礼装を纏った魔導人間がキャンプの前に来ていた。


 「皇帝ガ、ヲ呼びです。どウぞ、魔導塔へとヲ越しクダさイ」


 彼はそう告げると一つの礼をして去っていった。


 「相変わらず勝手な奴だな新皇帝とやらは」


 静かになったキャンプ地で子爵がぼやいた。


 「各自、急ぎ面会の準備をとってくれ!」

 「「了解!」」


 流石は使節団の訓練された騎士たち。

 命令ひとつで兵士たちを纏め始めた。


 「あの、私は……」


 先程とはうってかわって剣呑とした喧騒のなか、つくしは騎士たちに細かく指示を出す子爵におずおずと尋ねる。

 すると、子爵は顎に手を当て「そうだな……」と呟いた後に続けた。


 「ここに一人残すのも良くないな……来るか?」

 「是非」

 「よし、じゃあ服を貸しだそう。貴君の身分は賓客だ」


 子爵はそう決めると兵士の一人を捕まえて礼服を持ってこさせた。

 早速、皇帝に会うチャンスがめぐってきたようだ。


変なしゃべり方の魔導人間ですね。


書いてたらお腹すいてきた……。

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