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3-5 詮索

なんとか今日中に間に合った……。


同じ顔の人がいっぱいいたらさすがに怖いですよね。

 次の日、最寄の宿で一夜を明かしたつくしたち一行は、案内された場所を便りに皇帝についての手がかりを探していた。

 一国を敵に回す気はないが、現皇帝が誰でなんの目的で人々を、街を消したのか。

 それを知りたかった。

 知ればこの国が敵か味方かくらいは分かるから。


 「しかし、宿屋に人がいないのもそうだが……食事どころに人がいないのは困るな」


 泊まった宿にも出店にも人はおらず、廃屋のようになった建物が数多くあった。


 「道には魔導人間が沢山いるのにどうなってんだ?」

 

 道には3歩歩けば人と当たるくらい魔導人間がいて、なにも言わずに何処かへ歩いて行く様は打ち捨てられた廃墟の中をさ迷う亡霊の様で薄気味悪い。

 

 「あのー……どちらへ向かわれているんですか?」

 「……」


 その中の一人に話し掛けるが、無視して行ってしまった。

 忙しかったから無視されたのかもしれないと他の数人にも話し掛けるが、やはり完全に無視される。


 「門番の人は話せたのにな……」


 これでは本当にただのロボットだ。


 「よし、後を付けてみるか」

 「段ボールはもったのです?」

 

 何かこの国の秘密を握れるかもしれないという根拠のない自信を持ってつくしは一人の魔導人間の後を付け始めた。


 「段ボールって何?」

 「テトラもわかんないっす」


 しおりの言う聞いたことのない単語に首をかしげるテトラとフィーア。


 「あ、道なら私、分かりますからね? 分かりますからね?」


 そして心配そうに自分の役割を主張するCA-37に適当な返事をしながら鉄の人間の足跡を追った。




   ―――――――――――――――――――――――




 「シー。この場所はなんだ?」


 つくしは後をつけていた魔導人間が入っていった場所を見ながら聞く。


 「どんな場所ですか?」

 「鉱山かな。なんかトロッコとかあったけど」

 「帝都近くの鉱山と言うとカナル鉱山ですね」

 「何が出るんだ?」

 「主に鉄です」

 「鉄か……」 


 およそ彼らの体を構成する素材を集めているのだろう。


 「ご主人、またきたっす」

 「ほんとだ……いくらなんでも多くないか?」


 入れ替わり立ち替わり代わり映えのしない魔導人間が茶色い鉄鉱石を持って出てくる。

 その数は入り口が埋まるほどで、いくらなんでも多すぎる。

 街の他のことをほっぽってこれほどの規模で鉱山を掘るのはおかしい。

 しかし流石に中まではいる勇気はないので、今度は鉱山から帰る魔導人間の後をつけてみる。


 「ここは……魔導塔……」


 すると彼らは家に帰るのではなく、魔導塔へと足を運んでいた。

 その入り口には最初に会った門番の魔導人間のような少しごつい装備をしている警備兵が微動だにせず立っていた。


 「さすがに部外者が入れはしないよね……」


 建物の陰でつくしはこれ以上の詮索は無理だと判断して踵を返した。


 「あ、人がいる」

 「ほんとだ」


 最後尾にいたフィーアが見つけたのは恐らく使節団の一員なのだろう騎士のグループ。

 何やら不機嫌そうに話しながら歩いてきていた。

 そして、そそくさと退散しようとしていたつくしに気づいて話しかけてくる。


 「おい、そこの」

 「はい、なんでしょう」


 フィーアの魔力は常に吸っていて魔女だとばれないだろうから、恐らくつくし自身に話があるのだろう。

 面倒だなぁと心の中で思いながらつくしは応対した。

 こういう輩は無視したらもっとめんどくさいことになる。


 「お前も人間だよな?」

 「はい」

 「こんな場所にいるとは何者だ?」

 「旅の者でして、ちょうど通りかかったのです」

 「おぉ、ちょうどいい! 何かうまい食い物もってないか? 金はちゃんと払わせてもらう」

 「食べ物……ですか?」


 思えばもうお昼どきだ。

 テトラのお腹もなったのを聞いてつくしは「ついでだしいいか」と思い、ごちそうをすることにする。


 「いいですよ。適当な所で食事にしましょう」

 「いよっし! あ、携帯食料とかっていう落ちじゃないよな?」

 「生ものですよ」

 「生もの!? 腐ってないのか!?」

 「えぇ、ちょっと特殊な保存方法でしてね……」


 騎士たちから期待のまなざしを受けながら元は食事処だったのだろう店の中に入り、騎士団を机で待たせると厨房を勝手に借りて昼食を作り始めた。

 不法侵入だが正義の騎士団が何も言わないのだ。

 それにどうせ廃虚のようなものなので文句を言う人がいない。

 それから半時ほど後、出来上がったものはシチューだ。

 人数が多いのでお替りも楽なものにした。


 「はふっ、はふっ」

 「う、うまいっ! この味はなんだ!?」

 「こんなうまいものがあったんて……」


 木のスプーンをなめとりながら騎士団が舌鼓を打つ一方、そのテーブルから離れたところに座るテトラとフィーアはいつも通り黙々と食べていた。


 「ね? これが普通の反応なのよ」

 「はぇー……つまりご主人はすごいってことっすね!」

 「まぁ……そうね」


 確かにすごいのだがなんとなく魔法使いとして納得のいかないフィーアは生返事で答える。


 「いやぁ、ここ数日、干し肉やら携帯食料ばかりで飽き飽きしていたんだ。助かったよ」

 「騎士の皆さんのお力になれたのなら幸いです」

 「これほどうまいものを作れるのだ。どうだ? うちに来てしばらく料理番でもしてくれないか? 報酬は弾ませてもらう」

 「はぁ……しかし――」


 さすがにずっとは面倒だと思って渋い顔をしたつくしだったが、損得勘定をして思い直す。


 「いや、そうですね。お受けいたしましょう」

 「本当か! よかった。じゃあ紹介状を書くからちょっと待っててくれ」


 そう言って彼は腰のポーチから小さな紙を取り出して紹介状を書きはじめた。

 即決できるという事は結構な身分なのだろう。


 「騎士さんたちは使節団の方ですよね? 何か収穫はありました?」

 

 なので、その間につくしは世間話のように話を切り出した。

 先に来ていた使節団で上の立場の人間なら何か重要な話を知っているかもしれない。

 しかし、彼は首を横に振った。


 「いや、まったくだ。市民に話を聞こうにもだんまりだし、新皇帝とやらには面会の準備とやらで待たされるわでいい加減苛々してきている」


 彼はそう言って歯噛みした。

 帝国側の態度は王国に喧嘩を売っているようなものなのだろう。


 「よし、書けた。それじゃ、準備ができたらこれもってきてくれ。よかったらこちらで止まる場所なども手配しよう」


 それから騎士たちは何回かお替りをした後、またうまい飯にありつけるとホクホク顔で喜んで帰って行った。

 去ってゆく彼らの姿を見ながらつくしは皇帝に近づけるうまい話しにありつけたと、紹介状を握ってほくそ笑んだ。

 



人の三大欲求の一つは強かった。

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