ダスク・オース<夕暮れの誓い>
最近暑くなりましたね。雨も降るようになったし、体調には十分お気を付けください。
まあ、そんな訳で、今回もどうぞ。
<砂漠の国:首都南側の砂漠>
下に誰かいる。見間違いかも知れないが、場数を踏んできたミラがそうそう見間違いをするとは考えづらかった。そして、今砂漠の下にいる人間といえば……。
(くそ、何てタイミングだ……!)
歯嚙みしながら、グレイブはそんなことを思った。だが、迷っている暇は無い。確認できる限り4体は近くにおり、そのうち1体は人影の間近で顔を出している。もしそれが暴れたり、地面に潜ったりした場合、どうなるか分からないのである。
「やるしか、ないか……」
この状況を打ち破る手段は唯一つ。暴れたり潜られたりする前に倒すしかない。すなわち、あの巨体に対しほぼ一撃で、かつ一瞬で致命傷を与えるのである。
「ミラ、いいか。俺は人影に一番近いヤツをやる。その間に地面に潜ってるヤツは顔を出させて、地上に出ているヤツは行動不能にしろ。片づけたら加勢する」
「グレイブ? できるの?」
「下にいる連中の安全を確保するにはそれしかない。俺の魔素なら2体までなら何とかできる。それ以降は役に立たなくなるだろうからな、任せる」
「兵士たちは?」
「一体目を倒した時点で地下に突入させ、人影の救出だ。すぐにかからせろ。議論している暇はない」
「……分かった」
グレイブのグループは、グレイブのみを残しその場から離れた。
「という訳で、魔物は私たちが何とかします。あのサンドワームの足元に人がいるはずなので、あれが死んだ時点で動いてください」
「……分かった。どのみちあいつらを何とかしなければこちらも危険だからな。しかし、良いのか?」
「足止めだけならかえって少人数の方が好都合です。魔物が目移りしませんから」
「そうか……。では、我々も我々の仕事をしよう。各員、行くぞ!」
部隊長の声で兵士たちが動き始めた。
「私はグループの元に戻ります。では」
そう言ってミラもその場から離れた。
グループのメンバーが離れた後、グレイブは目を閉じ、一人集中していた。魔素を活性化させている。
(全く、こんなことになるなんてな……。ちょっとした休暇のつもりだったのに)
辺りは夕暮れで暗くなりかかっており、気温も下がっているのだが、グレイブの額には玉のような汗が多数浮かんでいた。
イメージは何物をも切り裂く長い刀。それを自分が持っている剣に纏わせる。そして剣を、刀を抜刀するときの持ち方に変える。
(あんなのを一撃だなんて、冗談じゃない。普段なら絶対やらんぞ……、だが……)
僅かに目を開く。
「だが、ちゃんと無傷で連れ帰らないと、何を言われるか分からんからな……!」
そして、抑えに抑えた激情を、一気に解放する。
『抜刀——隼!』
――神速の刃が飛び、サンドワームを貫いた。
しばらくサンドワームはピクリとも動かない。だが、しばらくすると。
ズズ……、と体がずれ、上半身が地面に落ちた。
グレイブはそれに目をくれず、振った刀を構え直す。
今度は足に力を込め、ミラ達が足止めした一体に突っ込む。
『納刀――燕返し!』
返す刃が、サンドワームを斬り刻む。
そのままグレイブはサンドワームの向こう側まで走り抜けた。
サンドワームは反応する間もなく、上半身を分けられた。
走り抜けたグレイブは安全圏まで退避し、その場にへたり込んだ。
グレイブは魔術の扱いがそれほど得意ではない。それこそ冒険者の平均と比べても下回るほどである。だからこそ近接武器による戦闘をメインにしているのだが、やはり魔術の攻撃力、破壊力と比べると見劣りしてしまう。
そこでグレイブは、体内の魔素をコントロールして武器に纏わせ、攻撃力を大幅に上げる術を身に付けた。結果は今見た通り、柔らかめの魔物ならほぼ一発で両断する。
ただし、これを発動するとグレイブの体内にある魔素のほぼ全てを消費する。発動後は魔素の枯渇によりまともに戦闘ができなくなるのである。
もう一つ、持続時間が長くないという欠点もあった。よほど節約しても、3発攻撃を放てば終了してしまうのである。更に、攻撃回数を増やせば一発あたりの攻撃力は分散される。
