唇寒し、秋の物言い
え~、ちょっと他に書きたいネタが思いついて、そっちに集中してたらいつの間にかこんなに時間が経ってました。……てへ。
クルム達が衣装の採寸をしてから数日後。夕方近くのギルドハウスに元気な声が響く。
「ただいま~!」
「お帰り、楽しかった?」
外から帰ってきたクルムを出迎えたのはマルタだった。クルムは手に袋のようなものを持っている。
「これ、きっさてん? のおじさんからお土産だって!」
「あら、ちゃんとお礼は言った?」
「うん!」
ミラが袋を受け取り、中に入っていた四角い箱を開けると、中には甘いお菓子が入っていた。お茶請けに丁度よさそうである。
「うわ、おいしそう! ……クルムはさっき食べてきたばっかりだろうから、また後でね」
そう言って、マルタはいそいそと箱を奥にしまった。
それを見ていたクルムの元にメル、フェリ、ティルが近付いてきた。3匹はすんすんとクルムの匂いをかぐ。どこからか甘い匂いがするのが分かるようだ。やがて口元に鼻を近づけると、誰ともなくペロリとなめ始めた。
「うわっぷ!」
止める暇もなく魔物たちに押し倒されるクルム。事情を知らない者が見たら血相を変えて冒険者を呼びにいくところだが、珍しく今日は人がいなかった。
3匹が満足するまでクルムは押し倒され続け、音を聞きつけたマルタが駆けつけた頃には、涙目でこちらを見上げるクルムと、やり過ぎたとうなだれる3匹がいた。
クルムはリピアが暮らす喫茶店に向かっていた。実際にどのような形で接客をしているのか、実際に見て勉強するためである。お出かけ用の肩かけカバンに少しのお小遣いを入れて、鼻歌まじりに歩いていた。
ほどなく喫茶店が見えてくる。どきどきしながら入り口の扉に手を伸ばす。自分の顔より少し高いところにある取っ手を握り、ぐっと押す。……開かない。
「?」
首を傾げながらもう一回押す。やっぱり開かない。
「??」
どうしようと右、左と見回すと、扉が音をたててこちらに向かってくる。
「クルム、この扉、外から入るときは引き戸なのよ」
見ると、リピアが苦笑しながらこちらを見ていた。
「いらっしゃいませ。いつまでもそんな所に立ってないで、入って入って」
リピアに急かされるまま、クルムは喫茶店の中に入った。
扉がチリンチリンと音を立てて閉まる。クルムが中に入ると、まず嗅いだことのない匂いを感じた。次に中をよく見ると、木造の感じを出すためか、壁やテーブルに木の模様が見える。
今は営業中のため、自分以外のお客さんが何組か来ていて、思い思いに楽しんでいる。しゃべり声が聞こえるが、そんなに大きい声ではないので、不快な感じはしなかった。
「テーブルとカウンターがあるけど、どっちがいい?」
「んー、どうしよう……」
クルムが悩んでいると、
「クルム君はまだ小さいから、カウンターじゃ座るの大変じゃないか?」
奥から喫茶店の店主が現れた。
「こんにちは!」
「こんにちは。今日も元気だね。でもここではお静かに」
そっと人差し指を口にあてる。クルムははっとした表情で、両手で口を抑える。周りを見ると来ていたお客さんがくすくす笑っていた。
「とりあえずそこに空いてるテーブル席があるから、そこに座って待っててくれるかい?」
「うん」
頷いたクルムはテーブル席の椅子にちょこんと座る。カバンを体から話して隣の席の上に置いた。
「はい、メニュー」
しばらくしてリピアが来た。テーブルに置かれたメニューをじっと見る。
「クルムにコーヒーは苦いから、ジュースがいいかな? お菓子はこっちよ」
そしてクルムの横でしゃがみ、あれこれとメニューの説明を始めた。
「おーい、リピア。それじゃクルム君が決められないぞ」
「別にいいの、クルムはここに慣れてないんだし……。どうする、何が食べたい?」
店主の苦言はあっさり一蹴されてしまった。肩をすくめる店主。
