章間 お酒は成人になってから!
幕間話、第2弾です。
筆者はお酒が飲めません故、食べる方で賄ってるのです。
お酒も食事もほどほどに……。
ある日のこと。
次の日がギルドハウスの休息日なので、アルスとマルタ、クルムは近くの宿屋兼酒場で外食することにした。なお、この宿屋はクルムの友達の一人、ライムの実家である。
「あ、クルム、いらっしゃい!」
宿屋に入ったところで、クルムに気付いたライムが近付いてきた。
「もうみんな揃ってるよ!」
クルム達が外食するのなら、と話を聞きつけた冒険者たちや近所の人達も集まって、ちょっとした騒ぎになっている。その中にはシモン、カリン、その家族もいた。
「揃ったな、それじゃ、かんぱ~い!」
冒険者の音頭で飲めや、騒げやの宴会が始まった。テーブルの上には飲み物が入ったコップや、宿屋の名物料理が湯気を上げながら所狭しと並んでいる。
「はい、みんなにはジュースね」
ライムの母親がクルム達に飲み物を持ってきた。中身は当然ジュースである。
「わー。ありがとう!」
「飲み過ぎないようにね。お腹こわしちゃうからね?」
お礼を言われたライムの母親はにっこり笑って去っていった。
「明日お休みだよね? 何して遊ぶ?」
カリンが聞いてくる。
「そうだなあ……、外から何か来る、って話も無いしなあ……」
シモンが頭を悩ませている。
「はい、追加の食べ物……ってどうしたの?」
そこに、大皿を持ったライムがやって来た。
「明日何しようかーって」
クルムが簡単に説明する。
「さっき誰かが言ってたんだけど、西の方で見世物があるんだって」
ライムがさっき聞いたらしい話をすると、
「面白そうじゃん、行ってみようぜ!」
シモンが食いついた。
「それじゃあ、それに決まりだね」
と明日の予定が決まったところで、
「ク~ル~ム~君、こっちでお姉ちゃんたちとお話しましょ!」
ジョッキを持ったミラが突撃してきた。見ると、顔が少し赤い。
「みんな、ちょっと借りるからね!」
と言い、ひょいとクルムを持ち上げた。さすが冒険者と感心する暇も無く、クルムは連れ去られてしまった。
「ああぁ~~~……」
「あっ、クルムが!」
「返しなさ~い!」
「あ、みんな、待って~」
その声も周りの喧騒にかき消される。
「連れてきたわよ!」
「ホラ、クルム君、こっちに座って!」
ミラに抱えられたクルムは、女性の冒険者が陣取る一角に運ばれた。周りが見たら羨みそうな光景ではあるが、何しろ彼女たちは現在進行形で酔っ払いなのだ。”触らぬ神に祟りなし” 状態である。最もクルムの場合、祟り神の方からやって来てしまったのだが。
そしてそこに、勇者たちが連れ去られた生贄を救いに来た。
「クルムを返せ~!」
「お、キミたちも私達と飲むかい?」
「え?」
「ほらほら、こっち来て、まとめて面倒見てあげちゃうよ?」
「わっ、わっ」
かくして、あっという間に3人の子ども達は哀れな犠牲者に早変わりしたのであった。
その頃、別の一角では。
「そっちはどうだ?」
アルスがカウンターに腰かけ、神妙な面持ちで話題を振る。
「ウチは早くも反抗期がスタートしたみたいでな……。『おれ、冒険者になるんだ!』ってずっと言ってるよ。せっかちなあいつに冒険者は向かないと思うんだがな……」
最初に喋り始めたのは武具店を営む、シモンの父親である。彼としては実家を継いでほしいようだが、息子の希望は全く違うようで、頭を悩ませているようだ。
「ウチは魔術士希望だって言ってる。冒険者になるかは知らないが、できればならないで欲しいな」
次はカウンターの向こう側にいる宿屋の店主、すなわちライムの父親である。
「ウチはまだそういうことは言ってこないな。まあ、これからのんびり決めればいいんだろうけどな」
最後がカリンの父親。カリンの家は道具屋だが、彼自身、家を継いでほしいなどの希望は無いようである。
「そうか……。クルムもそうだな。というか、クルム、将来何をしたいんだろうな……? 冒険者とかかな……、しょっちゅうグレイブとかから話聞いてるし……」
「いや~、クルム君に冒険者が務まるか? 結構、繊細そうな子だぞ?」
「魔物絡みなら分からないぞ? 今までにもあったんだろ?」
「まあ、いい子なんだから、しっかり見守ってやればいいんじゃないか? 道を外れたりはしないだろ」
「そうなんだがな……」
子育てに悩む男衆の夜は続く……。
一方、自分達が話題になっているとは知らない子ども達は。
