サンドストーム・ラッシュ<砂塵の舞>
明けましておめでとうございます!
本年も、当小説をよろしくお願いいたします!
歓迎会から明けて翌日。日の出とともにクルムは目覚めた。普段のクセが故郷から離れても発揮されたのである。見回してみると、まだ全員寝息を立てていた。なるべく音を立てないように着替え(ちょっとドキドキした)、そっと部屋を出た。
寝る前に教えてもらった城内の水場に向かう(教師、生徒は王城に泊まったのである)。程なくして水場が見えてきたが、先客がいた。
「あら、クルム、おはよう」
水場にいたのはリピアだった。
「おねえちゃん、おはよう!」
「ずいぶん早いのね」
二人は挨拶を交わす。リピアが暮らしている家は喫茶店で、割りと朝早くから開いており、リピアもほぼ毎日手伝いをしているので、朝早く起きるのが習慣となっていたのである。
「あら、クルム……」
「?」
顔を洗い終わったリピアがクルムの方を見る。
「横の髪がハネてるわよ。ちょっとこっち来なさい」
クルムが自分の髪を触ってみると、左側の方に寝ぐせが付いている感触がした。
「少し濡らすからね」
そして、リピアは寝ぐせのついた髪の根元を濡らし、自分用に持ってきていた櫛でさっと梳いた。
「どうしててっぺんの毛だけ何しても立っちゃうのかしら……」
横の寝ぐせは元に戻ったが、相変わらず頭頂部には一部の髪が立ったままだった。それが風に合わせてゆらゆら揺れる。
「ま、いいか。直ったわよ」
「ありがとう!」
クルムの頭にポンと手を乗せると、お礼が返ってきた。それを聞いたリピアは薄く微笑んだ。
同室のミルトニア達を起こすと言って、リピアは自分がいた部屋に戻っていった。クルムも部屋に戻ってみると、フィンやシモン達がのそのそと起き始めるところだった。先に食堂に行ってて、というレナルドやヴァルターの言葉を受け、クルムは一足先に食堂に向かった。
これまた昨日教えてもらった道順を必死に思い出しながら歩いていたクルムだが、
「……あれ?」
道に迷ってしまった。
右を見て、左を見て、前を見て、後ろを見たが、ここがどこか分からない。通りがかる人もいない。段々心細くなってきたところで、トトト、と軽い足音が聞こえてきた。足音の方を振り返ると、そこにはペルルがいた。
(ぺこり)
ぱっ、と笑顔を咲かせた後、慌てておじぎをした。
「おはよう! ねえ、食堂に行きたいんだけど、ここはどこなの?」
どうやら挨拶をしたようで、クルムも挨拶を返した。そして、自分がどこにいるか分からないことを伝える。
(ぐいぐい)
「え? 案内してくれるの?」
クルムの腕を引っ張るペルル。どうやら食堂まで案内してくれるらしい。クルムはペルルが示す方について行くことにした。
ペルルに手を引っ張られたまま、クルムは城内を歩いていた。と、進行方向から1人の女性が歩いてくるのが見えた。
「あら姫様、おはようございます」
ペルルはぺこりとお辞儀をした。その横でクルムは誰だったか思い出していた。そして、ふと思いつく。確か昨日、お城に着いたときに最初にお話しした人だったかな、と。
「そちらは……、昨日姫様をお城まで連れてきて頂いた方でしたね。昨日はよく眠れましたか?」
「あ、え、えと、はぃ……」
考え込んでいるところを話し掛けられ、慌ててしまった。ついでにほぼ見知らぬ大人なので、久しぶりの人見知りが発動しかかっている。
「あら、ごめんなさい、私ったら自己紹介もせず……。ペルル姫付きのメイドをしております、メルキュールと申します」
「あ、えっと、僕はクルムです、よろしく、おねがいします……」
メイド――メルキュールは穏やかな笑顔でクルムを見つめた。
「はい、ご丁寧にありがとうございます。……ところで姫様、クルム様を連れてこんな所で何を?」
聞かれ、はっとした顔を浮かべるペルル。
「あぁ、そういえばもうすぐ朝食のお時間でしたか。それで食堂まで案内していた……と。それならお急ぎになられた方がよろしいですよ」
メルキュールに言われ、ペルルは手を振り、またクルムの手を引っ張って去っていった。
「姫様、やっと同年代のお友達が見つかってよかったですね。ずっと寂しそうにしていらっしゃいましたから……。ふふっ」
