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「モンスター・テイマー」と呼ばれた少年  作者: olupheus
第3章 秋のお祭り騒ぎ!
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豊穣祭:1日目

いつもながら大変お待たせしております……。

ようやっと豊穣祭、本番です。お祭りのわくわく感、たまんないですね!

 豊穣祭の朝がやって来た。いつもと同じはずなのに、何となく何かが違う朝。夕べさんざん騒いでいた横でぐぅぐぅ寝ていたクルムは、いつもの習慣に従ってちょっと早い時間に起きた。

 ぼーっとした頭できょろきょろと辺りを見渡すと、そこは自分たちの教室だった。ただし、喫茶店向けに飾り付けがされている。そこでクルムは思い出した。……昨日は学校に泊まったんだったっけ。

 クルムのパジャマにしがみついているペルルを起こさないようにそっと外して、家から持ってきた洗面道具を持ち、教室の外に出た。


 廊下は静かで、ひんやりしている。自分のぺた、ぺた、という足音だけが聞こえる。まだ薄暗いそこは、知っているはずなのに違う世界にいるようだった。

 水道のところに到着して、しゃこしゃこと歯を磨く。ガラガラとうがいをしていたところで隣に誰かが来た。

「あれ、クルム君、おはよう。ずいぶん早いんだね」

 声の主はジニア・リネアリアだった。

「ジニアお姉ちゃん、おはようございます」

 まだふわふわしている中で、丁寧にあいさつ。

「はい、おはよう。かわいいパジャマだね」

 ふふ、とジニアが笑う。クルムは冒険者のミラからもらったもこもこの着ぐるみパジャマを着ているのである。

「お姉ちゃんも、早いんだね?」

「うん、これくらいの時間には起きて、トレーニングしてるからね。もう慣れちゃった」

 そう言いながら、ジニアは顔を洗い始めた。


 歯を磨き、顔を洗い終わった二人は元来た道を戻る。廊下にまだ人気はない。

「クルム君たちのクラスは喫茶店だよね」

「うん。お姉ちゃんは?」

「私たちのところも似たような感じだけど、どっちかっていうと食べる方がメインかな。時間ができたら、来てくれるかな?」

「うん、行く!」

「ボクも時間ができたら絶対行くから、その時はよろしくね?」

「うん、待ってる」

 二人は顔を見合わせ、笑い合った。


 クルムが教室に入ると、何人かがのそのそと起き始めていた。

「ぁ……、クルム、おはよう。早いのね……」

 クルムに気付いたリピアが声を掛ける。まだ眠いのか、あくびをかみ殺している。

 他に起きているのはライム、レナルド、ヴァルター。後はまだ寝ている。

「クルム、相変わらず早起きね……」

 ライムが近寄ってきた。

「あ、おはよう」

「うん、おはよう。昨日シモン達が騒いでたから、寝るのが遅くなっちゃった……」

「そうなの?」

「うん、クルムはすっかり寝入ってたけどね……」

 そう言って、カリンはふらふらと廊下に出て行った。

「私も顔洗ってくるわ……。クルム、また後でね」

 あくびをしながらリピアも出て行く。銀髪がさらりと揺れた。


 しばらくして、リピアとカリン、遅れて出て行ったレナルドとヴァルターも戻って来た。

「さて、残り全員起こすわよ!」

「どうするの?」

 リピアの宣言に、カリンが首を傾げる。

「任せて。こういう時のための、伝統的な方法があるのよ」

 と言ってリピアが持ち出してきたのは調理用のフライパンとお玉。

「みんな、耳塞いで」

 言われた通りの耳を塞ぐ。……そして。

「朝よ! 起きなさい!」

 ……とてつもない轟音が教室を震わした。

「「うぉわぁぁああ!!」」

「きゃあっ!」

 効果はてきめんで、全員が跳ね起きた。ただし、よその教室からも人を呼び寄せてしまうおまけもついてきた。


「ぐぉぉ……、耳が痛い……」

「うぅ……、キーンとする……」

(ふるふる)

