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2-2 黒狼族

わん。わんわん。

 「これがダンジョンですか?」


 つくしはただの森がダンジョンと言う男性に間違いじゃないかと問いただす。

 ダンジョンとは洞窟や迷路や塔みたいなもので階層があるようなものだったはずだ。


 「あぁそうだ。虫系や植物系の魔物が多いから気を付けるんだよ」

 「え、えぇ。ありがとうございます」


 それだけ言うと男性は去っていった。

 どうやら本当にダンジョンで間違いないらしい。

 

 「この森がダンジョン……」

 「意外なのです」


 後で冒険者組合にでも行ってダンジョンの定義を聞いてみる必要がありそうだ。


 「ま、なんにせよダンジョンはダンジョンだ。まずは情報集めに冒険者組合に行こう」

 「はいっす!」


 ということでつくしたち一行は恐らく森の近くにあるだろう冒険者組合へ向けて出発した。




   ―――――――――――――――――――――――




 「ダンジョン周辺はもともと何らかの原因で魔力の集まりやすい場所なんです。ですからそこで強力になった魔物からは良い素材が獲れ、燃料でもある魔石が大量に産出する地帯になり、こうして繁栄しています」

 「なるほど」


 つくしは冒険者組合の受付嬢の丁寧な説明に頷いた。

 燃料と天然の素材を同時に回収できる一石二鳥の場所。

 それがダンジョンらしい。


 「ダンジョンをご利用になられるのでしたら金貨一枚の入場料をいただいております」

 「入場料とかあるんだ」

 「はい。お支払いただいたお金はダンジョンであるこの森の管理保全、維持費に当てられます」


 キノコ狩りのために入山料を支払うようなものだ。

 ただ、こちらの方は実力が伴っていれば稼げる。

 だから一攫千金目指して冒険者が集まるのだろう。


 「じぁあ、明日から入ることにしたいんだけど、お金は今払っても大丈夫?」

 「分かりました。では、入場許可書とタグを発行いたしますのでお手続きのため、少々お待ちください」

 「タグ?」

 「身元確認のための金属板です。ダンジョンにお入りになる際は必ず身に付けておいてくださいね」

 「あっ……はい」


 そのタグが身分証明以外の役割を持つことを察したつくしはやはりダンジョンに危険は付き物なのだと悟った。




   ―――――――――――――――――――――――




 次の日、適当にとった宿から冒険者組合へ向かい、入場許可書とタグをもらったつくしたちは森の入口にきていた。

 入口付近ではたくさんの出店が声を張り上げ、出発前の冒険者に対して様々なものを売っていた。

 定番の毒消しに傷薬、武器防具、砥石や布、それに煙玉などの変わり種もあった。


 「せっかくだしなんか買っていく?」

 「こういうところは大体お祭り価格なのですが……」

 「良いじゃないか。懐には余裕があるし」


 ハモンドから巻き上げた金貨がまだあった。

 結局宿代以外ほとんど使っていないので余裕はかなりある。

 少しくらい使ったってバチは当たらないだろう。

 それに、それらの物品に興味を示しているのはつくしだけではなかった。


 「あれはなんすか? つよそうっす!」


 テトラがぐいぐいとつないだ手を引っ張ってつくしをせかす。


 「ね?」

 「はぁー……しょうがないのです。偽造したくなかったら節約するのですよ」

 「わーってるって。それでテトラはどれが欲しいの?」

 「いいっすか!?」

 「……ほんと犬にはあまいのです」


 ぼやくしおりを無視してテトラに連れられるがまま武器を並べてある露店へと向かう。


 「そしたらこれ欲しいっす!」

 「え? なにその変な槍みたいなの……まぁ欲しいんならいいけどさ……」


 テトラが持ってきたのは大きな鉢の針を先端に使った槍だった。

 恐らくダンジョンの魔物の素材から作られたものなのだろう。

 ということはこの針を持つような虫系の魔物が出てくるというわけだ。

 少し身震いする。


 「お、その子黒狼族じゃねぇか。珍しいな」


 その後、会計をしようと金額を見ていたら露店の主に話しかけられた。


 「黒狼族?」


 彼はテトラを見てそう言っているらしく当の本人に「そうなのか?」と尋ねるが「なんすかそれ?」と首を傾げる。 


 「あれ? ちげぇのか? その漆黒の毛……確かにそうだと思ったんだが、まぁ、いいか! ダンジョン頑張れよ!」

 「あぁ、ありがとう」


 いまいちすっきりしない話の切り上げ方にもやもやしながら、つくしは店主に代金を渡した。

 その槍は案外高く、金貨2枚もした。




   ―――――――――――――――――――――――




 「で、さっそくダンジョンな訳なんだが」


 簡易的なバリケードだけの入り口で証明書とタグを見せて通過した後、森の中に作られた道を歩きながらまずはやらねばならぬことをすることにする。


 「はいっす!」

 「テトラ君には魔物に慣れていただこうと思います」

 「がんばるっす!」


 テトラの魔物への苦手意識の改善だ。

 この先どんな魔物がどれだけ出てくるかわからない。

 その中でパニックになられては、いくら便利スキルがあるとはいえつくし程度の実力と体力じゃかばいきれないかもしれない。

 なので、せめてネズミとかそのくらいは倒せるようになって欲しいというのがつくしの願いだった。


 「テトラ、アレとか倒せそう?」

 「あのでっかい虫っすか?」


 最初に出会ったのはテトラの背丈ほどある一匹の幼虫。


 「……えいっ」


 テトラが先ほど買った槍で一突きすると芋虫は1分ほどのた打ち回った後にあっさり死んだ。

 倒すというか刺しただけだったが第一関門はクリアだ。


 「よーしよしよくやった! でももっと暴れていいからね?」

 「はい! がんばるっす!」


 褒められてうれしいのかテトラはぶんぶんと尾を振った。

 この調子で倒していけばすぐに慣れそうだ。


 「あれは……娥?」


 先ほどの芋虫の成長した姿だろうか。

 少し進むと2メートルほどの大きな蛾が上空を飛んでいた。


 「テトラ、行ける?」

 「いけるっす! ……とうっ!」

 「え?」


 行けるか問うたものの飛んでる相手に攻撃が届くはずはなく、どこかに蛾が止まってから刺すものだと思っていたのだが、テトラは槍を振りかぶって投げた。

 その槍は吸い込まれるようにして蛾の胴体に命中し、蛾は力なく地へ落ちて行く。

 しかし、槍の勢いはとどまらず、どこか森の奥へと消えて行った。


 「……はは。すごいなぁテトラは」

 「でも、槍、どっかやっちゃったっす……」

 「そんなことは良いんだよ……」


 しょんぼりと耳を垂れ、反省するテトラにつくしはひきつった笑いをもらした。


次回、犬も歩けば棒に当たる。

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