ドライ・アード<砂漠に咲く花>
はっはっは、さっぱり話が進まないよ、パトラッシュ(泣)
あ、今回から地上と地下で同時進行になるため、どっち側の場面かを明記するようにしました。
<>でくくられているところがそうですね。
あとは……、ご飯食べながら読まない方がいいかも……。
クルム達が大変な目に遭っている頃、中央都市では。
クルムと一緒に暮らしているシルバーウルフの子ども――フェリと、ドラゴンの子ども――メルは、今日も今日とてギルドハウス内の、陽の当たるところで重なりなって横になっていた。アルスやマルタ、ヴェリベルを始めたとしたギルドハウス内の人間たちが構ってくれてはいるが、やはり自分たちのご主人――クルムがいないと寂しいものだった。
2匹の視線の向こうでは、アルス達がせっせと働いている。
「……あ」
最初に声を上げたのはマルタだった。たまたま食器の整理をしていたのだが、クルムがいつも使っている食器にヒビが入っているのを見つけてしまった。
「……あら、やだ」
次に声を上げたのはヴェリベル。前にクルムと遊びで作って、飾っておいた折り紙が飛び、ごみ箱に入ってしまった。
「……ん?」
最後はアルス。書類から目を離して窓の外を見ると、そこには黒猫がいて、こちらをじっと見ていた。折しも心の中でクルムのことを考えていたのである。
誰ともなしに顔を見合わせる3人。何だか嫌な予感がしたが、それは正しかったのである。ただし、それが何だったのかを知るのは、クルムが砂の国から帰って来た後になるのだが。
<砂の国:オアシス近くの地下>
クルムはひょこひょこと、自分が見た”それ” に近付いた。後ろにはペルルが付いて来ている。
大人たちは別のところで話をしていたり、”それ” の裏側で何かやっているようで、クルムが近付いたことに気付かない。”それ” は、まるで壁のように大きかった。触ってみると、ぶよっとした柔らかい感触がする。
ふと右の方を見ると、顔のようなものが少し見えた。……それは、サンドワームの顔だった。クルムが触ったものは、サンドワームの骸だったのである。どうやら、さっき何かにぶつかったのがトドメとなったようである。サンドワームが死んでいると認識した瞬間、クルムの体に震えが襲ってきた。
クルムは動物や魔物とも意志疎通が取れる。それはフェリやメルを見ても明らかで、人間に害しか成さないと思われていた魔物と仲良く暮らしているのが何よりの証拠である。そして、クルムが意志疎通を取ったことがあるのは生きている動物・魔物だけであった。
クルムからすれば、自分が何かを伝えれば相手から返ってくるのは当たり前で、それがクルムの中で常識だった。だからいつまでも何も言わない”それ” 、あのサンドワームの死体をじっと見て、触り、そのことを認識したとき、何かよくわからない『怖さ』に支配された。それが、体の震えとなって表に出て来たのである。
「……」
言葉を失い、その場に立ち尽くすクルム。どうして? なんで? そんな思いばかりがぐるぐると体中を駆け巡る。無意識に一歩、後ろに下がった。……と。
とん、とクルムの体に何かが当たる。それは後ろを付いて来ていた、ペルルの体だった。ペルルは相変わらず下を向いたまま、まるですがるようにクルムの腕に掴まった。それによって、クルムはペルルのあたたかさを感じた。
――後でこのことを振り返った時、クルム自身も首をかしげていた。本人にとってはそれくらい不思議なことだったのだが、ペルルのあたたかさを感じたとき、体の震えがスーッと引いていったのである。そして、ペルルの怯えた顔を見たとき、ある一つの想いが浮かんだ。
自分がちゃんとペルルを助けてあげなくちゃ、と。
この話を聞いた周りの大人たちは、「クルムも男の子だねえ」と笑ったという。それを聞いたクルムは全く訳の分からない顔をしていたが。
体の震えが収まったところで、クルムははた、と気づいた。そういえば先生に動かないよう言われていたんだった、と。ついフラフラと目に入ったサンドワームの方に行ってしまったが、元いた場所に戻らないといけない。クルムはペルルを連れて、子どもたちがいる所に戻った。
「あ! クルム君、どこ行ってたの!」
先に先生は戻っていた。少々のお小言を貰ってしまい、「ごめんなさい」と一言。ため息を一つつき、先生は説明を始めた。
「いい? みんなは先生たちとここから移動します。先生たち大人のそばから絶対離れないように。いいね?」
それを聞いた子どもたちは皆不安そうな顔になった。それを察知した先生は、
「大丈夫、ここは人がたくさんいる都市に近いところですし、さっきのサンドワームはもういません。ここに住んでる人の話ですと、そもそもこんなところに魔物がいること自体、めったに無いことだそうですから。……もしも、もしも何かあったら先生が守ってあげますから。だから、安心してください。ね?」
