1-13 王都騒動 2
防犯ブザーつけなきゃ(使命感)
「テトラっ……!」
拐われたと気づいた瞬間、頭に血が上り、本能的に再現を使っていた。
取り出したのはテーザー銃。
電極を射出して射程距離を伸ばしたスタンガンだ。
しかし、射程距離は約10メートル。
それでは逃げた誘拐犯まで届かない。
「しおりっ!」
「分かっているのです!」
その途端、誘拐犯の目の前に3メートルほどの土壁が一瞬で出現した。
「くそっ! 魔法使いがっ!」
誘拐犯は毒づいて方向転換をするがもう遅い。
「あたれっ!」
つくしはテーザー銃の引き金を引いた。
大男はその面積の広さが仇となり、横腹に電極が刺さった。
「かっ……!?」
大男の体を電流が流れ、筋肉が硬直する。
体の神経を流れる電気信号を狂わせ、体の自由を一時的に奪ったのだ。
「ひゃっ!」
大男が前のめりに倒れると、抱えられていたテトラも石畳の道路に放り出された。
だが、機転を効かせたしおりがクッションを着地点に出したお陰で地面とキスしたのは誘拐犯だけだった。
「テトラっ! 大丈夫!?」
つくしはテトラの元へかけて行き、その細いからだを触って怪我がないことを確かめる。
「ふぇっ……」
怪我が無いことが分かってほっと一息ついていると、助けられて初めて自分の置かれていた状況を理解したのか、テトラは徐々に顔を歪ませ、つくしの服をぎゅっと掴んで泣きじゃくりはじめた。
「よーしよし怖かったね……」
「ふぇっうぇっ……」
この時つくしはぶちきれていた。
育ての親から引き離され、頼れるのはつくしだけで寂しいなんて一言も言わない強い子を泣かした罪は重い。
この子を泣かせた誘拐犯を絶対に許さないと。
「うぉーい、よくもうちの子泣かしてくれたな」
「……」
テトラを抱いたまま、まだまともに動けないらしい大男に向かって凄むが、大男はどこ吹く風で目線をそらす。
「そっちがその気なら……」
もうしばらくしたら大男の筋肉の痺れが取れて逃げるか反撃してくるだろう。
ならば――。
「がっ……!?」
今度は棒状のスタンガンで攻撃した。
スタンガンはただ痺れさせるだけでなく、かなりの痛みも伴う。
それこそ、何度も攻撃されたら痛みで気絶するほどの。
「……ほら、喋れ」
「かっ……あっ……」
だがその大男は歯を食い縛り、つくしをその鋭い眼光でにらみ続けた。
「まぁ、喋らなくてもいいけどね」
「……っ!?」
喋ろうが喋るまいがもはや関係なかった。
つくしは何度も何度もスタンガンを大男の胴に押し付けた。
その度に大男の体が跳ねる。
スタンガンは針を突き刺されたような痛みだが、気絶する事は許されない。
それに実はもう見当がついていた。
その大男が誰で、何者の差し金か。
だからつくしは僅かに微笑みを浮かべながら、再び火花を散らせるスタンガンを突き下ろした。
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「「ふぅ、すっきりした!」」
つくしとしおりは二人揃って良い笑顔で額の汗を拭いた。
結局、警察の役目らしい馬に乗った騎士が来るまでつくしは大男をもてあそび続けた。
しおりもすっきりしているのは、外に出ようと言ったのは自分だから責任を感じていたからだろう。
「ご主人、なんかちょっと怖かったっす……」
「やられたら倍返し。これは世の中の鉄則だから覚えておくんだよ?」
「……! はいっす!」
素直な子どもに適当なことを教えながら向かうのは真犯人の居城。
まさか駒を潰しただけで満足したわけではなく、カチコミに行くわけだ。
「また戻ってきたな」
「ここは……?」
「お前の親代わりがいるところなのです」
つくしたちは戻ってきていた。
ハモンド邸へと。
「収集者」
しかし、つくしたちがいるのはハモンド邸の裏手。
だてに一週間この屋敷で過ごしていない。
屋敷の構造はすべて知識のなかに入っている。
「ショータイムだ」
つくしは収集者の本を手にニヤリと笑った。
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「ごめんくださいよっと」
蹴破るようにしてその扉を開くと、中ではハモンドが受付の椅子に座り、余裕の表情で待っていた。
「おや、これはつくし殿。どうかされましたか?」
「僕たちに何かした覚えはないか?」
「はて、なんのことでしょう?」
ハモンドは短い顎の髭を撫でながら困った顔をする。
「……おぉ、4番を治せたのですね! 流石はつくし殿」
そして話題をすり替えるように白々しくもテトラを見てそういう。
テトラはその視線が嫌なのか、つくしの影に隠れた。
「ここの受付にいた大男がこの子を拐おうとしたんだけど、知らないか?」
「大男? ここの受付は私がしておりますよ。オーナーですから」
「そうですか……」
どうやらどこまでもとぼけるつもりらしい。
既に斥候かなにかを走らせ大男が捕まったことは知っていて、雇っていた大男がいた記録はすべて抹消されているのだろう。
となると彼が事件の真犯人である証明はとても難しいものとなる。
そうこなくてはとつくしはニヤリと笑う。
『しおり、プランBだ』
『了解』
つくしは襟元につけた小型のインカムに小声で指示を出すと、しおりの声が帰ってきて――。
ドォォン!!
くぐもった爆発音が地下室から聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
初めてハモンドが焦りの表情を見せる。
「おや? 事故でしょうか?」
それに対してつくしはそ知らぬ顔で地下への扉を見る。
「くっ……! 貴様っ!」
「どうしたのですか? ハモンドさん。顔を真っ赤にして」
爆発の原因が誰か察したハモンドはつくしを睨み付けるが、つくしは全く意に介さない。
「貴様がやったのだろう!」
「はて……私はここにいますし魔法を使った痕跡なんて無いでしょう?」
「ぐっ……!」
魔法やスキルを使うなら、魔力を使った残滓が必ず残る。
それがないと言うことは魔法もスキルも使っていないと言うことだ。
「そんなことより逃げた方が良いですよ?」
「は!?」
「こわーい魔物が来ますからね……」
「なっ……貴様……貴様まさか!」
「じゃっ、私は一足先に」
「ま、まてっ!」
メキメキと音をたてて壊れる地下室の扉を見て青い顔をするハモンドを置いて、つくしたちはすたこらと屋敷から逃げ出した。
もちろん出るとき、扉に再現で作った南京錠で鍵をかけるのを忘れずに。
「わはははは!」
「これが潜入ミッションなのです!」
高笑いしながら走り去る彼らの背後、ハモンド邸ではハモンドが開かないドアを叩きながら上げる野太い悲鳴と家がミシミシと軋む音が響いていた。
そして、大きなぬめりと光る触手がハモンド邸の窓を突き破って現れた。
次回は時を少し遡って他の奴隷たちはどうなったのか、何をしたのか説明回!




