3-3 グルマン帝国
早めにかけた!
ストーリーは現在進行形で構成されてます。
「ご主人! あれ!」
「なんだあれ!?」
テトラの指差す先。
そこには巨大な建造物が水平線の上に建っていた。
「黒くて大きな建物なのです」
「あぁぁ……」
つくしたちは地図を頼りに街の中心まで来ていた。
灰色の街の中に突然現れたその巨大な黒い建造物は異様で威圧感を与えている。
それを見てフィーアが頭を抱えた。
「CAの……なんだっけ……まぁいいや。シーエー、あの黒くて大きな建物はなに?」
「それは恐らく魔導塔のことですね?」
「魔導塔?」
「はい。地脈から魔力を集める中枢機関です」
「魔力を集める……君たちの燃料?」
「そういうことになりますね」
いわば石油の採掘場の様なものだ。
「周辺には私たち機械や魔導車などの生産工場がまとまってあります」
「なるほど」
燃料が集められ、工場が集積していてそこだけ無傷と言うことはそこがクーデターを起こした機械の人間の本拠地なのだろう。
おあつらえ向きに国の中心にあるので間違いない。
「早速行くか!」
「なのです!」
「あぁ……あんな物造る所にいくなんて……」
「ご主人がついていれば大丈夫っすよ!」
「そんなこといったってぇ……」
何処までも消極的な魔女を乗せたまま、ジープは整備された大通りを走った。
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もう目的地が見えて地図も必要なくなったので、まっすぐ塔に向かって走ると段々と全体像が見えてきた。
「工場都市か……」
魔導塔の周辺には多くの工場が並び、その外周を囲うようにして無数の家が立ち並んでいた。
「はい。帝国の中心にあたるこの工場都市には全帝国民の約7%が集中しております」
「少ないようで多いのです」
しおりの言う通り地味に多い。
そのせいか、これまで見てきた街とは違って建物の密集度がとても高く感じる。
土地はあるのに人が集中する理由はやはり魔導塔が原因だろう。
「そう言えばここまでくるのに入国検査とかなかったけど、良いのかな」
「え!? 受けてらっしゃらないのですか!?」
「いやだって滅びてんじゃん」
「あ、そうでした」
本気なのか冗談なのかは見えない表情と平坦な声でわからず、つくしはCAのボケに振り回される。
「ま、なんか言われたらその時はその時だ」
「問答無用で殺されたりしないわよね?」
「もぅ、フィーアちゃんは心配性っすねぇ」
「いやいやテトラちゃんたちが楽観しすぎなだけだからね!?」
ぎゃーぎゃーと押し問答を繰り返すうちについに帝国の中心都市が目の前に迫ってきた。
そこではしっかりバリケードが道に張られ、物々しい雰囲気の警備兵が守っている。
「止まれ! 所属する国と目的を言え!」
メタリックな宇宙服の様な格好をした兵士が銃のような小筒を空に向けたまままま言った。
「えーと、王国から来た観光目的の者です」
嘘を言ってもしょうがないので正直に王国から来たと言うと、そのスチームパンクの様なごてごてしているデザインの兵士は警戒を解いた。
「また王国からか」
「またって僕たちの前に誰か来ているんですか?」
「あぁ。なんでもシンリ王国の使節団とか……あ、これ秘密な」
「わかってますよ」
この軽い感じだったらもう少し話せそうだと思ったつくしはいろいろと聞いてみることにした。
「ところでマシン帝国が滅んだと聞いたのですが……」
「あぁ、そうだ。俺達魔導人間が滅ぼして、新しく国を作ったんだ」
「新しい国ですか」
「そうだ。グルマン帝国という」
自分の武勇伝のように語る口の軽い兵士に、つくしはもう少し掘り下げてみることにしてみる。
「ここにくるまでの街のことごとくが破壊され、人が全くいなかったのですが……」
「あぁ。人は皇帝が消したんだ。街は盗賊とかが根城にしたら困るってことで壊したそうだ」
「全部皇帝さんがやったんですか?」
「そうだ。すごいお方なのだ」
「でも人を消すって……」
「ひぃぃ」
顔を青くして車の中に隠れるフィーアを見て魔導人間の兵士は笑った。
「ははっ、大丈夫だよ。そのうち皇帝が発表するだろうが、他の国の人間に危害を加えようって気はない。俺達はあくまで旧帝国の人間たちに恨みがあった訳だからな」
「恨み、ですか」
「あぁ、何せ、俺達は元々普通の人間だったからな」
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その後、簡単な入国証明の書類を書くと口が滑らかな魔導人間兵士に礼を言って、つくしはなんの問題もなくすんなりと帝国へと入国した。
「案外フランクだったな」
「そうですね」
流石に新しい国は見ていて楽しいのか、しおりがフードの中から顔を出して周りを見ている。
都市の中は工場都市と言っても油臭いと言うより、ひんやりした肌触りの空気が都市に漂っていた。
「もう逃げられない……それならもういっそこの状況、楽しんでやろうじゃないの!」
「おっ、フィーアちゃん! そのいきっすよ!」
あれほど徹底的に町を破壊する様な人物がいる国の中心まで来て、とうとう自棄になったフィーアが腕を組んでシートに体を預ける。
「にしても人を消す皇帝に人間を元にした魔導人間か……予想以上に謎と闇が深そうだな」
「気を付けてゆくのです」
そしてジープをゆっくりと走らせ、歩道を歩きながら物珍しそうにつくしたちを見てくる機械の人間を眺めていく中に、いるはずのない生身の人間が一人目に入った。
それも見覚えのある顔が石畳を飄々と歩いていた。
「お前は……ラルド!」
「あ? ……おぉ! ツクシじゃないか!」
そこにいたのはこの世界に来て最初の頃に出会った金に抜け目のない男、ラルドであった。
まさかの再会です。




