2-6 魔女狩り 2
誰だってそりゃあおこりますよ。
「どうぞ、あがって」
フィーアがお腹いっぱいになるまで食事をつづけた後、つくしたちは彼女の家にお邪魔した。
内側も外装と同じく素朴で調度品はあまりないが良い家だった。
「一人で住んでるの?」
「……うん」
フィーア自身、なぜつくしたちを家に入れたのかわかっていなかった。
ずっと一人でさみしかったのかもしれない。
話し相手がいなくて人恋しかったのかもしれない。
でも、ずっと話してなかったせいで人と話すときにどうしてもどもる。
それが少し歯がゆかった。
「一人なのはやっぱり、君が魔女で魔力を持ってるから?」
「……っ!」
つくしのその言葉に少女は強く反応した。
そしてつくしを威嚇するような怯えるような眼で睨む。
「いやいや、だから価値観とか違うっていったでしょ? 魔力を持ってるからってどうこうしようって気はないよ」
「……」
つくしが両手を上げ敵意がないことを知ると少女は静かに威嚇を止めた。
どうやら何か深い遺恨があるらしいことを悟ったつくしは詮索するのは落ち着いてからにしようと考えた。
「お母さんが言ってた。何かされたらお礼は必ずしなさいって。だからその、おいしい食事の御礼にお茶くらいは出す」
「ありがとう」
そのお母さんが見当たらないのは恐らく――。
(いや、止めておこう)
つくしは気づかない振りをしておく。
「お母さんはどこっすか?」
「うぉぉい!?」
聞かないようにしようと思った直後にテトラが言う。
つくしは思わず突っ込みを入れた。
「死んだわ」
だが、答えた少女の顔は悲しみではなかった。
「人間に殺されて」
その顔は憎しみに満ちていた。
歯を食い縛り、怨敵がここにいれば食いちぎってやるぞと言わんばかりの表情。
つくしはここに原因があるのだなと確信した。
魔力を持って産まれ、そのせいで迫害されてこんなところまで追いやられた。
そう言うことなのだろうと。
「よかったらその話、お茶を飲みながらでも教えてくれないかな。力になれることがあるかも」
「……いいよ。話してあげる。人間がいかに怖いか。どうして私のお母さんが死んだのか」
つくしは出されたひどく苦い茶をすすった。
―――――――――――――――――――――――
「――だから私は人間が嫌い。だいっ嫌い」
「……」
語られた内容は酷いものであった。
魔力を持って産まれた彼女の母親は気味悪がられながらも人の社会の中で暮らしていた。
普通に育ち、普通に結婚した。
だが、子どもは普通ではなかった。
産まれてきたフィーアもまた魔力を持っていたのだ。
これに恐れをなしたのが人間。
特に年配層だった。
放っておけば魔物と同じように魔力をもって産まれる魔人が、魔女が増え、人間は内側から滅ぼされるとか忌み子は潰すべきだとかいろんな理由をつけられ、ここまで逃げてきた。
その時のバッシングに実の父親も加わっていたと言うのがまた胸くその悪い話だ。
それから人々に恐れられながら森の中で暮らし始めた。
しかし――。
「なんで放っておいてくれなかったの? 静かに暮らしていたかっただけなのに!」
「……」
森の中に入ってきた魔女排斥派の一部が彼女たちを「狩り」に動いたのだ。
魔女狩りだ。
彼女たちはすぐに察して家を焼かれたらたまらないと迎撃に出て何とか追い返せたが、その時に母親がフィーアをかばって負傷し、それが原因で亡くなったということだった。
「僕は――僕にはなにができる?」
「なにもできない。もう、過ぎた事だもの」
フィーアは沈んだ顔をした。
つくしは自分が万能でないと知っている。
人を生き返らせることなんてできないし心理学に精通しているわけでもない。
だから何とかするのではなく少しでも良い方向に持っていけたら良い。
「でも、何かしてやろうよ。君をひどい目に合わせたやつに」
だからつくしは提案した。
彼女を縛る心の鎖を取るために。
「な、なにをするの……?」
「復讐さ」
悪い顔で話始めたつくしに困惑顔だったフィーアも仕返しの方法を一緒に考えるうちに同じような悪い顔になっていった。
「それ、いいわね」
「……でしょ?」
苦いお茶は最後まで苦かった。
―――――――――――――――――――――――
「魔女ってどう思います?」
一旦街に戻ったつくしは魔女に対する意識調査を実施した。
彼女の家までの道はすでに記憶してあり、しおりのナビと魔物への迎撃で問題なく往復できる。
対象は町の人々。
大人から子どもまでだ。
「魔女? 昔見たことあるぜ。ありゃあバケモンだ」
「言ってしまえば魔物でしょ? そんなのが身近にいるなんてあり得ないわ」
「魔人は災厄をもたらす……かつて栄華を誇った国が魔人の襲撃によって一夜で滅びたと言う話もある」
「魔女ってすっげーこぇえんだろ? 母ちゃんが言ってた!」
大体の反応は魔女=恐ろしいものであった。
恐らく到底受け入れられるものではないだろう。
「という事をみんな言っていたよ」
つくしは調査結果をテトラと一緒に待たせていたフィーアに伝えた。
自分とは違うものは差別し少数派は何時だって迫害される。
人とはそう言うもの。
つくしが今まで経験した来たことと同じく数は力なのだ。
「解り合えないんだ」
「そうだね。予想通りだ」
一晩待たせている間にずいぶん仲良くなったようで、テトラはフィーアの足の間にすっぽり収まり、フィーアはそのテトラの頭に顎をのせて沈んだ表情を見せている。
「話したら、ツクシさんやテトラちゃんみたいに解り合えるかもしれない」
「例えそうだとしても君のお母さんみたいに泡沫の夢だよ」
一時はなか良くできるかもしれない。
でも明確な違いがあれば解り合えやしない。
「じゃあどうするの? 私はどうしたらいいの?」
フィーアは頭を振る。
どうしたら良いか解らなかった。
今まで逃げてきたから人とのつきあい方なんて分かるはずもない。
「やっぱり計画通り力を見せて脅すしかないかもしれないね。君はそれほどの魔力があるんだ。なにかすごい魔法を使えるんだろ?」
「一応、身を守るための魔法はお母さんに教わったけど……でも、そんなすごいものは使えない」
「お母さんが来たやつを撃退したときはどうやったの?」
「効果はわからないけど、それもお母さんに習ってる……見た方が早い」
フィーアはそう言って庭先に小さく魔法を放った。
「これは……なるほど」
それはこの世界に来てから初めて見る魔法でとてもすごい魔法だった。
次でダンジョン編は最後。
ダンジョンおまけ過ぎ。