2-4 森の魔女
祝日だし色々手直し。
ちょっとホラー?
「しおりさん! 出番ですよ!」
ダンジョンが思っていたのと違うとわかった途端、引きこもりにもどっていたしおりに救援を頼む。
「えぇ……また追っかけられてるんですか」
しおりは呆れた様子でつくしのフードから顔を出した。
「うわわっ! めっちゃ来てるっす!」
「なんでも良いから早くしてー!」
そうこうしているうちにどんどん距離が縮まって行ってる。
「仕方ない。いっちょやってやるのです」
しおりはつくしの肩に乗り、仁王立ちした。
「私は学んだのです。生半可な威力じゃ魔物は倒せないと」
「お、おい……」
その自信ありげな態度になにか嫌な予感がする。
「だから今打てる最高火力で殲滅します。ファイヤー!!」
しおりが手を降り下ろすと出現したのは一瞬で視界一面に広がるほどの炎。
見ているだけで肌が焼けるような激しい赤の奔流は遥か高く立ち上ぼり、草を焼き、樹を焼き、森を焼いた。
もちろんつくしたちを追いかけていた蜂も例外ではなく、飛んで火に入る夏の虫の如く燃えて地へ落ちていった。
「あっつ! あつあっつ!」
つくしはテトラを庇いながら慣性で足元に落ちてきた火だるまの蜂をよけるが、爆ぜた火の粉が足を焦がした。
「ふぅ……」
しおりは殲滅を確認すると一仕事終えた後のようなスッキリした顔で額をぬぐった。
「なにやりきったみたいな顔してんだ殺す気か!?」
「何とかしたじゃないですか」
「いや、やり方ってもんがあるだろ……。どうすんだよこれ」
つくしたちの前に広がっていた青々した森は、いまや山火事で真っ赤に染められている。
「消火できない?」
「ガソリン撒いてそれに着火したんでそうそう消えないと思うのです」
「何と言うことをしてくれたのでしょう」
打つ手なし。
これだけ広範囲を消火するのは難しい。
おおよそつくしの力だけでは消すそばから延焼して終わりのない作業となるだろう。
「ご主人、どうするっすか?」
「……逃げる!」
逃げるが勝ち。
脇にかかえられたまま手足をぷらぷらさせているテトラに宣言する。
ばれなければよいのだ。
幸いなことに今回はつくしたち以外、周りにいない。
この好機を逃すまいと足を踏み出した時だった。
「……!?」
突如、ただならぬ雰囲気を感じた。
肌に突き刺さるようなピリピリした感覚。
危険だと体の全ての器官が教えてくる。
急いでその気配の方へ首を回すと、そこにはひどく驚いた様子でつくしたちを見る一人の白髪の少女がいた。
「……っ!?」
ダンジョンという場にふさわしくない質素なワンピース姿のその少女はつくしたちに見つかると、バッと踵を返して逃げて行った。
「ご主人」
「あぁ、分かってる」
それは明らかな他人との差。
異世界人のつくしでもわかるほどの違い。
「あの子、魔力をもってた」
それも尋常じゃない量を。
「なんなんだ……」
つくしは少女の消えた方をじっと見つめた。
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(まずいまずいまずいまずい!)
白髪の少女は歩き慣れた森のなかを疾走していた。
山火事かと思ってすっ飛んできたらそこには人間がいた。
つまり火をつけたのはあの人間。
とうとう始まったのだ。
魔女狩りが。
(逃げなきゃ! でもどこへ?)
少女は考える。
人間は怖い。
森のどんな魔物よりも怖い。
たくさんの群れて襲ってくる。
ただ、自分たちを殺すためだけにやってくる。
だから逃げる。
でも、少女はこの広い森の中で自分の家しか逃げ場所を知らなかった。
温かい思い出と悲しい思い出が一緒に詰まったその場所が今まで一番安全だったから。
ドアに鍵を閉め、息を殺してベッドの毛布にくるまる。
コンコン
ビクリと少女は体を震わす。
どれくらいの時がたったのだろう。
唐突にノックの音が響く。
鬼がやってきたのだ。
逃げ場はない。
少女はじっと待った。
脅威が去るのを。
「こんにちわ」
ドアの向こうで声がする。
優しい声だが、騙されてはいけない。
奴らは狡猾で残忍な生き物なだ。
「あれ? いないのかな」
その言葉を境に、静かになった。
(帰ったのかな)
希望を胸に窓から玄関先を覗くためにカーテンを少し開けた。
すると、そこには人間が中の様子をうかがう様に張り付いていた。
「ひっ」
「いたぁ」
ニタァっと鬼が笑った。
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