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「モンスター・テイマー」と呼ばれた少年  作者: olupheus
第3章 秋のお祭り騒ぎ!
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その目は秋の波?

さあ、豊穣祭、準備も佳境に入りました!

 豊穣祭まであと数日となった。中央都市(セントラル)のあちこち、国中のあちこちで準備が進められている。そして、クルム達の通う学校でも、HRクラスごとに出店やアトラクションなどの準備が進められている。そんな中で……。



 突然すみません! 俺、この学校の新聞部の者っす! 豊穣祭で展示する新聞のネタ集めのため、準備の様子を見て回ってます。何かいいネタないですかねぇ……。


 普段は授業で使う教室やらをめいっぱい改造して喫茶店風にしたり、ちょっとしたアトラクションを作ったり、色んな工夫があって面白いですねぇ。そんでもって、年上が年下の子たちを引っ張って一緒に準備する……。貴族とか平民の身分差はあってもみんなで一丸となって頑張る姿は絵になります!


 ……と、ここも喫茶店ですか。ちょっと中を見せて頂きましょうかね。

「おー、こんなところで何してんだ?」

 やや、冒険者のクラスで一緒になることの多いフィン君ですな。ここは彼のHRクラスだったんですね。

「ちょっと、新聞部の取材で……」

「あー、あれか、お疲れさん」

「いえいえ。……今は何してるんです?」

「あー、衣装合わせだ。この日のためにユニフォームを作ったからな。実際に着てみようってことになったんだ」

「ほうほう、そうなんですね」

 むむぅ、そうなると今のところネタにはならなそう……。


「あ、そうだ。せっかくだから見てくか?」

「よろしいので?」

「ネタ欲しいんだろ? 衣装合わせでネタになるかは分からんが、見るくらいなら別にいいだろ?」

「まぁ、そうですねぇ……。時間もありますし、拝見しましょうか」

「おっけ。ちょっと待っててくれ」


 フィン君は後ろに引っ込みました。さてさて、イタズラ者として校内では有名な彼ですが、一体何を出してくるのやら……。

「こっちだぞ」

「おにいちゃ~ん、これ、恥ずかしいよぉ~……」

「だ~いじょうぶだって。似合ってる似合ってる」

「うぅ、ホントに?」

「ホントホント。ほら、それに今から慣れておかないと、当日はたくさん人が来るんだからな」

「……うん」

 ……何やら不穏な会話が聞こえてきますが、本当に大丈夫なんでしょうか……。


「待たせたな。クルム、こっちだぞ」


 後になって思い返しましても、その姿を見たときの衝撃ときたら。新聞部の記者としては恥ずべきことですが、言葉を失ってしまったのです。思わず手に持っていた手帳とペンを落としたことにも気づかなかったのですよ……。



 時間を少し巻き戻し、クルム達のHRクラスにて。

「衣装が来たぞー!」

 フィンの一言で、クルム達がわーっと集まってきた。丁寧に包装された衣装を一人ずつ取っていく。

「早速着てみようか。きつかったりしたら言ってくれ」

「ヴァルター、覗くんじゃないわよ!」

「だ、誰も覗かないよ!」

「私たちは隣の空いてるクラスで着替えようかしらね」

 ミルトニアに従って女性陣は隣のクラスに移動した。ちなみに、リピアは喫茶店のマスターの手伝いがあるため不在にしている。

「俺らも着てみようか」

 残った全員が頷いた。


 およそ10分後。

「兄ちゃ~ん、これで合ってる?」

「ボタン掛け違えてるぞ」

 シモンがフィンに衣装を直してもらったりはしていたが、概ね全員が衣装を着ることができた。

「クルム君、きつくない?」

「うん、平気!」

 ヴァルターとクルム、それと後から輪に加わったレナルドでやいのやいのとお互いを確認している。

「大丈夫そうだな」

 コナーがぐるりと見回して頷く。

「ああ。……女子は?」

「まだかかりそうだな。……っと、来たか」

 教室の扉が開き、ミルトニア達が入ってきた。

「お待たせ。……あら、意外と決まってるのね」

「意外とか言うな」

 コナーが返す。


「シモンとクルムはマスターのとおそろいだっけ?」

「そうだぞ! かっこいいよな!」

「うん、似合ってる」

「ライムとカリンのも似合ってるよ」

 シモン、クルムと合流したライム、カリンは4人でお互いの衣装を見せ合っている。デザインは男性用、女性用の2種類。男性用はマスターの衣装、女性用はリピアが着ているものと同じデザインになっている。フィンの家のメイド達が丹精込めて作った衣装は、オリジナルと寸分違わない出来栄えであった。


