1-1 収集司書《ビブラリアン》
至らない点ばかり!
まぁ、初心者だし、多少はね?
目を覚ますと山野つくしは西洋風の街の中にいた。
彼はここはどこだろうと周囲を見渡す。
確かお気に入りのフィギュアとラノベと漫画に囲まれて幸せにアニメを見ていたはずだ。
それがまるでそのアニメの世界に入り込んだような場所に突っ立っている。
「はっ! よもやこれは異世界転移なのでは!?」
彼は瞬時に気がつく。
何度も何度もこの光景を夢見てきたので当然の既決だった。
(ところで何で転移したんだっけ?)
確かアニメを見ていたはずだ。
マイナーだが好きなキャラが登場し、興奮して勢いよく立ち上がったら頭を棚にぶつけて、転がって呻いていたら棚が倒れてきて――。
(そうだ。フィギュア棚に潰されて死んだんだ)
フィギュアの棚だからといって馬鹿にすることなかれ。
ライトノベルなども積まれている上、背面、底面がミラーになっており、スカートの中まで見られるもので結構な重量になっている。
その後、意識がぶっとんだのでたぶん死んだのだろうとつくしは推測した。
「まずは能力の確認だな」
こういう場合のテンプレートになぞってステータスを見ようと意識を集中させる。
だが、なにもでない。
そしたらどこかにステータスを確認できる場所があるのではないかと思い、回りの人に聞こうにも知らない言葉で話していてどうしようもない。
看板にかかれた文字も見たことがないもので意味不明だった。
(こう言うのって親切に異世界言語理解みたいな便利スキルがついてくるもんじゃないの?)
つくしは自分を転移させた神か何かに心の中で文句を言う。
「あっ、そうだ。スキル」
初めからなかなかにハードな異世界生活が始まりそうだと思ったが、スキルがあるかどうかを試していなかった。
それが異世界言語理解につながるかもしれないし、そうでなくても自分が異世界人だと分かるような物凄いスキルを見せてやれば、王宮に招かれ翻訳の指輪的な物をくれるかもしれない。
「ふぉぉ!」
何かでても被害は出ないように天に向かって手のひらを広げ、そこに意識を集中させる。
「おっ、おぉ?」
すると、なにかが手のひらの上にずっしりと乗っかった。
一人で空を仰いで騒ぐつくしを怪訝な目で見る通行人を気にもとめず、落ちないように慌ててそれを両手で抱え込む。
「本?」
手の上には一冊の本があった。
かなり分厚いハードカバーの本だ。
表紙には知らない文字で金の題名がかかれている。
本を開いてみると真っ白で、ページをめくってもなにも書かれていない。
「んんっ!? なっ、なんだ!?」
怪訝に思って適当にぱらぱらとめくっていると、突然その中の1ページが光りだした。
「初めましてなのです。マスター」
その光の中、本の中から現れたのはゴシック調の服を着た手のひらサイズの一人の少女だった。
ちょこんと開いた本の上に立っている。
「おぉー」
綺麗な黒いロングの髪をさらりと揺らしながらお辞儀をするその姿はさながら人形のよう。
大きさからも整った顔からもまるで持っていたフィギュアのような可愛らしさだ。
「おぉー」
「な、なんなのです?」
頬を触るとぷにぷにしていて本物のような質感だ。
くすぐったそうにその少女は身をよじる。
「おぉー」
「ひにゃ……!?」
そしてスカートを持ち上げてパンツをみた。
色は白。
清楚な良い色だ。
レースの刺繍が何とも可愛らしい。
「ななななななにをするのです!」
少女はガバッとスカートを押さえると、顔を赤らめつくしを睨んだ。
「いや、フィギュアがあったら普通パンツくらい確認するでしょ?」
さも当然といった風に「何で怒ってるの?」と、つくしは首をかしげた。
「私はふぃぎゅあというものではないですし! 普通は確認しないと思うのです!!」
「まぁ、それは置いておいて、君はどなた?」
「パンツを見られたのに流されたのです!」
そんな風に大声で騒いでいると、周囲の視線がとても痛いことになった。
中には足を止めて物珍しそうに二人を見てくる者もいる。
「……取り敢えず、場所、移動しようか」
「……そうですね」
周囲の凍りそうな冷たすぎる視線とおかしな人を見るような好奇の視線に気が付くと、さすがにいたたまれない気持ちとなり、冷静になった二人はそそくさとその場を去った。
―――――――――――――――――――――――
ちょっとした見世物になっていたつくしたちは大通りを避け、人通りの少ない路地裏まで移動した。
そこで再びつくしは本の上の少女に視線を向ける。
「それでどなた?」
「……まぁ、いいでしょう。話が進みませんし」
移動中、ずっと体育座りでむすっとしていた少女は咳払いをすると、立ち上がって説明を始めた。
