表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

1-11 けもみみぱらだいす? 4

出会わなければ別れがなくて幸せか。

永遠のテーマです。

 「この子がここで生まれたって言うのは聞きましたよね」

 「あぁ」


 ハモンドがぐちぐちと文句をいっているなかに出てきたのを覚えている。


 「母親はね、この子を産んですぐ死んじゃったの」

 「そうだったんですか……」


 道理で狐顔と4番が親子のわりにはにていない訳だった。

 つまり親代わりに彼女が育ててきたのだろう。


 「なぜ身ごもっていたのに売られてきたか分かります?」

 「いや……」

 「父親が賭けていたらしいんですよこの子の母親を」

 「は……?」


 考えてみれば身ごもっているのに奴隷に落ちるなどなかなかあるものではない。

 もしかしたらこの世界では獣人が迫害されていて、村ごとさらわれたのだろうと勝手に思っていたが、明らかになった答えはあまりにも馬鹿げた話だった。


 「借金のカタに売られたってことか?」

 「そうみたいです」

 「そんなことあっていいのか?」


 少し怒り気味に言うと、彼女は苦笑いをした。


 「ここにいるのはそう言う子がほとんどですよ。自分の失敗や家族の失敗で来た子がほとんどです」

 「そう、なんだ……」


 思ったよりも現実的な理由でつくしは口ごもった。

 この世界の人の事なんて何一つ知らない。

 勝手な想像で補っているだけだ。

 収集者(スキル)を持っている事による全能感がまやかしであると思い知らされる。


 「でもね、この子は違うの」

 「……」

 「この子はここで生まれてここで育っただけでなぁんの罪もない、ただの子供なの」


 彼女はさらりと4番の髪を撫でた。


 「だからね、もし、もしこの子の病気が治ったら、この子を買って行って欲しいんです」

 「……僕が?」

 「そう。暗い鳥かごの中しか知らないこの子が優しくて綺麗な外の世界を知る。それだけが私の願いなんです。もう助からないと思っていたこの子を救うために、ここまで必死になってくれる貴方にはそれができそうだから」


 そう言う彼女の声は後半になるにつれて震えていた。


 「私からもお願いします」


 周りで話を聞いていた狸の子が、戸惑うつくしをまっすぐ見つめて言う。


 「私たちは来て日が浅いけど、1番さんはずっとこの子の世話をして来たんです。何年も……だから、きっと別れるのはすっごく辛いはずなんです。どうかその気持ちを受け止めてあげてください」


 彼女に触発されて他の子も「お願いします」「つれていってやってください」と口々にいい始めた。

 みんなの思いを受けて狐顔が涙ぐむ。

 その様子を見てつくしは言わなければならないことがあった。


 「非常に言いづらいことなんだが……」

 「はい……」

 

 その申し訳なさそうな顔で答えを察した人たちが露骨にしゅんとした雰囲気に包まれる。

 つくしは意を決して言う。


 「僕は、そんなにお金は持ってないんだ」

 「「えぇー!?」」


 彼女たちにとってそれは予想外だったらしく、続けて出した全財産である銀貨数十枚と銅貨数枚を見てショックを受けていた。


 「白水病治す薬なんて持ってるから貴族のぼんぼんかたまたま大金を手にした冒険者の方かと……」

 「みんなの目に僕はそんな風に見えてたの!?」


 嬉しくない評価につくしも少しショックを受けた。


 (もうこうなったら偽造しまくるか宝石でも作って換金してこようかな……)


  感動の空気を一瞬でぶち壊したつくしは流石に悪い気がして、思いきって少し危ない橋を渡ろうかと考える。


 「あっ」


 しかし、普通に考えたらある方法で問題なくつれて行ける。

 

