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1-12 王都騒動

ちょっとダイジェスト。

 ハモンドと別れ、前まで泊まっていた宿と同じ宿で、つくしは一ヶ月の時を4番の治療に当てた。

 他の何もかもを捨てて必死に看病しているその間に、4番は獣人だからか驚異的な回復力で包帯はほとんどとれており、喉も治って喋られるようになっていた。


 「完全復活っす!」


 今までの弱々しい姿はどこへやら。

 朝、寝込んでいたベッドから起き上がり、狐顔に習っていたはずなのに少しおかしい敬語を喋る。

 そして、まだ包帯が残るその身体には早くも獣人らしい毛が生えてきていた。

 毛が有るのは彼女の手、それと耳と尻尾だ。

 特に手は肘から先が狼のようになっており、肉球がある。


 「テトラ、まだ病み上がりなんだからゆっくりしてなきゃ」


 名前も「4番だからギリシャ語から取ってテトラでどう?」と言うつくしの提案にしおりと4番本人が諸手を挙げて賛成したので決まっていた。


 「そう言えばずっと気になってたんすけど、ご主人のフードの中になんかいないっすか?」

 「えっ!?」


 静かにしていたしおりが居場所を突き止めれ、ビクリと震えたのがフード越しにわかった。

 何となく見つかるとめんどくさそうだからいつも隠していたしおりの存在が一瞬でばれた。

 テトラは鼻が良いらしい。


 (まぁ、どうせ仲間になるんだばらしてもいいか)


 つくしは何故かむすっとしているしおりをフードから出して見せた。


 「よ、妖精さんっす!」


 するとテトラは興奮して身を乗り出すが、同時に倒れそうになる。


 「っと」


 それをつくしは抱え込むようにして受け止めた。

 まだ衰えた筋肉がもとに戻っておらず、バランスがうまくとれないらしい。


 「ごめんなさいっす……」


 しゅんとして謝るテトラが素直で良い子で可愛くてつくしは思わず頭を撫でてやる。


 「えへへ……」


 そしてその撫でる手に頭を擦り付けてくるのがまたかわいい。

 手間暇かけて救ったのだからかわいさ倍増だ。

 助けてよかったと心の底から思う。


 「あっ、そうだ! 妖精さん! 妖精さんがいたっす!」

 「もしかしなくてもしおりのことだよね」


 そう思ってしおりを見ると先程テトラを受け止めたときに放り出されたせいでベッドの上でひっくり返っていた。


 「しおりー生きてるかー?」

 「死んでいるのです」


 うつ伏せになってくぐもった声で答える。

 その声は不機嫌さを含んでいた。


 「何を怒ってるんだ。放り投げたことは謝るって」

 「その事じゃないのです」

 「じゃあなんのこと?」


 生憎つくしに覚えはなかった。

 するとしおりはつくしを睨み付けて言う。


 「私のこと全然かまってくれないじゃないですか! 私も頑張ったのです! ご褒美は!?」

 「あー……そうだね。ごめん。何でも一つ言うこと聞くよ」


 思えば彼女のお陰でテトラを救えたようなものなのに、一月ほったらかしたあげくお礼の一つもまだ言っていなかった。

 その贖罪も込めて何でも言うことを聞くといったのだが――。


 「ん? 今、何でもって言ったのですよね?」

 「しまった!」


 それが禁句だったことに言ってしまってから気がついた。

 口から離れた言葉は戻らない。

 甘んじてしおりの言葉を待った。


 「では、観光しましょう! 観光!」

 「観光? 普段引きこもってるのに……」


 普段は引き込もって一向に出てこないし、観光なら初日や徹夜の日にいやと言うほどしたと思ったつくしは首をかしげる。


 「せっかくファンタジーの世界にいてお金もたくさんあるのに魔法の一つどころか王城すら見ていないんですよ!? 異常ですよ異常!」

 「確かに。言われてみればそうだ」


 自分自身で魔法みたいなことができるのですっかり忘れていた。

 埋め合わせが観光くらいだったら安いものだった。


 「よし! じゃあテトラのリハビリがてら観光に行くか!」

 「おー!」

 「おー?」


 いまいち状況が理解できていないテトラも一緒になって腕を上げた。




    ―――――――――――――――――――――――




 「ここが王城ですか!」

 「大きいな……」

 視線の先には見上げるほど大きな石造りの城がそびえ立っている。

 流石に近くには行けないが、たまたま見つけた王城の見える広場から見たそれはとても良い眺めだった。

 しかし、圧倒されるつくしとしおり以上に興奮している者がいた。


 「あのでっかい建物が王城っすか!? すごいっす!」

 

 テトラがつくしの手を握って腕を引きちぎらんばかりに跳び跳ねる。

 彼女は見るものすべてが珍しいらしく、ずっと目を輝かせている。

 

 「あんまり騒いだら目立っちゃうからなるべく静かにね」

 「はいっす」


 テトラは注意されると素直に聞いてうずうずはしているが静かになった。


 「それにしても良い子だな。テトラは」


 わがままは言わないし言うことはちゃんと素直に聞いてくれて全然苦労しない。


 「おねぇちゃんたちに良い子にするようにってずっと言われてたっす!」

 「そうか……」


 狐の人も良い教育をするなぁっと思っていると、テトラがじっとつくしの目を見て微笑んだ。


 「それに、ずっと見ていたっす。ずっと私の看病をしてくれたご主人がいい人だってわかるっす」

 「……あぁもうかわいいな畜生!」

 

 つくしはテトラの頭をなで回す。

 その乱暴な手つきでも気持ち良さそうにテトラ目を細めた。


 「さて、しおりよ、次はどこへ行きたい?」

 「その前に私の前でイチャイチャするのやめてもらえないです?」

 「それは無理だ。可愛いからな」

 「私だってこんな可愛いですよ?」

 「なんかこう、もう一人の僕的な感じだからなぁ……」

 「えぇ……理想像なのに……」


 自分の理想通りと言うのも慣れすぎて考えものだった。


 「じゃあ高いレストランにでも行って未知のグルメでも探すのです!」

 「前もグルメは探して全部はずれだったろ……」

 「高いところにいけば当たりもあるはずなのです!」

 「そうかなぁ……」

 「何がどうあれ言うことを聞く約束なのです! まずはそこのよくわからない肉を売ってる屋台にいくのです!」

 「へいへい。テトラはちょっとまっててね」

 「はいっす!」


 つくしは広場の中で何かの肉を焼いている店で串焼きを買うためテトラの手を離した。


 「……!? マスター!」


 その瞬間、焦るしおりの声と共に一陣の風が吹いた。

 

 「……へ?」


 気づいたら隣にいたはずのテトラがおらず、風の過ぎ去った方を見るとキョトンとした顔のテトラが覆面の大男に担がれて連れていかれるところだった。


いきなりだとほんとに体が硬直しますよね。


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