「じゃあ、ホットミルクと、ケーキ? がいいな」
「うん、じゃあちょっと待っててね」
クルムの注文を聞いたリピアはメニューを持ち、奥に引っ込む。後ろで一つに束ねられた銀髪がふわりと翻る。
することが無いクルムはしばらくプラプラと足を動かしながら、店の中を見回したりした。カウンターの向こう側ではリピアがせわしなく動き回っている。
リピアは喫茶店用の制服を着ている。長いエプロンのようなものに、ふんわりとしたスカート。どことなくこの前見たメイドの服に似ている気がする。
やがて、リピアがお盆を持ってクルムのところにやって来た。
「はい、ホットミルクにケーキ。ホットミルクは熱いから気を付けて」
カップからはほかほかと湯気が立ち昇り、甘い匂いがする。ケーキもクリームが乗っていて、おいしそうである。
「いただきます」
クルムは手を合わせる。
「はい、どうぞ」
リピアが見守る中、クルムはホットミルクを口に付ける……前にフーフーと息を吹きかける。そしてそーっと口を付けた。
砂糖を少し入れているのか、優しい甘さが口の中に広がる。
「……おいしい!」
「そう? ふふ、ケーキも食べてみて」
クルムはフォークを手に取って、食べやすい大きさにケーキの一部を切る。クリームの乗ったそれを口に運ぶ。クリーム特有の、それでいてしつこ過ぎない甘さがこれまた広がる。
「こっちもおいしいよ」
クルムが満面の笑みをリピアに向ける。
「ふふ、良かった」
リピアも笑顔を向ける。その後もケーキを食べて、ホットミルクを時々すすり、やがて皿の上とコップはきれいに空になった。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様。おいしかった?」
「うん!」
「良かった。ところでクルム……」
「?」
「口にミルクとクリームがついてるわよ」
首を傾げるクルムの口元には、確かにミルクとケーキのクリームが付いてしまっていた。
「ちょっと動かないで。今拭いてあげるから」
リピアは制服のポケットからハンカチを取り出し、おもむろにクルムの口を拭き始めた。
「んぅ」
「あ、コラ、動かないの」
クルムが首を動かそうとすると、リピアが空いている手でがっちり固定する。その様子を店主と見ていた別の女性客が、
「ねぇ、店主さん。あの子、リピアちゃんの知り合い?」
「あぁ、学校で同じクラスなんだよ」
「へぇ、そうなの。まるで姉妹みたいに仲がいいのね」
「あぁ、そりゃリピアが結構ぐいぐい……」
「お父さん、何か言った?」
「なんでもないです」
女性客はけたけた笑っていた。やがて口元を拭き終わると、クルムは少しむくれたように、
「むぅ」
と唸ったが、
「口がべたべたになるでしょ」
とあっさり返された。
帰りに、
「これ、お土産。ギルドハウスのみんなで食べるように言ってくれ」
と店主から袋を渡された。
「わぁ、ありがとう!」
クルムは喜んで受け取った。
「クルム、また明日ね。気を付けて帰るのよ?」
「うん、おねえちゃん、ばいばい!」
クルムはぶんぶんと、リピアはゆっくりと手を振る。やがてクルムの影は大通りに消えた。
「さて、まだ営業時間だ。戻るか」
「うん。あ、そういえば……」
「ん? どした?」
「お店のお客さんにまた間違えられたなあって……」
「あぁ、あれはどうしようもないだろ……」
扉を開けるチリンチリンという音がして、二人は店の中に戻っていく。閉まった扉には、『営業中』の板が引っ掛かっている。
今更ながらグラビティデイズを購入。確かに言われるだけあって面白いですねぇ。初代をクリアしてから続編を買おうと思ってるので、今から楽しみです。
そろそろリアルでも文化祭の時期ですね。季節が追いついた!(周回遅れ)
そんな中でもマイペースにやります。……はい、ガンバリマス。




