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2-5 魔女狩り

おじゃまじょ

 「なんなんだ……」


 つくしは白髪の少女が消えていった森を見つめる。


 「なんか、魔物と同じ感じがしたっす」

 「魔物の特徴を持った人間か……」


 人間は魔力を持たないはずである。

 つくしは気になった。

 今まで出会ったことのない未知を知りたい。


 「マスター、追いかけましょう」

 「あぁ」


 それはつくしの写し鏡でもあるしおりも同じようで、追いかけること異存を唱える者はいなかった。


 「でもまずはこれをどうにかしないとなぁ」

 「そうですね……」


 追いかけるにしても目の前の火災を放っておくわけにはいかない。


 「あっ」


 困っていたつくしは一つの妙案を思いついた。


 「ここらの酸素を限定的に吸収できないかな」

 「なるほど! 燃料を断つわけなのですね!」

 「できそう?」

 「まぁ、自分でまいた種なのですしなんとかやってみるのです」


 そういってしおりはつくしの肩からつくしに指示をだして歩かせ、燃えてる場所の酸素を断った先から水をかけて冷やしてゆく作業を繰り返すこと10分、すっかり燃えている場所は鎮火された。


 「案外すんなりいけたな」

 「それじゃ、さっきの子を追いかけるとするのです。ものすごい魔力を持っていたおかげで追跡は楽なのです」


 そして魔力の残滓をたどり、なんとか歩きにくい森の中を進み続けてついたのは一件の家だった。

 

 「こんなところに家か」


 森の奥にある一軒家。

 かなり怪しかった。

 しかも人の手が入っているらしく、周りは手入れされており畑には野菜が生っていた。


 「こんにちわ」


 その家の前に立ち、ドアをノックして尋ねるが返事はない。


 「あれ? いないのかな」


 困ったつくしは窓から中を覗き込むが、カーテンがかかっており中の様子はうかがえない。

 しばらくカーテンのどこかに隙間がないか探しているとふいにカーテンの端がめくれて先ほど見た少女が顔を出した。


 「ひっ」

 「いたぁ」


 つくしがニッと笑うと少女はおびえた様子でカーテンを勢いよく閉めて引っ込んでしまった。


 「あれ? なんか悪いことしたかな」


 追いかけただけできらわれるようなことはしていないはずである。


 「ストーカーだと思ったのです?」

 「そんな……」


 心外である。


 「まぁ、出てきてくれないことには始まらないなぁ」

 「じゃあご飯にするっす! きっとお腹を空かして出てくるっすよ!」

 「天岩戸みたいだな……」


 でも案外、効果的かもしれない。

 つくしたちはその場で食事の準備を進めた。




   ―――――――――――――――――――――――




 「お母さん……助けて……」


 少女はただ怯えていた。

 頭を隠して震えることしかできなかった。

 

 「あれ……?」


 そんな時、ふと良い香りが鼻腔をくすぐった。

 気のせいかとも思ったが、鼻の奥を刺激する良い匂いは誤魔化せない。

 それは肉の焼ける匂い。


 グゥ


 腹が鳴った。

 そういえば今日はまだ起きてからご飯を食べていない。

 お腹の真ん中がきゅっとしまるような思いだ。

 どうしても気になってまたカーテンに隙間を作ると庭を覗いた。

 すると、そこでは先ほどの人間と獣人が網を囲んでいた。

 その網の上では串に刺さった肉と野菜が焼けている。

 ほかにもキノコなどが網の上に転がっていて、彼らはそれをこげ茶色のたれに付けて美味しそうに食べていた。

 思わず涎が出る。


 「ダメダメ! 惑わされちゃ」


 頭を振って邪念を追いやるが、お腹は正直でずっとグゥグゥ鳴っていた。 




   ―――――――――――――――――――――――




 「ほんとに出てきた……」


 匂いが良くして見た目もおいしそうなものという事でバーベキューをしていたら、気づくとドアが少し開いてその隙間から白髪の少女がつくしたちをじっと覗っていた。


 「ご主人のごはんは美味しいから当たり前なのです!」

 「この世界のご飯は美味しくないからなぁ」


 口いっぱいに頬張りながら串を突き上げるテトラにつくしは苦笑いで答えた。

 とりあえずつくしはちょうどよく焼けた串を一本持ってその少女に近づいてみる。


 「ほら、たべる?」

 「……」


 近づくとその歩数分じりじりと下がる少女につくしは負けじと串焼きを前面に押し出してアピールする。


 「程よく焼けてておいしいよ~」

 「たれ」

 「え?」

 「その、たれ、つけて」

 「あっ、はい」


 要望通りたれをつけて渡すとそーっとつくしから串を受け取りその小さな手に渡ると、よほど腹が減っていたのか急いでぶりついて食べ始めた。


 「おいしい?」

 「おいしい……こんなおいしいの、初めて食べた」


 素直にそう答えた後、ハッとしてそっぽを向いて無言で黙々と食べだす。


 「そんなに急がなくてもこっちにお替りならいくらでもあるから」

 「……ん」


 少女は食べながら恐る恐るバーベキューをしているその場所まで来る。

 まだ信用はされてないようだが歩み寄ることには成功した様でつくしはほっとした。 


 「悪い……人じゃ、ないの……?」


 しばらく無言の気まずい食事が続いた後、ふいに少女が口を開いた。


 「悪い人になった覚えはないのだが……」


 ちょっと硬貨偽造とか森林破壊をしただけで悪い人ではない。

 ないはずである。


 「ほんと? 嘘じゃない?」

 「子供に嘘をつくほど大人げなくなった覚えはないぞ?」

 「あなたは?」

 「ん? なんすか?」


 少女は年齢の近いテトラをいぶかしげに見つめた。

 

 「こんなおいしいものを食べられておかしいとは思わないの?」

 「外の人たちはみんなこんなおいしいものを食べているんじゃないっすか?」

 「そんなわけ、ないじゃない……! というか、外の人って、何?」

 「私は元々奴隷だったっす」

 「奴隷……」


 それを聞いて少女はつくしをキッと睨む。

 テトラは少女の勘違いに気付き、あわててその柔らかそうな手を横に振った。


 「あ、違うっすよ! ご主人は命の恩人っす」

 「そう……なの?」

 「そうっすよ。私が病気で死にそうなときはずっと看病して助けてくれたし、お姉ちゃんたちも奴隷から助けてくれたっす」

 「そうは、見えないけど……」

 「見えなくて悪かったな!」


 その時少女の頭に思い浮かんだのは物語の王子様。

 虐げられて辛く苦しい生活の中、颯爽とテトラを救い出す姿は目の前のさえない男とはどうしても合致しなかった。


 「まぁどう頑張っても王子って柄じゃないのです」

 「妖精!?」

 「あ、どうもなのです」


 つくしをからかいにフードから出てきたしおりに少女は驚いた様子だ。

 そして何か考えるようなしぐさを取る。

 それを好機と見たつくしは畳み掛けにかかった。


 「僕たちは世間一般とは違う価値観を持ってる。よかったら話を聞かせてくれないかな?」

 「……わかった。おいしいもの、ごちそうしてくれたし、妖精を連れているんだもの。悪い人じゃ、なさそうだから……家に入れてあげる」

 「それじゃ自己紹介をば。僕の名前は山野つくし。冒険者をやってる」

 「……私はフィーア。誰もが恐れる……魔女のフィーア」


 魔女。

 彼女は確かにそう口にした。


アズ○バーン!

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