 リピアにたたき起こされた面々は頭や耳を押さえながらのろのろと動き出した。ペルルに至っては涙目でクルムにしがみついている。

「ホラ、さっさとする! 朝の仕込みがあるんだから!」

「だからって、起こし方もうちょっと考えろよな……」

 フィンが抗弁するが、

「うん?」

「何でもないです」

 リピアの眼光には逆らえなかった。

「おーおはよう。みんな早いなあ。感心感心」

 そこに喫茶店のマスターがやって来た。

「いや、早いっていうか……」

「無理やり起こされたっていうか……」

 ぼそぼそと言うと、

「はっはっは! リピアのアレを喰らったか! いやー、慣れないうちは効くだろう?」

「ええ、おかげさまでバッチリ……」

 ミルトニアがため息をついた。

「私も朝は弱くてね。開店準備がいつもギリギリになるもんだから、見かねたリピアがやるようになったんんだよ。実際今日も……」

「ちょ、ちょっと!」

「え? でもリピアは昨日からずっとこっちにいましたけど……?」

 コナーが言うと、

「リピアの精霊がね。こうフライパンとお玉を魔術で操って、ぐわ~んとね。分かるだろ?」

「あぁ……」

 リピアの故郷がドラゴンに襲われて以降、故郷の人々は精霊となってリピアをずっと守り続けている。そんな精霊をこんなことに使うなんて、

「精霊たちが浮かばれないわ……」

 ミルトニアの言葉に全員が頷いた。

「もう……!」

 リピアだけは不満気だった。



「――今年はここ、中央都市(セントラル)にドラゴンが襲来するという未曽有の災厄があったにも関わらず、こうして豊穣祭を開催できることを嬉しく思う」

 それからしばらく。大半の人々が目覚めた頃、ここ、大地の国を治める王の演説が始まった。

「こんな老いぼれから長々話しても仕方無い。故に手短に済まそう」

 演壇に立つ、自身を『老いぼれ』と評した王は、老いとは無縁の力強さに満ちていた。

「これから一週間、諸君がすべきことはたった二つである!」


「大いに騒ぎ、楽しむがよい!!」

「この私の名をもって、豊穣祭の開催を宣言する!!」


 この時、中央都市(セントラル)だけではなく、大地の国全てが歓声に包まれた。大地の国、いや、他の国をも巻き込む狂乱の一週間が、今始まった。



「さて、クルム君、準備はいい?」

 教室の隅に小さく作った控え室。そこには制服に身を包んだクルムと、化粧道具をずらりと揃えたミルトニアがいた。

「最初にやってみたときからずっとプランを考えてきたからね。誰が見てもクルム君とは分からないようにしてあげるわ……!」

 何か変なスイッチが入ってしまったミルトニア。うふふふ、と不気味に笑いながら、クルムに化粧を施し始めた。


「最終的に一番ノリノリなのはミルトニアだよな……」

 控え室の外でフィンが呟く。控え室から追い出され、今はコナーやレナルドと不気味な笑い声を聞いている。

「女子って、あんなに道具揃えて化粧するんだな……」

「うん、貴族だからなおさら大変だよね……」

 コナーとレナルドは、ミルトニアが持ち込んだ化粧道具一式を見て少々引いていた。ミルトニアは一体どれだけ本気で臨んでいるというのか。

「そういえばリピアは?」

「向こうの調理スペースでマスターと準備してるぞ」

 レナルドが聞くとフィンが答えた。リピアは真剣なまなざしで準備をしていて、控え室から漏れる笑い声には気づいていないようである。


「フィン、いるー?」

 と、そこにジニアが入ってきた。軽食店を開くジニアのクラスも制服を揃えていたのか、ジニアはエプロンをしている。

「ん? ジニアか、どした?」

「いや、様子はどうかなー、と。ついでにライバル店を偵察」

「おいおい。だったら堂々とやるなよ」

 呆れたようにフィンが言う。それに構わず教室をぐるりと見渡すジニア。

「……あれ? クルム君は?」

 クルムがいないことに気付いた。

「あー、クルムは今……」

「よっし、できた!」

 何か言おうとしたところでミルトニアの声がした。フィンは何かを思いついたのかニヤッと笑い、

「クルムはこん中だ。見るか?」

「え、いいの? クルム君の制服姿、興味があったんだよね。どんな風になってるのかな」

「ミルトニア、もういいのか?」

「いいわよ、完璧!」

「んじゃ、入るぞ」

 フィンが控え室入り口の暗幕に手をかける。後ろにはいつの間にかリピア以外のクラス全員が集まっていた。

 そっと暗幕を取り払うと、やたら自信に満ちた顔をしているリピアと、女性用の制服に身を包んだ少女(’’)がいた。


「……え?」

 それは誰の呟きだったか。全員がポカーンとその光景を見ていた。

 髪はそのままだと見慣れたクルムになってしまうため、長い黒髪のカツラを被せて、更にその上からカチューシャを付けた。カツラは作り物のはずだが、光を浴びて輝くそれは、不思議と初めからそうだったと思わせるくらいなじんでいた。

 眉毛は整えられ、自然ながらもクルムの顔立ちをしっかりと印象付けている。

 目は元々ぱっちりしていたが、うっすらと影を付け、まつ毛を付けた。これらによって垂れ目気味に見えるようになり、早い話が更に少女らしい目となった。

 頬は前回よりも更に自然に見えるよう薄く桃色が付けられ、唇も見た目にも柔らかそうな色合いとなった。

 そして身を包むのは女性店員用の服。クルムの足元までスカートの裾が伸びていて、クルムが動くとそれに合わせてふんわり揺れる。クルムはそのままフィン達の元まで近寄ってきた。

 クルムは背が低いので、どうしてもフィン達を見上げる恰好となる。つまり、自動的に上目遣いになるのだ。するとどうなるかというと、

「こ、こりゃ、反則だろ……」

「うわー、この前よりすごいねぇ……」

「え? これ、クルム君? ホントに?」

 全員が目をこすりながら確かめる有様となった。


「クルム、似合ってんなぁ……」

「ホントね~、本物の女の子っぽい」

「ね……」

 シモンやカリン、ライムがクルムの周りを回りながらあれこれ確かめる。

「ちょっと……、恥ずかしい……」

 制服の裾をきゅっと握り、顔を赤くしてそんなことを呟けば、

「うっ! これはますますヤバイぞ……」

「破壊力が……」

 全員が直視できなくなってしまった。そんな中、

「ふっふーん、どうよ!」

 ミルトニアだけは大変満足気だった。

え~、全然進まないぞ! どーなってんだ!?

はい、クルム君、とうとう女装してしまいました。

この手の話のお約束、ですよね?


なお、作者は男なので、女性向けの化粧についてはケの字も知りません。

ツッコミどころ満載だと思いますがどうか平に、平にご容赦ください。

また次回、お会いしましょう!


P.S 日頃見て下さってる皆様、ありがとうございます! 閲覧数がちょっとずつでも伸びていってるからこそ、コツコツ続けられています。これからもどうぞよしなに……。

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