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3-2 機械の国の案内人

何も見ずに新宿で群馬に向かえって言われても困るよね。

そんな感じの感覚。

 「で、その国の中心はどこだ」

 「全然わからないのです」


 中心に向かうとは言ったはいいが、行く先々の案内板は破壊され、マシン帝国の地図を見たわけでもないので全く道がわからなかった。


 「もう諦めて帰りましょうよぉ……」


 なので適当に走っていたが行く先々が灰色の街で同じ景色ばかりか続き、つくしたちはゴールが見えない旅にいい加減飽き飽きしてきていた。


 「おっ、あれは……」

 「建物があるのです」


 そんな時、いくつめかの街の中に壊されていない一角を発見した。

 さっそく近づいてみるが、やはりそこも人の気配がない。


 「だれかいませんかー?」

 「おーい」

 「こんにちわー」


 ジープをゆっくりと走らせながら静かな街に呼びかける。

 彼らの声が空しく空の街に反響した。

 と、その時だった。


 「コンニチワ」


 声がした。

 

 「だ、誰!?」


 その声は近くの建物の中から聞こえてくる。


 「行ってみよう」

 「えぇー……罠かもしんないわよ?」


 確かに声は人のそれと比べて少し異質で機械的なしゃべり方だった。

 もしかしたら機械の人間の仕掛けた罠の可能性も考えられる。

 しかしこんな誰もいない廃墟の国で少しでも手掛かりをつかみたいと思っていたつくしはこのチャンスを逃すまいと車を降りて声の主を探した。

 声のした建物の表には総合案内所と書かれた木の板がかけられている。


 「……こんにちわ」

 「コンニチワ」


 中を覗いて見るが、代わり映えのない灰色の室内に枯れかけた観葉植物が置いてあるだけで誰もいない。


 「何処ですか?」

 「コンニチワ」


 薄暗い建物の奥。

 そこから声が響いてきていた。


 「こんにちわー……」


 そっとカウンターの後ろにある用具置き場のような所を覗くと、そこには壁に掛けられた一台の四角い機械があった。


 「コンニチワ」


 声が響くと同時にその機械は青いランプを点灯させた。

 どうやらこの四角い武骨な機械がしゃべっているようだった。


 「なんだ……」


 やっと喋られる人がいると思ったのに、その正体はただ同じ言葉を繰り返す機械だと知ったつくしはがっくりと肩を落とした。


 「この箱がしゃべってたっすか?」

 「そうみたいだね」


 テトラがつくしのわきから出てきてその機械をひょいっと壁から取った。

 そしてひっくり返してしげしげと見ている。

 機械なんて初めて見るだろうから好奇心が疼くのだろう。

 でも、なんか引っ掛かる。

 なぜ、ただの機械が一つだけここにあるのだ?

 不自然じゃないか?

 狭い室内に一つの箱。


 (まさか――)


 フィーアが危惧していた嫌な予感が脳裏を掠めた瞬間、ブゥンという音がして機械のランプが赤く光った。

 それは嫌な予感を確信に変えるのには十分な変化だった。


 「テトラ――!」

 「逃げてっ!」


 一番警戒していたフィーアがその変化に危機感を感じ、つくしの声に被せて叫ぶ。


 「ふぇ?」


 だが当の本人は事の重大さに気づいていないのか、機械を抱いたまま間抜けな声を出した。


 (間に合えっ――!)


 つくしは手を伸ばす。

 その距離は後数歩なのにとても遠く感じた。


 「あ、お客様ですか?」

 「は?」

 「魔力残量4%。枯渇シテイマス」

 「申し訳ありませんが魔力の供給をお願いできませんか?」

 「え? あぁ」


 急に聞こえた平坦だが人間っぽい声に戸惑いながらつくしは言われた通り魔力を込める。


 「あ、後ろの出っ張りの、ランプのとこにお願いします」

 「こ、ここ?」

 

 淡々と指示されるがまま赤く光るランプに倉庫(ストレージ)からだした魔力を込めて行く。


 「あ、あ、いい感じです。魔力充填率50%。もう大丈夫です。活動できます」

 「それで……君は誰?」


 すっかり毒気を抜かれたつくしは「箱のなかに誰かいるっすか!?」と目を輝かせるテトラに持たれたままの機械に問いかける。


 「私はCA-37号、案内魔導機械です」


 機械は緑色の光を点滅させながらそう言った。


 「案内魔導機械?」


 初めて聞く単語につくしは首をかしげた。


 「はい。このマシン帝国の案内をさせていただいております。道をお尋ねになるだけでも、観光案内でもなんでもお申し付けください」

 「……マシン帝国が滅んだのは知ってる?」

 「え!? 滅んだのですか!?」


 感情こそ見えないが、CA-37号はその平坦な声の中に狼狽をにじませる。

 どうやらこれは滅ぶ前のマシン帝国の遺産らしい。


 「だから最近、魔力の充填が行われていなかったのですね。納得しました」

 「納得してるとこ悪いけど、案内って言うことはこの国の地理は分かるんだよね」

 「もちろんです! お任せください!」

 「それじゃ、頼むよ。この国の中心まで」


 つくしは思わぬ収穫に頬を緩ませる。

 人はおらずともやけに人間的な案内ロボットを手に入れたつくし一行は、再び国の中枢へ向けて出発した。




   ―――――――――――――――――――――――




 「まずは正面左のモニュエル雑貨店を右に」

 「……」


 つくしはCA-37号を背負い、ハンドルを握る。


 「そこから大きなスツの塔が見えるまでしばらく道なりにまっすぐです」

 「……わからん」

 

 カーナビのように道を教えてくれるのは有難いのだが、根本的な問題がある。


 「すいません。旧型なもので……情報が古いかもしれません」

「いや、そういう問題ではないのだが……国が滅んだから街が無いんだよ……」

 「あっ、そうでした。滅んだのですよね。どうしましょう」


 そもそも街がないので固有名詞を言われてもさっぱりだった。

 案内ロボットなのに全く案内できていない。


 「あ、もしアレだったら地図出しましょうか?」

 「最初からそれ出してくれない!?」


 地図があれば道と方角を見ながら中心へ向かうことが可能。

 わざわざ案内されるより確実だ。

 どうやらこのロボットはポンコツらしい。

 つくしは妙に人間味があってロボットらしからぬ言動をするCA-37号が、正面についているライトで帝国の簡易地図を映し出すのを見て嘆息した。



ポンコツ機械は可愛いよね。

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