「ほら、口開けて。あ~ん」
「はむっ」
「あはっ、食べた、かわいいなぁ~!」
まだミラ達、女冒険者のオモチャにされ続けていた。
「あれ、みんな、飲み物は?」
「ないよ~」
「じゃ持ってきてあげるから、ちょっと待ってて」
一人が席を立ち、飲み物を取りに行った。
「戻れなくなっちゃったね……」
「うん、でもしょうがないよね……」
ライムとカリンがこそこそ話す。ちなみに、2人とも抱き上げられて、がっちり拘束されている。シモンも抱き上げられてあたふたしているし、クルムはひな鳥のように食事を与えられている。
「お待たせ! 持ってきたわ! はい、これ、みんなの分」
やがて飲み物を取りに行った一人が戻ってきて、それからガールズトークの再開となった。やれ、ウチの男どもはデリカシーが無いだの、人の扱いがなってないだの、大半が同じグループにいるメンバーの愚痴だった。
それを察してか、この一角に近付く人はいなくなっていた。安易に近付けばどうなるか、子ども達が身を持って証明していたからである。
「あら、クルム君、どうしたの?」
「のどかわいた……」
クルムがテーブルを見回し始めたのを察して声を掛けてみると、飲み物が欲しいようである。
「はい、これ」
「ありがとう」
女冒険者がコップを渡すとクルムがコクコク飲み始めた。あらかた飲み終えた瞬間、カクン、と頭が下がった。
「あれ、クルム君、どうしたの? もしもーし?」
呼びかけても返事が無い。周りも異変に気付いてクルムの方を見る。やがてクルムがゆっくりと頭を上げ、冒険者の方を見る。目は寝ぼけたようにとろん、としていて、頬がほんのり薄紅に染まっていて、これは……。
「……ひょっとして、酔っぱらってる?」
「でも、クルム君が飲んだのってお酒じゃ?」
コップに僅かに残っている飲み物を飲んでみると、
「あ、これ、お酒じゃない!」
「え、ウソ!」
慌てて隣にあるコップの飲み物を飲んでみると、
「ジュースだ、これ……」
どうやら、渡すコップを間違えてしまったようである。
「ちょっとクルム君、大丈夫?」
呼びかけてみると、いきなりクルムは自分を抱いている女冒険者にギュっとしがみついた。
「え? え!?」
困惑する女冒険者をよそに、クルムはギュっとしがみついたまま離れなくなった。
「どうなってるの?」
「マルタ呼んでくるわ」
しばらくしてマルタがやって来た。
「クルム、どうしたの? 大丈夫? 疲れたならもう帰る?」
するとクルムは首をぶんぶんと横に振った。
「やだ……、おねえちゃんといっしょにいる……」
と、どこか舌足らずな感じで言ったのである。
「マルタ、この子一晩借りていい?」
「だめに決まってるでしょ! ほらクルム、もう遅いんだから、帰るわよ!」
「や~だ~、おねえちゃんと一緒がいい……」
とんでもないことを言い出した女冒険者を一喝して、駄々をこねるクルムを引きはがした。すると、今度はマルタにしがみついたのである。
「あら……」
やがて、すー……と寝息が聞こえてきた。クルムは幸せそうに、マルタの腕の中で眠り始めてしまった。
「寝ちゃったわ」
「酔っぱらったせいかしら……、でもあれって……」
「クルム君って、酔うとますます甘えん坊になるのね……」
みんなで口々に言い合う。
「ところで、あなた達もそろそろ子ども達を離してあげなさい。なんか疲れた顔してるわよ?」
「あ、ごめんなさい」
こうして、哀れな犠牲者たちはやっと解放されたのだった。
翌日。
ギルドハウスは休みなので、いつもよりはのんびりと掃き掃除をしていたクルムの元に、昨日の宴会に来ていた冒険者たちがやって来た。
昨日はごめんね、とか大丈夫だった? とか心配する声の他、また一緒にご飯食べようね、とか、今度また一緒に飲む? とか言う声もあった。
実はクルム本人は昨日のことをよく覚えていないので、首を傾げるばかりだった。それでもご飯のお誘いには行く! と元気よく返事した。
その返事を聞いた冒険者たちは笑いながら去っていった。今日も天気のいい、平和な一日になりそうだった。
先週までは一回文明が崩壊した大自然の中で機械に追いかけまわされながら、弓と槍を振り回してました。
いや~、人の表情の自然さは今まで見た中でNo.1でしたね。……え? ゲームの話ですよ?
もうそろそろ次の章に入ると思いますが、まだちょっと未定です。まあとにかく、次回もお楽しみに!




