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2-7 魔女狩り3

今日2章終わるっていっちゃった。

書いたけど少し長くなったので午後にもう1話投稿するよ。


復讐はする相手にもよるよね。

 「あ、あぁ……」


 老人は腰を抜かして地面にへたりこんだ。

 そのあまりに恐ろしい光景を目にして。

 

 「お怒りじゃ……」


 長いときを生きてきて、今までこんなことはなかった。


 「神のお怒りじゃ……!」


 老人は自らの行いを悔いた。

 それは自らの首を絞めるだけでなく後世の人々の安寧すら奪うものだと知って。

 ただ許しを乞うために何時までも何時までも、紅蓮に染まった空に祈り続けた。




  ―――――――――――――――――――――――




 「本当にこれでばれないの?」

 「もちろんだとも。僕としおりを信じるといい」

 「なのです」


 つくしたちはメイロゥの町まで降りてきていた。

 フィーアを連れて。


 「あ、今あっちの人私の方見た!」

 「自意識過剰だよ……」


 しかし、フィーアが魔女であるとばれることはなかった。

 何故なら――。


 「しおりが常時魔力吸ってるんだから」

 

 しおりによる魔力の吸収をフィーアを対象にしているのだ。


 「で、でも……」


 しかし、フィーアはかなり不安そうにつくしの袖をつかむ。


 「フィーアが可愛いからみんな見ているんだよ」

 「なっ! あっ、そ、そう」


 つくしがちょっと誉めると顔を赤くしてうつむいた。

 誉められなれていない少女はちょろかった。


 「それじゃ、僕らは全力でフォローするから計画通りやっちゃって」

 「うん……!」


 町の中心の広場まで来たところで物陰に入り、つくしはフィーアを促す。

 フィーアは着ていたローブのフードを目深にかぶり、つくしが再現(リプロ)で生成した狐のお面をつけると茜色に染まる空を飛んだ。

 時刻は夕方。

 その日の仕事を終え、人々が油断する時間帯。

 そこを狙った。

 夕日が眩しいせいかフィーアを見上げる者はまだいない。


 (こいつらがお母さんを……!)

 

 空から蟻のように蠢く人々を睥睨する。

 のんきに言葉を交わし合う彼らに沸々と胸の奥から怒りが込み上げてきた。

 なんでこんなやつらのためにお母さんが殺されねばならなかったのか。

 なぜ自分だけが肩身の狭い思いで怯えながら生きなければならないのか。

 彼らの上に立っているという圧倒的優越感が怒りを増幅させ、気を大きくさせたた。


 「人々よ! 刮目するが良い! 私は魔女! 森の魔女だ!」


 張り上げた声に誰しもが空を見上げた。

 そして魔女と言う単語を聞き、ざわめきだした。


 「貴様たちは私の母親を殺した! これはその報復だ!」


 そうしてフィーアは魔法を練り始めた。

 それは圧縮した空気に雷をぶつける極大魔法だ。

 逃げているとき母親が振り向きざまに撃った魔法であり、全てを恐怖に陥れた魔法。

 しかし、フィーアはその効果を知らなかった。

 気がついたら自分達を追っていた者たちが尻尾を撒いて逃げていた。

 庭先で真似して撃ってみたりしたのだが、なにも起こらなかった。

 だから恐ろしく、強大な魔法なのだろうという認識しかない。


 (でも、この規模だったら……!)


 今、彼女の体には半日分の魔力に加え、つくしたちが集めてきた魔力の一部が送られてきていた。

 それはもはや使い方次第では町ひとつが消し飛ぶほどの魔力量。

 それを一つの魔法に込めたときの規模は計り知れなかった。

 みんな死んでしまえ、殺してやると黒い感情が囁く。


 「逃げろ! 女子どもは中へ!」


 ようやくこれが現実だと悟った町の住人が悲鳴をあげながら急いで逃げるが、時すでに遅し。

 魔法はもう完成している。

 でも、フィーアにはまだ覚悟が足りなかった。

 その魔法を人混みのなかに放つことをためらった。


 (本当にこれが正しいの?)


 魔法を見せたとき、つくしは言った。

 この魔法は『無差別に人々を殺す』と。

 殺してしまって自分は満足なのか?

 後悔しないのか?

 その答えを探す時間はなかった。


 「あっ、と、止まって……!」


 強大過ぎる魔法の奔流はすでに制御が効かなくなっていたのだ。

 スパークが激しい音をたてて遥か上空で跳ね、気圧がどんどん低くなって行く。

 もう後戻りはできなかった。


 バチッ、バチチッ


 激しい音と光を発して魔法が発動した。

 恐らく残酷な風景が広がると思ったフィーアは反射的に目を閉じた。

 そして悲鳴がやんだ。

 辺りが静寂に包まれる。

 みんな死んでしまったのだろうか?


 「あれ……?」


 薄目を開けると、人々は無傷であった。

 そしてみんな空を見上げている。

 

 「え……?」


 その視線の先を追ってフィーアも空を見上げると、そこには赤、青、紫と色とりどりに輝く空があった。

 若者は空を覆うほどの魔法に開いた口が塞がらず、老人は神罰が下ると恐れ、子どもは目を輝かせて空を見上げた。


 「どういう……こと?」


 緊張が抜けてへなへなと地面に落ちて座り込んだフィーアにつくしは笑いながら近づいた。


 「大量殺人にそう易々と荷担するわけないじゃないか」

 「でも、一杯殺す魔法だって……」

 「嘘っぱちだよ。少なくとも心の鬼は殺せたかもしれないけど、このあともなんにも起こらない」

 「そんな……」


 フィーアの心は揺れていた。

 行き場をなくした復讐心と霧散した怒りで心にぽっかりと穴が開いた。


 「殺すことだけが復讐なのか?」


 つくしの言葉が胸の開いた心に突き刺さる。

 

 「誰かを殺せば別の誰かが君を殺しに来る。君がそうしようとしたように」


 それは繰り返し。

 復讐の連鎖。

 終わることのないウロボロスの環だ。


 「永遠に解り合えないなら挑む気をなくさせてしまえば良い。神にも等しい力を見せつけてやれば良い」


 人々にとってみればそれは天変地異。

 神の所業だと思うものもいるだろう。


 「神様に挑む馬鹿なんていないだろ?」


 そう言ってつくしは笑った。


 「私は……私は、お母さんの敵を――」

 「きっとそんなことは望んでいないよ。こんな優しい魔法を作れるんだもの」

 

 そう言われた途端、フィーアの目から涙が溢れた。

 全部終わったのだと。

 これ以上なにも失うことなく、終わったのだと。


 「フィーアちゃん」


 静かに成り行きを見守っていたテトラが微笑んで腕を広げ、フィーアを呼ぶ。

 フィーアはふわふわの腕の中に飛び込み、空から光が消えるまでわんわん泣いた。

 この時、長かった魔女差別は無くなり、フィーアの復讐劇は幕を閉じた。


細かい説明はいいんだ。

心で読もう!

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