まさにここぞという時にしか使えない、グレイブの奥の手の一つである。
「後は……頼む……」
体内の魔素を一気に、ほとんど使い尽くしたことによる激しい疲労と倦怠感が体を巡っている。息も絶え絶えに、後事をミラ達に託した。
ミラ達はひとつ頷き、残り2体のサンドワームに立ち向かう。その後ろを兵士達が駆け抜ける。救出対象はもう、手の届く範囲にまで近づいていた。
<砂の国:地下洞窟>
グレイブ達がサンドワームと遭遇した頃、クルム達は一旦元来た道を引き返していた。ミラが見た人影はやはりクルム達だったのである。
いきなり振動が襲ったかと思うと、目の前にサンドワームが現れた。子ども達は一瞬でパニック状態になり、声を上げようしたが、寸前で大人たちがブロックした。そして、そのまま元来た道を引きずるように戻ったのだった。
振動は絶え間なく続いている。子ども達は身を寄せ合って恐怖に耐えていた。その中にはクルムやペルルも含まれていた。特にペルルはクルムに顔を押し付けて震えている。サンドワームを間近で見たことにより、トラウマが再発してしまったようである。
(くそっ、上はどうなってんだ? 何でこんな時に現れるんだ……!)
(あのサンドワーム、何でこっちを狙ってこない……?)
サンドワームに気付かれないようこそこそと話しながら、子ども達を何とか宥め続ける。
やがて、振動が少しずつ小さくなっていくことに気付いた。
(……?)
程なく、複数の足音がどやどやとこちらに近付いてくるのを感じた。顔を見合わせていると、自分たちが進もうとしていた方向から、見覚えのある恰好の人間が姿を現した。
「いたぞ! 無事か!?」
それは、砂の国の王城に務める兵士たちだった。
<砂の国:首都南側の砂漠>
ミラ達はグレイブを欠いた状態で、残り2体のサンドワームに相対している。
(まだなの……!?)
ミラ達はグレイブが攻撃を行い、兵士達が突入してから、サンドワームの足止めに徹していた。人影にほど近い魔物は倒したが、それでも下手に暴れられれば危険、という状況に変わりはない。それに、グレイブを欠いたためグループ全体の攻撃力が落ちており、早々攻撃に転じられないという事情もあった。
何とかサンドワームの足を止め、地面に潜られないよう注意を引き続ける。と、
「救出対象を発見! 全員そろっている! 無事だ!」
という声が響き渡る。
その言葉を待っていた。
ミラ達の目の色が変わった。
もう遠慮する必要はない。
目的は唯一つ。
「殲滅するわよ……!」
そう言って、ミラは短く、深く集中する。
発動するのは氷の魔術。
だがここは乾燥地帯、水分はほとんど存在しない。
だからミラは体内の魔素を叩き起こす。
ひたすら、どこまでも活性化させる。
そして、氷のイメージを与える。
目標は、目の前のサンドワーム。
そして、叫ぶ。
『アイス・ジャベリン!!』
――巨大な氷の槍が、サンドワームを貫く。
何と、氷の槍は2体のサンドワームをまとめて串刺しにした。
氷の槍は、それだけ長大だった。
だが、まだサンドワームは辛うじて生きている。
ミラの魔素は今の魔術にほぼ全てを注ぎ込んだため、尽きかけている。
だが、それで良かった。
なぜなら、トドメを差すのは。
ヒュッ、と。
ミラの仲間たちが矢を放つ。
放たれた矢はタイミングを違えず、2体のサンドワームを同時に捉えた。
そして、重い音を立ててサンドワームが倒れた。
お互い顔を見合わせ、ぐっと、親指を立てる。
こうして、砂の国の首都全体を巻き込んだ救出作戦は、救出対象を全員確保したことで、成功を収めることができたのだった。
とうとう……、とうとうモンスターハンターにまで手を付けるようになっちまった……! 他の人がやっているの聞いてると無性にやりたくなるんですよね、まだ途中のゲームが幾つかあるのに……。
PSP時代で知識が止まってる人間には狩技とかスタイルとか訳ワカメですよ、便利なんですけど。こうして人は時代から取り残されるんだなって、ちょっと思いました。
あ、そろそろこの章も終わりかな? 長かった……。




