サイコロジカル・ブレーク<姫のトラウマ>
はい、1か月以上も間を空けてすみませんでした!
言い訳は一番下にあります! 良ければご覧になっていただければと思います!
<砂の国:地下洞窟>
「へえ……、動物や、魔物とねぇ……」
小声でこそこそと話す先生と砂の国の男たち。魔物を癒し、まるで何を言っているかが分かるかのようにふるまうクルムを見た男たちが、先生に説明を求めたのである。視線の先では、クルムや子どもたちと、先ほどクルムが治した魔物が仲良く歩いている。
「そうなんです……。まさかこんなところで力を発揮するとは思いませんでした……」
そう言って先生はがっくりと肩を落とした。何しろ、『魔物は人を襲う』のが当たり前で、それが共通認識だったのである。先生自身、話には聞いていたが、人と魔物が仲良く暮らしているなど到底信じられる話ではなかった。そこに目の前の光景である。1秒ごとに常識が崩れていくような感じがした。
「そうか……、先生も苦労してんだなぁ……」
先生の様子を見た男たちは思わず慰めに回った。よく聞くと「上に出れたらうまい酒場連れてってやるから」なんて声も聞こえてくる。
「しっかし、なんだ。子どもらの様子がさっきと随分違うな」
「俺たちもだよ。さっきより気持ちがピリピリしてない。何なんだ?」
「少し甘い匂いがするな……、まさか、あの魔物か?」
クルムが魔物を治してから、一行の雰囲気が目に見えて変わった。いつ襲われるか、というピリピリした空気がだいぶ和らいだのである。それにかすかに甘い香りもする。どう考えても、原因はその魔物だった。
「なあ、どうする?」
「魔物に気付かれたらおしまいだぞ?」
「う~ん、匂いを出すのをやめるように言っても通じるか……?」
サンドワームがこの香りを嗅ぎつけて一直線に襲い掛かってきたら、その時はもはや抵抗することはできないだろう。だが、
「今の空気感を保ったままの方がいいような気もするんだよな……」
正直なところ、さっきまでのピリピリとした緊張状態を維持させながら進むのは、自分たちはともかく子どもたちには無理だろう、と踏んでいた。必ずどこかで糸が切れ、最悪の場合は進むことさえできなくなる、ということも考えられた。だから、
「先生さんはどう思う?」
リスクを避けるか、リターンを維持するか、先生に意見を求めた。
「確かにこの状況下でリスクはできるだけ抑えたいですが……、私はこのままで良いと思います」
「ほう、その心は?」
「子ども達のことを考えると、緊張状態が切れたときに更なるリスクを呼び込むことになります。それに……」
ちらと、子ども達を見る。
「ご覧の通り、もうあの魔物は子ども達の仲間になっています。今から取り上げると、元々いなかった時よりも更にひどいことになるでしょう。だから、魔物が来ないことを信じて、一刻も早く脱出することを考えましょう」
「そうか……、そうだな。俺たちもおこぼれに預かってる訳だしな。早く上に戻るとするか」
とはいえ先の見えない洞窟探検である。そうそう簡単に出口は見つからない。歩き続けてどれくらいの時間が経ったか、その感覚も曖昧になっているが、目に見える成果は無かった。子ども達だけではなく、大人も疲労の色が濃くなっている。
そんな中、
「ペルル……?」
クルムがペルルの方を見た。何か様子がおかしいことに気付いたのである。いや、子ども達は疲労から一様にうつむいているのだが、ペルルのそれは疲労とは明らかに違っていた。まるで何かに怯えているようである。
「どうしたの?」
クルムが顔を覗き込むと、ペルルはクルムの腕を掴み、クルムの目を見返した。
(……!)
何かを伝えようとしているのだろうか。しかし、クルムは眉を寄せている。どうやら、意味のある言葉にはなっていないようである。
「クルム君?」
周りの子ども達もクルムの様子に気付き、声を掛けてきた。
(……むりなの)
今度ははっきりとした言葉で伝えてきた。声には出ていないので、クルム以外は首をひねっている。
(みんなここでしぬの! あの時みたいに! 何もできないまま、あのまものに……!)
言葉だけではなく、あの時からずっとフタをして、感じないように、考えないようにしていた、どろりとした思いが濁流の如く押し寄せた。
(わたしはこわいの……! やだよ……! お母さまみたいにだれかがしぬのも、わたしがしぬのも……!)
腕を掴む力がギュッと、強くなった。それでもクルムは何も言わなかった。じっと聞いている。
(こわいよ……! 助けて……!!)
