オペレーション・レスキュー<救出作戦>
何か色々書いてたら文字数がどんどん増えるので、こりゃやべえと思い、急きょ分けて投稿することにしました。
まあ、後半部分まだ完成してないんだけど(ボソッ
子どもたちの避難が完了した後、王城にて。
関係者は一室に集まり、これからの対応を協議していた。室内には重い空気が漂っている。
「やはり冒険者にも支援を……」
「いや、姫様もいるのだ。こちらの兵士に任せた方が……」
「そもそも地中だろう? どうやって探すのだ」
「流砂が発生する場所は、大抵その下に空洞があるものだ。サンドワームが掘り回ってたらしいから、恐らく……」
「いや、そもそもあの怪物の目、いや、感覚か……。それをごまかすなど……」
救助には向かう、という方向性は一致しているものの、”どうやって救助するか” という手段については意見がまとまらず、会議はもめていた。
一室の奥、大きな机の向こう側に座っているビジュは一言もしゃべらず、机の上で組んだ手に額を乗せ、うつむいていた。
「……王よ? どうなされました?」
その様子に気付いた臣下の一人が声を掛ける。それに周りも気付いたのか、喧騒が段々と収まっていった。
「……王とは難儀なものだ。こうした場では、公としての判断を下さねばならん。そこに私的な感傷など、入れてはいけないのだ」
訥々と語る。未だに表情は見えない。
「我が愛娘、ペルルが飲み込まれてしまったというのに、私の中では一緒に飲み込まれてしまった、大地の国の子ども達のことが先に重い浮かんでしまった」
沈黙が包む。誰もが王に注目した。
「当たり前だ。貴賓として扱うように命じたのは私だからな。まさか、サンドワームがオアシスの前まで来るとは、思わなかった。あまつさえ、それが原因で子ども達が流砂に飲まれるなんて……」
その悲痛さに、皆が顔を伏せる。
「こうなってしまった以上、やることは一つだ。我々の命に代えても、子どもたちを救助する。冒険者たちに、依頼を出すのだ」
その言葉を聞いた一人が、弾かれるように外に飛び出していった。
「これは公の決定である。……だが、どうか、ペルルも助け出してはもらえまいか。これは私の ”私的” な願いだ……、どうか……!」
全員が驚いた。王が立ち上がり、頭を下げた。
耳鳴りを感じるくらいの沈黙の後。
「……やりましょう。こうなった以上、我々も腹を括らなければ」
「そうだ、姫様も、子どもたちも両方救助するのだ!」
「魔物討伐に長けた部隊に召集をかけます。10分以内に準備を整えさせます!」
「ついでに、捜索の邪魔にならないよう、首都の外にいるサンドワームも間引いてしまいましょう。追加で依頼を出します!」
再び、喧騒が辺りを包み始めた。
「済まぬ、皆よ……! 皆の命を危険にさらすことになっても、私は……!」
「王よ。そこまでです。皆が姫様の、子ども達の無事を望んでいます。全てが終わった後で、皆に礼を言うとしましょう」
「だが、全てが徒労に終わる可能性も……!」
「王よ、それはあり得ません」
ビジュは、傍らに控える初老の男性、——大臣を見た。
「我々が、必ず生きてお助けします故」
大臣が、力強く笑って見せた。
流砂に沈んでしまった子ども達の捜索依頼は直ちにギルドに貼られた。流砂に沈んだ場所は分かるが、地下の同じ場所までどうやって向かうのか、進入ルートを探さなければいけない関係で、参加人数の上限はなしとなった。人海戦術で対応することになったのである。
連動してもう一つ、サンドワームの間引き依頼も出された。こちらは捜索が完了するまでの間、サンドワームを首都から引き離し、できれば討伐する、という内容になった。
突然降って湧いた王城直々の依頼に色めき立つ冒険者たち。その中で、異質な空気を漂わせているグループがあった。
「クルム君、絶対に助けてあげるからね……!」
女性の冒険者が、知り合いの子どもの名前を呟きながら準備を進めている。その横で、
「なあ、落ち着けよ。クルムが飲み込まれたとは限らんだろうが」
グループのリーダーと思しき男性が女性を宥めていた。周りの人間もうんうんと頷いた。
「あの子、流砂に飲み込まれて、きっと一人で寂しくなって泣いてるんだわ……! そこにサンドワームが現れたら、もう……!」
女性は言葉を切って、くわっと目を見開いた。
「私たちの命に代えても、助けに行くのよ!!」
そして冒険者ギルド全員に聞こえるくらいの声量で、宣言した。
一瞬静まり返るギルドの中。
「そうだ、嬢ちゃんの言う通りだ。俺たちの命に代えても、救い出すんだ!」
「やろう! 報酬とか、名誉とかじゃねえ! 俺たちの心が、救えと叫んでいるんだ!」
「俺たちはサンドワームの討伐に回る。あいつらに一泡吹かせてやるよ! お前たちも来い!」
その声に反応したのは、サンドワームを首都方向に逃がしてしまった冒険者たち。