 「私に良い考えがある」


 つくしはニヤリと笑って首をかしげる彼女たちに言った。

 今お金がなくとも、未来の自分は持っているのだ。




   ―――――――――――――――――――――――




 さらに数日後、ハモンドと症状の軽い子の白水病は毎日の治療のかいもあり完全に治っていた。

 4番も新しい治療法が効いていて、徐々に快方へと向かっている。

 なので、つくしは頃合いを見計らってこの屋敷を出ることにした。


 「ハモンドさんと奴隷の人たちの治療が終わったので、そろそろおいとましようと思います」


 朝食の場で一緒に食事をとっている途中、つくしが切り出すと、ハモンドは口にいれようとしていたパンをおいた。


 「そうですか! いやぁ、ありがとうございました。教会に三日三晩通いつめたかいがありました! これもイスズ様のお導きです!」

 「はぁ……」


 三日三晩も通いつめられたらそりゃあ案内の子も辟易するだろう。

 つくしは改めて案内の子に同情した。


 「そして報酬の話ですが……」

 「はい!」


 にこにことするハモンドにつくしは真剣な顔で向き直った。

 ここが勝負どころだ。

 生唾を飲み込む。


 「治せるどうかは5分5分ですが、4番を報酬として頂けないでしょうか?」

 「そんなものでよろしいのですか!?」

 「え、えぇ」


 ハモンドの余りの驚きぶりに報酬が安すぎるのかと思い、この世界の奴隷市場価格を知らないつくしはもう少し吹っ掛けてみることにする。


 「ただ、少しの間この子を不自由なく治療できるだけの生活費が欲しいのですが……」

 「そのくらいでしたらもちろんお支払いたしますとも! 金貨100枚ほどで宜しいですかな?」

 「ひゃ、ひゃく……」


 約100万円。

 ちょっと一週間程度治療しただけでここまでになるとは思っていなかったつくしは聞き間違いじゃないかと自分の耳を疑った。


 「あぁ、治療をなさるのですからもう少し必要になりますよね。300枚でいかがでしょう」

 「……それでお願いします」

 「いやはや、本当に欲のないお方だ。本来、高位の治癒魔術師をよんだら一人につき金貨1500枚は下らないと言うのに、商品を治してもらい、廃棄予定の奴隷ももらっていって下さるなんて」

 「は、はは……」


 妥協点がわからない以上、上げてくれた十分すぎるほどの額で合意したことにする。

 つまり大体、金貨4500枚分の働きだったわけだ。

 初めて一歩間違えば借金地獄だったことに気が付き、顔がひきつった。

 医療費に糸目をつけないのはどの世界でも同じらしい。


 「では食後、契約書をお持ちいたしますのでそれをよくお読みいただき、サインをお願いします」

 「はい」


 その後、つくしは大男の受付に渡された契約書にサインをした。

 内容はハモンド側の管理番号4番に関する権利をすべて破棄し、その一切をノアレに移すといった内容だった。

 それをハモンドか再確認して「確かに」という言葉と共に4番はつくしに所有権が移った。


 「では4番は宿までお運びいたしましょうか?」

 「それには及びません」

 「? そうですか。あなた様がそうおっしゃるのなら……」

  

 実はつくしの必死な看病のお陰か、4番は歩けるようにまでなっていた。

 その事をハモンドに伝えるとひどく驚かれた。




   ―――――――――――――――――――――――




 「それじゃ短い間だったけど、元気で」 


 地下に降り、4番を連れ出したつくしは格子の向こうの狐顔たちに向かって別れを言う。


 「はい。お元気で」


 包帯だらけでミイラのような格好の4番は、やけに素直につくしの手に捕まっている。

 彼女はまだ喉が回復していないようでなにか別れを言おうとして言えなくて歯がゆそうだ。


 「望めば高額な報酬が約束されていたのに、4番を報酬としようなんて、本当にありがとうございました」

 「いえいえ、これもこの子を助けるって決めた僕の覚悟のうちですから」


 頭を深々と下げる狐顔の人につくしは居心地が悪くてぶんぶんと手を横に降った。

 その高額な報酬の一部も貰ったのだから文句なんてない。

 そして4番を見送る檻の向こうの人たちの顔を見ると、一様に寂しそうで、狐顔は特にそう見えた。

 そんな様子を見てつくしは思わず口を開く。


 「あなたたちも――」

 「いいのです」


 狐顔に牽制されてつくしは口ごもる。


 「その先は言わないでください。私たちは大丈夫です。その子が助かれば、いいえ、もし助からなかったとしても、あなたみたいに優しい人のもとで死ねるならきっと幸せだと思うの。だから――」


 続く言葉をなくして強がる笑顔は、言葉とは裏腹にとても悲しそうに見えた。

 だから、それ以上つくしが何かを言うのは野暮であった。


 「では、さようなら」

 「「ありがとうございました」」


 言いたいことを全部飲み込んでつくしが背を向けると、全員がその背中に向かって深々と腰を折った。

 その光景をつくしに連れられながら振り返った4番は黒い瞳でずっと見ていた。

 そしてつくしたちが地下からでると同時に扉がしまる。

 光が消えて行くそのなかで、ポツリと狐顔――1番がこぼした。


 「ただ、願わくば、もっと前に貴方のような人と出会えていたのなら、良かったな――」


 その言葉はつくしの耳に届くことなく、重い木の扉に当たって霧散した。

 地下には再び静かな静寂が訪れ、その中で微かな嗚咽だけが響いていた。


ひとまずパーティーが揃いました。

やっと物語が動いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