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「モンスター・テイマー」と呼ばれた少年  作者: olupheus
第3章 秋のお祭り騒ぎ!
57/66

馬肥ゆる、天は高く

今回予告!

この章では戦闘は一切ありません! ついでに新キャラも無し! 多分!

 夏の暑さが大分収まり、涼しい風が吹くようになったある日。中央都市(セントラル)の東門側にあるギルドハウスの中で、クルムは学校の宿題に取り組んでいた。その様子を仔狼のフェリ、仔ドラゴンのメル、そして砂の国から連れ帰ったドライ・アードのティル(命名:クルム)がじっと眺めている。

 クルムが問題を解きながら足をプラプラさせていると、マルタがやって来た。

「そういえばもうすぐ豊穣祭だけど、クルム達も何かするの?」

 と聞くと、

「うん!」

 と返事が帰ってきた。そして、宿題をいったん止め、学校でのことを話し始めた。



「じゃあ、ウチのクラスもお店をやる、ってことでいいのね?」

 学校のHRクラスにて、担任のマリーが確認を取る。すると、生徒全員が異議なし、とばかりに揃って頷いた。

「楽しみだね!」

 祭りの雰囲気に当てられたか、珍しくカリンがはしゃいだ声を出した。

「そうね、いつもは見て回る側だったもんね!」

 ライムも続く。

「冒険者向けの店も出るかもな!」

 シモンはそんなことを言っている。

 クルムはペルルに祭りのことをあれこれ説明している最中だった。……ただし、見て回る側の、子ども目線で。



 豊穣祭は大地の国が秋に開催する祭りで、1年の恵みを様々な神様に感謝する、という目的で行っている。この祭りの特徴は、「国を挙げて」「1週間ぶっ通しで」行われることにある。つまり、普段は真面目に働く役人も、土いじりに精を出す農民も、この時ばかりは酒瓶片手に騒ぎまくるのである。


 もちろん治安維持など、国の運営に最低限必要な部分は機能するが、本当に必要最低限であり、それ以外の機能は全て祭りの運営に回される。そのため、祭りが近付くと周辺の魔物を討伐したり、盗賊を追い払ったりといった依頼が増えるのである。事前に安全確保を行ってしまおうということである。


 中央都市(セントラル)だけではなく、周辺の地方都市、村々でも同じように祭りが行われる。そして都市に入場するための税などもこの期間は免除されるため、いつも以上に往来が激しくなる。これは他の国から来る場合も適用されるため、商売のチャンスを狙った商人も多数訪れ、賑やかを増す一因となる。


 そしてクルム達が通う学校でも、それぞれのHRクラス単位で出店を出すことができるのである。その場合、自分達だけでやるのではなく、中央都市(セントラル)内で店を構えている所に協力してもらい、クラスに出店する、という形になる。

 物珍しい学校、普段見ることのできない学舎が解放されるだけあり人がかなりやって来るので、どの店が出店できるか、競争率が激しかったりするのである。そんな中、クルム達のクラスで出店するのは……。