そこまで言って、微笑んだ。ついでに手が届く範囲にいる子どもの頭を撫でた。それでようやく、子どもたちの緊張が少し取れた。
さて、クルムがサンドワームの死体を見て震えている頃、その反対側ではサンドワームが本当に死んでいるのか、確認作業が行われていた。
「しかし、コイツなんでこっちに来たんだろうな?」
「確か今日、サンドワームの討伐依頼を受けたグループがいたんだよな……」
確認の結果、確かにサンドワームは死んでいた。しかし、なぜこっちの方に来たのか、その理由はさっぱり分からない。
「剣で切られたり、矢が刺さったような跡が結構あるんだよな」
「じゃあ、死ぬギリギリまで戦ってたんだな……」
「死にそうになったから逃げたってことか?」
「普通に考えればそうだな」
あれこれと意見が出るが、まとまりそうには無かった。
「まあ、いいか。どうせ死んでるし。ここから出る分には影響ないだろ」
「そうだな……、あれ?」
「どうした?」
確認をしていたうちの一人が何かに気付いた。
「いや、この傷の間から何か動いてるのが……」
「おい、マジか?」
「臭いが出るが、仕方ない、確かめるか……」
もし魔物が生きているようなら、今のうちに排除しないといけない。臭いを察知されるリスクはあるものの、放っておくと全員の身が危険にさらされる危険性もあった。
深めに付いている傷を、ナイフを使って更に広げる。すると、デロデロデロ……、といくつかの物体が出て来た。
「うわっ……、こりゃひでぇ……」
「そこら辺に穴掘って埋めちまおう。生臭い……」
サンドワームから出て来た液体は砂に染み込んだため、その上から素早く砂をかけた。だが、臭いは少し残ってしまった。
「とりあえずこれでいいか。で……」
出て来たもののうち、液体では無かったものを見る。まず目に付いたのは、サンドワームを縮小したような生き物、数匹である。
「これ、サンドワームの幼体か?」
「大きさから見ると、生まれたばっかりみたいだな」
「んじゃ、こいつは母体だったのか……」
どうやらこのサンドワームは雌だったようである。
「ひょっとして、死にそうになったから逃げたっていうより……」
「中の幼体を守るために逃げた?」
「魔物がか? しかも虫みたいな奴だぞ、コイツ」
偶然だろうとも思えるが、その仮説を否定する材料が無いのも確かである。
「ま、生きて帰ったらそう報告しとけばいいか」
「そうだな。俺たち冒険者じゃないから、別に一銭の得にもならんが」
そう結論づけた。ちなみに、幼体は全て死んでいることが確認されたため、さっさと埋葬された。
「さて……、次はこれだが……」
「なんかよく分からんな。洗い流せればいいんだが……」
「俺たち水を出す魔術なんか使えないだろうが」
次に目を付けたのは人型をした何かである。しかし、先ほどの液体まみれで、どういったものが良く分からない。ウンウン唸っていると、
「あれ? 何してるんですか?」
話がまとまり、子どもたちの引率を始めた先生が通りがかった。後ろには子どもたちもいて、「なんかくさい」とひそひそ言い合っている。
「ああ、コイツが死体の中で何かが動いてるって言うんでな。確かめてたんだが……」
「さっきからする臭いの原因はソレですか……」
先生も思わず顔をしかめた。
「すまん。で、よく分からんものが出て来たから、どうしようかと思ってな……」
「洗い流せれば多少はっきりするだろうが、俺たち水を出すような魔術は使えなくてな……」
指差した先には、その『よく分からんもの』があった。
「ふぅん……、私で良ければ多少水は出せますが……」
「本当か!」
「ただ、水なんか与えていきなり魔物が活性化しませんかね?」
「その兆候が見えたら、俺たちがすぐにトドメを差す。先生たちは守るから安心してくれ」
そして、その場には先生と確認作業をしていた男たち3人が残り、子どもたちは念のために離された。
『ウォーター・ジャグ』
――先生の手から、水があふれ出した。
ザザーッと、『よく分からんもの』が洗い流されてゆく。汚物がさっぱり洗い流され、残ったのは。
「植……物……?」
植物をまとう、人型の魔物だった。
と、いう訳でまたまた新種の魔物です。まあ、タイトル通りですよね……。
これからどうなるかはお楽しみに、です。
だらだら引っ張るのもダレますし、かといって説明不足になるのもだめだし、むつかしいところですね。そのせいで1話あたりのボリュームが増える増える……。
他の方も同じ悩みを抱えているのでしょうか?
それでは、次回をお楽しみに!