ペルルが走っていった方を見つめ、そんなことを呟いた。
クルムが食堂に入ると、既にクラス全員が揃っていた。
「あ、クルム、遅いわよ! どこ歩いてたの?」
リピアがクルムに気付いた。
「ごめんなさい、道に迷っちゃって……」
「ああ、ここ結構構造複雑だもんな……」
フィンが納得したように頷いた。
「クルム、こっちこっち!」
シモンが自分の隣の席を指した。クルムはそこに座り、そのまた隣にペルルが座った。
「なあ、クルム」
「え?」
コナーが渋い顔を向けた。
「何で姫様がここにいるんだ?」
全員が気になっていることを聞いた。
「食堂まで案内してもらったの!」
ねー、と二人は揃って笑顔を浮かべた。コナーは「お、おう、そうか……」とあいまいな返事を返すしかできなかった。
朝食の後、マリーがやって来た。
「みんな、この後砂塵が舞うって予報があったから、午前中は城の中にいて。で、これ目を守るためのゴーグル」
マリーが手に持ったゴーグルを配っていく。周りを見ると、他のクラスでもゴーグルが配られたり、廊下をバタバタ走り回る姿が見られた。
「さじん……って?」
カリンがゴーグルを手に首を傾げる。
「砂漠で強い風が吹いて、たくさんの砂が巻き上げられるの。それが空を覆うのよ。目に砂が入ると危ないから、しばらくゴーグルはつけっぱなしにしておいて」
マリーが答えた。
「あの、僕たち、メガネなんですけど……」
ヴァルターが小さな声で呟く。横ではレナルドが小さく頷いていた。
「あ、じゃあこっち。メガネをかけたままでも付けられるゴーグルよ。ちょっと大きなものになるけど、そこはガマンしてね」
クルム達に配られたピンポイントで目を覆うものではなく、両目全体を覆うものが配られた。メガネのつるが通る部分に小さな隙間が空いている。
「本当は朝食の後街を案内してくれる予定だったんだけど、それは砂塵が止むまで順延ね。私たちが良いって言うまで城内にいて。で、城内は見て回っていいそうだけど、兵士の人がダメって言ったところにはむやみに入らないようにしてね」
それからしばらくすると急に風が強くなった。遠くから砂の色をした何かが舞い上がったかと思うと、それはたちまち空を覆ったのである。今は朝を少し過ぎたくらいの時間だが、まるで日暮れのような暗さになってしまった。更に強い風と砂が窓を叩き、さながら城全体が楽器になってしまったようなやかましさだった。
城内を好きに見てもいいと言われていたが、
「ねえ、クルム。……あつい」
今まで体験したこともない状況と騒音で、そんなことをする気は起きなかった。クルムはリピアにぴったりくっついて離れなくなっていたのである。
「だって~……」
「どうせすぐに止むわよ」
呆れたようにため息を一つついた。ちなみにカリンやライムはクルムと同じ状況でこちらはミルトニアに引っ付いており、シモンは「すげー!」と笑いながらはしゃいでいた。
「うぅ……」
「全く……」
クルムの怯えた様子を不思議そうに眺めていたペルルは(本来は勉強の時間だが、今日は生徒達と交流するため、免除されていた)、はたと何か思いついた顔をした。そしてクルムの元に近寄り、頭に手を伸ばし、まるで小さな子をあやすかのように、優しく頭を撫でた。
「ほら、お姫様にまで慰められてるわよ!」
リピアにぎゅっと抱きついて顔を埋めていたクルムはちょっとだけ顔を離して、
「ごめんね、ありがとう……」
とだけ呟いた。ペルルはその言葉ににっこりと笑顔を浮かべた。
「はぁ、もう……」
ポンポンとクルムの頭を優しく叩くリピア。ふと窓の外を見ると、相変わらず砂が空を覆っているが、さっきと比べて音が小さくなっていた。
「もうすぐ砂塵も止まるのかな……」
ポツリと呟く。その予想が正しかったことは、30分経たないうちに空が明るさを取り戻し始めたことによって証明されたのだった。
去年はわざわざ見に来て下さった方に催促するのはどうかなー、ということで言わないようにしてたんですが、折角年も変わったことですし、解禁しようかと思います!
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