「よし、じゃクルム、ちょっと来てくれるか?」

「あ、うん」

 しばらくして、フィンに呼ばれたクルムは後ろをとてとてとついて行く。そして入ったのは隣の空き教室。

「さて、クルム……」

「?」

 クルムは首を傾げる。

「クルムだけ、採寸に時間がかかったろ? あれ、もう一種類の衣装を作るのに必要だったんだよ。で、今ここにその衣装がある。いきなりみんなに見せるのはきついと思うから、ちょっとここで着てみてくれないか」

「僕だけもう一つあるの?」

「そうなんだよ。多分、似合うと思ってな」

 クルムは手渡された衣装を広げる。それはミルトニアやライム、カリンが着ていたものと同じ衣装だった。

「あれ? これ、女の子が着るほうじゃ……」

「そうなんだが……、それ、クルム用だ」

「ええ? ……恥ずかしいよ」

「大丈夫だ。似合うって。それに……」

 すすす……、とフィンが近付く。

「それ、リピアとお揃いだぞ?」

 クルムの目が大きく開いた。

「それ来て、頑張ってリピアの手伝いをすれば、きっとあいつ、喜んでくれると思うんだよな~……」

 クルムは目の前の衣装に目を落とした。

「で、クルム、どうする?」

 もはや詐欺か何かの手口で、フィンはクルムに語りかける。

「僕、着る!」

「お、そうか! じゃ、着方はミルトニアに教わってくれ。俺は外に出てる」

 入れ替わりでミルトニアが入ってきた。

「クルム君、ゴメンね? フィンたら、全く……。それじゃ着方なんだけど……」


 15分後。

「……遅くね?」

 フィンが指をとんとんしながら呟く。

「ミルトニア、何してんだ?」

「10分あれば着れるはずだよね?」

 コナーとレナルドも心配そうに、クルムがいる方の壁を見る。

「……ちょっと見てみるか」

 フィンの提案に2人は頷いた。


「おーい、ミルトニア、入るぞ。いつまでかかってんだ……、あ?」

 フィンが教室に入ると、何やら筆のようなものを指の間に挟んだミルトニアが見えた。

「あ……、フィン」

 ばつが悪そうに苦笑いするミルトニア。

「クルムは?」

「……そこよ」

「……え?」

 ミルトニアが指差した先、それを見たフィンは言葉を失った。

「どうしたフィン……って」

「んん? え、誰?」

 後ろから来た2人も言葉を失った。そこにはクルムがいたはずなのだが、今目の前にいるのは、


 まごうことなき、美少女だったからである。


「お兄ちゃんたち、誰ってひどいよ~。僕だよ~」

 頬を赤くして、上目遣いで見上げてくるその少女からは、確かにクルムの声が聞こえた。

「み、ミルトニア……、一体、何をしたんだ……?」

「いや、その……、衣装着せたら思ったよりぴったり似合ってたもんだから……。ついついお化粧しちゃったんだけど……」

「それでここまで変わるのか!?」

「元々女の子っぽい顔つきだったからね。楽だったわ……」

 ミルトニアは顔を背けたままぼそぼそ呟く。今更やりすぎたことを自覚し始めたようである。


 衝撃から少し冷静になり、改めてクルムを見てみる。

 髪は今のところ何もしていないのでそのまま。目は少し大きく見せるために影を作ってあり、頬は血色を良く見せるため少し赤くしてある。唇はピンク色の口紅を塗り、柔らかそうに見える。衣装は女性用のもので、これらを総合すると、

「どこからどう見ても、男には見えないぞ……」

 という感想に集約されることになる。


「これでもあまり塗ってないのよ? 私が社交パーティに行くときよりも少なく済んだんだから……」

「てか、自分の私物使ったんか……」

「ちゃんと新品を別に用意したわよ」

 ミルトニアがぶすっとした表情で言う。

「と、とりあえずだ。クルム、向こう行ってみるか」

「え? え?」

 クルムはフィン達に押されるようにして、元の教室に連れられた。女装したクルムを見た残りのメンバー、そして遅れてやって来たペルルの反応は、概ねフィン達の反応と同一だった。特にペルルあたりは、

(ま、負けないもん!)

 と言わんばかりに、両手をぎゅっと握った。何に勝とうとしているのかは、きっと本人にしか分からない。そして、新聞部員の反応に続く……。

すごく今更ですが、学校でやる豊穣祭はまんま文化祭のイメージです。

ああいうのって、本番よりも準備してる頃の方が印象に残ってたりするんですよね。きついこともありますけど、やっぱり楽しいんでしょうね。


次くらいからいよいよお祭りの本番です。お楽しみに!

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