自分の中からあふれ出るものを抑えることができなかった。顔を上げることができないまま、思いをぶつけた。
周りの大人、子どもたちはクルムに縋り付いて泣き出したペルルに驚いている。そんな中、
「ペルル……」
クルムが何かを言おうとしたとき。
ズズン、と振動が辺りを襲った。
<砂漠の国:首都南側の砂漠>
時間は少し巻き戻り、地上の砂漠にて。
捜索部隊は八方に分かれて地下に入れる穴を探し始めたのだが、やはりというべきか、そういった穴は見つからず、苦戦を強いられていた。
ただただ時間だけが過ぎていき、気が付けば太陽が西にだいぶ傾いていた。囮部隊も無限に戦い続けられる訳では無く、かつ暗くなり視界が効かない状態で進んでサンドワームの相手をするなど自殺行為以外の何物でもないので、陽が落ちる前には作戦をいったん中断させなければならなかった。
ただし、それは地下にいる者たちの生存率を大きく下げることを意味している。そのことを理解しているだけに、焦りばかりが募っていた。
「まだ、見つからないの!?」
声を上げたのは、捜索部隊に加わっている女冒険者、ミラである。それを聞いたグレイブが、
「落ち着け。こんな砂漠だ、そんな簡単には見つからないことくらい、分かるだろ」
と窘めた。
「分かってるけど、でも!」
「ここで声を上げたら、サンドワームが寄ってくるぞ。体力もすり減る。余計なことに費やすな」
他の人間も声には出さないが、大なり小なりミラと同じ心境であった。口ではそう言っているグレイブさえ、内心の焦りが膨らんでいくのを感じている。
「他の所から連絡はあったか?」
捜索部隊の部隊長が問う。
「だめですね……。どこからも信号は上がりません」
「そうか……」
どうやら、他の所も同じ状況のようである。と、その時。
「信号だ!」
空に信号が上がった。ただし、色は赤色。おまけに上がった方向は捜索部隊がいる方と全くの逆。つまり、
「囮部隊に何かあったのか……!?」
<砂漠の国:囮部隊>
信号を上げたのは南側に散ったグループの1つである。彼らは今まで経験したことが無い数のサンドワームを引き付け、倒し続けた。だが、今も何体ものサンドワームに追われ続けている。
「おい、弓は残ってるか!?」
「だめだ、もう無い! 魔術は!?」
「とっくの昔に魔素が切れたよ、ちくしょう!」
出発前にできるだけ多くの物資を積み込んだが、相手が相手だけに、消費も多くなっていた。もはや継戦能力はほとんど残っていなかったのである。
「馬は!」
「もう限界だ! そろそろ離脱しないと俺らまでやばいぞ!」
そして馬車で走り続けたため、馬の方も限界を迎えていた。それを魔術の補助などで無理やり走らせていたのである。
と、ここでガタン! と急に馬車が揺れた。バランスを崩した馬車が傾く。どうやら小石か何かを踏んでしまったようである。馬車の中にいる人間も耐え切れず転がってしまう。
馬に魔術を掛け続けていた御者もこの影響で集中が途切れてしまい、それが馬にとって本当の限界となった。
走る力を失った馬車が、今までの勢いのまま転がる。
「ぐっ、くそがっ……!」
冒険者の一人が力を振り絞って、鳴子に手を伸ばす。揺れに揺れる中、自分のバランスが崩れそうになるのも耐えて、
「おらぁっ!」
叫び声だけで魔素を活性化、掴んだ鳴子をすべて遠くに放り投げた。
直後、バランスを崩し、馬車の転がる勢いに任せるまま体を踊らされた。
崩壊した馬車から一人、這い出てきた。
「くそっ……、どうなった……?」
彼らが無事なところを見ると、サンドワームの群れは投げられた鳴子の方に向かったようである。
「まずいそ……、知らせないと……」
短く集中し、
『コード・レッド……!』
――赤い信号が、空に放たれた。
<砂漠の国:首都南側の砂漠>
「何があったんだ……!」
信号が上がった方向を呆然と見つめる一同。と、
「おい、地面……」
一人が指さす方向に、土煙が見えた。それは、地面から猛然と吹き上がり、徐々にこちらに向かってきているように見える。
「まさか、囮が引き付けていた分か……!?」
「おい、戦闘準備だ! 急げ!」
即座に準備を行う一同。直後、一人が手の平サイズのボールのようなものを放り投げると甲高い音が響いた。
その音に反応したサンドワームが数匹、地上に現れた。
「攻撃開始!」
その号令で多数の魔術、そして弓による攻撃が始まった。
動きが止まったスキを狙い走り寄った冒険者、兵士たちがトドメを差す。
周囲はたちまち怒号と喧騒に包まれた。
その中で。
「……?」
ミラの視界の端に、サンドワームが空けた穴が映った。
「……!」
いや、正確にはサンドワームが空けた穴の中にいるモノが映った。
「グレイブ、下!」
咄嗟にそれしか言えなかった。だが、意味は伝わったのか、
「誰か下にいるのか!?」
という返答が返ってきた。
え~、この度は間を空けてしまい大変申し訳ありませんでした。
いやまあ、なんてことは無く、4月はいわゆる繁忙期というやつでして、かなり忙殺されてました。スタミナが2倍減る強制参加イベントみたいなもんです。これなんてクソゲ?
5月以降は普通に戻ると思いますので、適当に覗いて頂ければ幸いです。
この章もあとちょっとで終わりますので……。