「いや~、選んでくれて光栄だよ。よろしく頼むね」

 そう言ったのは喫茶店のマスターである。そう、リピアが現在暮らしている、あの喫茶店であった。

「みんなやる気みたいだし、おじさんも頑張って準備するから、よろしくね」

「「「よろしくおねがいしま~す!」」」

 子ども達の声が重なった。



「だから、おねえちゃんのところのきっさ店? を出すの!」

「あら、そうなの? それは楽しみねえ」

 クルムがマルタに話し続けている。

「でも、クルムは何をするの?」

「えーと、僕たちはコーヒー作ったりするのは難しいから、できたコーヒーを運んだりするんだって」

「じゃあ、ウェイターさんをやるのね。いいわねぇ」

 マルタが頭を撫でるとクルムはふにゃっと笑った。



 と、子ども達がそれぞれ祭りを楽しみにしている頃。

 薄暗い室内で、3人の少年が丸テーブルを囲んで座っていた。

「今日、予定通りウチのクラスの出店は喫茶店に決まったな」

「……ああ」

「これで、あの計画が進められるぞ」

「……うん」

「ふふ、楽しみだなあ……! 連中、どんな声を上げるか……」

「……なあ」

「何だよ、今いいところ……」

「これ、何だ?」

「何って……、雰囲気作りだよ、分からないか?」

「「分からない」」

「全く、これだからお前たちは……」

 とその時、部屋の扉がガラッと開いた。

「あんたたち、何してるのよ……」

 顔を覗かせたのは一人の少女である。呆れた表情を浮かべるその少女はクルムと同じクラスである、ミルトニア・ドロレスであった。

「いや、ちょっと今度の出店の相談を……」

 そうまくし立てているのはフィン・コリン、椅子に座って端正な顔を歪めているのがコナー・グリーヴ、もう片方のレナルド・ライリーは苦笑いを浮かべていた。


「あんたが相談って言うと、必ずロクなことにならないわ。今なら許されるから、キリキリ吐きなさい」

 と、ミルトニアがずんずん近づいてくる。

「お、脅しには屈しないぞ!」

 妙な覇気に当てられたか、フィンは後ずさる。

「で? このバカ(フィン)は何を考えてるの?」

 コナーの方に目線を向けると、

「出店に立つ奴の衣装をどうするか考えたいんだと」

「あ、おま……!」

 あっさりばらされてしまった。

「何、そんなこと? ……あんたまさか、私たちにいやらしい恰好でもさせようってんじゃ……」

「はぁ? お前らがそんなことやっても意味ないだろ? 別に色気なんて無い……」

 ばきっ! という音により、フィンは最後まで口にすることはできなかった。拳を握りしめたミルトニアは、

「今度コイツを魔術の被検体にでもしようかしら……、とびきりの苦しみを与えるやつ」

「ま、まあまあ、本人に悪気があった訳じゃないんだし」

「それはそれで腹が立つ!」

 レナルドが仲裁するが、火に油を注ぐだけだった。


「ち、違うんだ……。女子の衣装はいつもリピアがバイトで着てるやつ、男子のはマスターとお揃いでいいんだ……」

「ちっ、威力が足りなかったか……、って何よ? なら何を考えてたのよ?」

 フラフラと起き上がるフィンが抗弁する。

「今、舌打ち……、いや、何でもないです」

 ギロリとにらまれ怯むが、調子を取り戻すように一度咳払いをすると、すすす、と近付き、

「いやぁ、衣装はそれでいいんだけどさ……」

「……何よ?」

 いよいよミルトニアの視線が氷点下まで落ち込もうとしている。

「……気にならない?」

「だから、何が?」


「クルムがさ、リピアとおんなじ恰好したら、どうなるか……」


 その言葉が部屋に響いてしばらく、ミルトニアはゆっくりと右手をフィンに向け、自身の魔素を活性化し始めた。

「あんたはやっぱりここで始末するわ。安心して、他のみんなには『悪は去った』って伝えとくから」

「だああぁぁ! 待て待て待て! つーか『悪は去った』って何だ! いなくなっちまったら普通は悲しむところだろ!」

「変態をクルム君に近づけさせる訳にはいかない!」

「ちょっと待てって、落ち着け! イメージしてみろよ、クルムがリピアと同じ服を着て接客するんだぞ? それが現実になるところを想像してみろよ」

 そう言われ、つい想像してしまった。ウェイトレス服を着たクルムが、お盆を持ってととと、と近付いてくるのである。そしてこちらを見上げて、注文を聞く……。その後、暖かい飲み物とケーキを持って、慎重に、慎重に歩いてくる。テーブルに無事置けたところでホッとしているクルムを撫でると……、

「まぁ、悪くは、ないかも……」

 と、呟いてしまった。

「だろ? どうせ他にも似たような店は出るんだ、ならちょっと他と違うことをやってもいいじゃないか。一日だけでいいからやってもらえたら、面白いんじゃないか?」

 ミルトニアは右手を下した。


「あんた達も同じ考え?」

「正直呆れてるんだが……」

「興味が無いかと言われると……」

 コナーとレナルドが言いづらそうに呟く。それを聞いて、ふぅ、と息を吐き、

「……分かったわ、協力してあげる」

「え? いいのか?」

 フィンが思わず聞き返す。

「あんた達だけでやったら歯止めが効かないもの。ストッパーは必要でしょ?」

「いや、まあ、協力してくれるんなら、ありがたいけど……」

「それに、どうせここで止めても隠れてやるだろうしね。なら目の届く範囲でやってもらった方がマシよ」

 ということをため息まじりに言った。こうして、他の人間には知られることなく、別のプロジェクトがスタートすることになったのだった。

「こんなくだらないプロジェクトがあるかしら……」

よし、何とか1か月も間を空けずに済みそうだ……(泣


はい、新しい章です。大変お待たせしております。今回もよろしくお願いいたします。

リアルはまだまだ暑いですが、しっかり水分と塩分を取って、何とか乗り切りましょう。夏休みはまだか……!


そ、それでは次回もよろしくです!

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