「私は収集者の目次が一つ収集司書なのです!」
「コレクターというこの本のスキルに、いくつかコンテンツっていう付随するスキルがあるの?」
「そうなのです。その一つが私、収集司書なのです! ……のみこみはいいのですね」
「伊達にゲームやったりアニメ見たりしてないからな」
「げーむとかあにめとかはわからないですが、良いことなのです」
少女は「それでこそ私のマスターなのです!」と胸を張る。
「それで僕には何ができるんだ?」
「良い質問なのです! 今、目次は私を含め、4つあるのです」
そして説明されたスキルは以下の4つ。
記憶
スキル保持者が一度見た景色、文字などはすべて記録、保存される。
再現
記憶されている知識の中から再現可能な物を周囲にある他のエネルギーから再現することができる。
倉庫
非生物に限りいくらでも収納可能。
収集司書
スキル全般の補助、管理。
「……といった具合なのです」
「なるほど。じゃあ、僕の見てきた物は全部その本に保存されているの?」
「まだなのです。いきなりパンツを見てくるからまだマスターとのリンクは完了していないのです」
「さっき見たパンツも鮮明に保存されているという事だろう!? ぜひさくっと終わらせてくれ」
「またパンツ……もういいのです。しょうがないマスターなのです。ちょっと我慢していてくださいなのです」
「ん? あぁ……!?」
何を我慢するのかと思った瞬間、その少女の目から視線を離せなくなり、何かがつくしの脳を覗いているような感覚が数秒間続いた。
冷や汗を流し、鳥肌をたてながらまばたきすら許されない中、パッと拘束が解け、つくしは大きく息を吐いた。
「これがマスター知識……すごいのです!」
「はぁ……きつかった………君にもぼくの知識が共有されてるの?」
「スキルの一部なのですから当然でなのです! パソコンのフォルダの暗証番号は2121。薄い本の隠し場所は中学生のときの教科書が入った段ボールの中なのです!」
「だ、誰にも話したことのないぼくの秘密が……」
つくしは隠してきた秘密が、もうこの少女に何もかも知られていることを確信してうなだれた。
「まぁまぁ、まずはステータスを見るのです!」
「おっ! ステータスがあるのか!」
ゲームっぽい要素に思わずワクワクしながら飛び起きる。
「本を適当にめくったら見れますよ」
「あ、ほんとだ。この無駄にあるページの意味は……」
「長い記述読むとき以外は飾りです」
「飾りなんだ……」
まぁ、紙が一枚だけと言うのも寂しいから飾りでも良いかとつくしは思い、白紙だった本のページに新しく書かれている自身のステータスを見ると、このような内容がかかれていた。
『名前』 山野つくし
『種族』 人
『身体能力』 E
『魔力』 なし
『特技』 収集者
運動は苦手だからか身体能力は低く、なかなかにひどい。
そしてレベルやステータス、HPなどの数字表記がないところを見るにそのような概念はないようだ。
「それで、この世界はどんな世界で僕は何のためにこの世界に来たんだ?」
元の世界から着たままの服についているフードに向かって問いかける。
こう言うときは勇者だったり賢者だったり、何かこの世界の運命を左右する重要な役目を背負って転移するものだと相場が決まっている。
すると本の上から移動し、フードの中に潜り込んでいた収集司書の少女が出てきた。
「さぁ?」
彼女は口にポテトチップスを含みながらサイズに合わせて小さくなった携帯ゲームをしている。
それらはつくしの記憶から再現で作ったものだ。
このままフードを被ったら頭にポテトチップスの欠片が降りかかって大変なことになりそうである。
「さぁって……」
「スキルがそんなこと知るわけないじゃないですか」
「確かに!」
彼女はあくまでスキルの補助であってナビではないのだ。
「それにしてもマスターの故郷、日本の娯楽はすごいのです! 充実しているのです!」
「まぁね」
世界的に見ても日本の娯楽は群を抜いているとつくしは自分のことではないが誇りに思い、興奮気味に褒めちぎられて悪い気はしなかった。
「とりあえず君のことは呼びにくいから……そうだな。本の栞みたいだから、しおりって呼んでいい?」
「いいですね! いいと思うのです! 変態さんですけどセンスはあるのですね!」
「変態さんて……こんなところに来たばかりだったしヘルプ的なNPCかと思ってたからやったけど、もうしないよ」
ここから目的もわからず異世界へと来てしまった少年、山野つくしと収集司書の少女しおりの異世界生活が始まったのであった。
女の子が出るとやる気が出るね。
やっぱりパンツは白だと思うんです。私。