「だ、だが、俺たちは……」
「挽回のチャンスをくれるって言ってんだぞ! やられっぱなしで悔しくないのか!」
「……悔しいさ! 俺たちがきっちり討伐していれば、あんなことには……!」
「だったら行くぞ! お前らのプライドを見せつけろ!」
「……ああ、ありがとう……!」
ギルドにいる冒険者たちの心は一つになった。
「さあ、みんな、行くわよ!」
「「「「おう!!」」」」
そして女性、——ミラを先頭に冒険者たちが続々出発する。全ては子ども達を救い出すため――。
「……」
取り残されたリーダー、グレイブは呆気に取られていたが、はっと気づくと、慌ててギルドを出て行った。
「ミラ! お前、武器も荷物も持たずに何しようってんだ!」
所戻って再び王城。マリーとクラス全員が集合し、事の次第を聞かされた。
「そんな、クルムが……」
その話に一番衝撃を受けたのは、やはりリピアであった。
「どうして……!」
「ごめんなさい。クルム君はペルル姫と一緒に、流砂の発生地点から一番近い所にいたの。私たちの判断ミスだった……」
マリーは思わず両手で顔を覆った。
「見学するときのことを考えて、背の低いクルム君たちを列の先頭にしてたの。避難の時は最後尾から順番にしたから……、あの時、無理にでもクルム君たちから避難させてれば……!」
「先生……」
誰も言葉を紡げなくなった。音といえば、カリンのすすり泣く音がするのみである。傍らでライムとミルトニアが慰めていた。
「先生、それでこれからどうするんです?」
フィンが沈黙を破る。
「さっき、冒険者の人たちが捜索に向かったそうよ。お城の兵士さんもそれに加わるって。私たちはお城で待機。少なくとも捜索が終わるまで……」
突然、ガタッと音がした。見ると、リピアが立ち上がっていた。
どこ行くんだ?」
多分分かってはいただろうが、あえてコナーは聞いた。
「決まってる。……私も行く、クルムを助けに」
「ダメよ! 私たちにできることは何もない! ここで大人しく待ってなさい!」
「今こうしてる間にも、クルムが死んじゃうかも知れないのに! こんなところで大人しくなんてしてられない!!」
ここ最近は明るくなっていたとはいえ、あのリピアが叫ぶ姿など誰も知らなかった。そのせいか、皆驚いた表情を浮かべた。
その隙に、リピアは扉へ向かい、一息に開ける。すると。
「全く、その通りだ。愛娘が危ない目に遭っていると思うと、居ても立っても居られぬよ……」
扉の先に、ビジュが立っていた。
「済まない」
開口一番、これだった。全員、驚きに固まった。
「顔を上げてください! 謝る必要など……」
「いや、私が謝らなければならぬ。君たちを貴賓として招いておきながら、このような醜態。国のトップとして、私が責任を取らなければならぬ」
頭を下げたせいで、表情を伺うことはできない。だが、言葉の重みは子ども達にも感じることができた。
「今、どうなっているんですか」
リピアが問う。声は、固い。
「今、首都にいる冒険者と、城に詰めていた兵士たちに動員をかけた。それぞれが二手に分かれて、地中に入るための入り口捜索と、捜索の間のサンドワーム討伐を行っている」
顔を上げたビジュが、まるで書類を読み上げるかのように述べた。その顔に、後悔は見られない。
「姫様も飲み込まれたんですよね……。どうしてそんなに平気な顔をしていられるんですか……」
「リピア! それは……」
マリーが止めようとしたが、
「構わぬよ」
ビジュが制した。
「なぜ平気な顔をしていられるか、か。それはな、私が『王』だからだよ」
一瞬の沈黙。
「私はこの国にいる、全ての人々を導かねばならん。トップが揺らげば下は崩壊する。だから、自分の感情で取り乱すなど、あってはならないんだ。特に、こんな状況ではな……」
「だからって……!」
「『人』としてであれば、それが当然だ。家族を、隣人を慈しむ。だが、私は『人』ではない。多数の命を好きにできる、『王』だ。きっと、大地の国の王も、それは変わらないぞ?」
リピアはまだ何かを言いたそうにしている。だが、何を言えばいいか分からないのか、開いた口だけが動いている。
「姫様っていえば、ちょっと変わってますよね。クルム君とずっと一緒にいるけど、一言もしゃべらないし……」
ヴァルターがポツリと呟く。
「しゃべらない……か。あれは、正確に言えば、しゃべれなくなったのだよ」
その一言に全員がビジュを見た。
「そうだな、これも何かの縁だ。一つ、昔話をしよう……」
最近は風の強い日が多いですね。その代わりと言ってはなんですが、空気が冷たい! と感じることは減った気がします。
こういう時期になると体調を崩しやすくなるものですから、皆様もどうかお気をつけて。
(と、既に風邪をひいて40度近い熱を出した筆者が抜かしております)
次の話はそんなにお待たせしないと思います。タブンネ。デデンネ。




