ウェルカム・サンドキャッスル!<砂漠の国へようこそ!>
か~な~り今更ですが、クルム君たちと砂の国の人たちは、いわゆる統一言語でお話しているとお考えくださいまし。
国が違う人たち同士で話が通じるのは、ファンタジーでは割りと当たり前のようになってますけどね……。超高性能翻訳機でも持ってるんでしょうか? それとも魔法的な何某?
「お姫様……」
「嘘でしょ?」
「てことは何か? 一人で街に繰り出してたのか?」
マリーはぽかんと口を開けたまま固まってしまい、後ろではマリーの生徒たちがひそひそと話し込んでいる。ペルルを姫様と呼んだメイド服の女性は申し訳なさそうな顔をしていた。
(ぐいぐい)
「え? 中に入れるの?」
そのペルルはクルムの腕を引っ張り、城の中に招き入れようとしていた。
「姫様、この方たちは恐らくですが大地の国から来られたお客様ですよ。姫様が何かしなくてもお城には入れます。それよりも、王のところに行かないと……」
女性の声にハッという表情を浮かべたペルルはクルムの腕を放し、女性の元に移動した。
「この度は姫様が大変失礼いたしました。間もなく案内の者が来るはずですので、それまでしばしお待ちいただけますでしょうか」
それを聞いたマリーは、
「あ、はい、ご丁寧にありがとうございます!」
ようやく再起動したが、挙動が怪しかった。
そして、女性とペルルは城の中に去っていった。その直前、ペルルは一度振り返ると手を振った。クルムに向かって。
「すげーなぁ、お姫様だって!」
シモンが興奮気味にまくし立てた。
「私たち、よその国のお姫様と歩いたんだ……!」
ライムも同じような反応だった。カリンも先ほどまでのホームシックはどこへやら、ライムの隣でぶんぶん頷いている。
「王族と街を歩いたって、自慢できるな……」
「ああ……」
「は~……」
「ちょっとヴァルター、何ぼんやりしてるの!」
思い思いに感想を言い合っていると、
「皆様、お待たせしまして申し訳ありません」
城から案内役と思われる女性が出てきた。
「すげ~広い……」
そして通された応接間。夕食時に大広間で歓迎会を行うとのことで、時間まで待つよう言われた面々は、案内された応接間で待機していた。ちなみに他のクラスも別の応接間に入っている。
シモンがもはや何度目になるか分からない「すげ~」を言いたくなるくらい、応接間は広かった。平均気温の高い砂の国では、風通しを良くするため、全体的にゆったりした造りの建物が多いのである。
「おなか空いたなぁ……」
「どんな料理が出てくるか、楽しみだよね」
クルムがポツリと呟いた言葉にヴァルターが返した。
「ところで先生はどこ行ったの?」
「さあ?」
リピアとミルトニアがお互い首を傾げる。応接間に入ってしばらくすると、部屋から勝手に出ないことを言い置いてマリーは出て行ったのである。まだ戻って来ないため、あれこれ想像していると、
「みんないる?」
ドアを開けてマリーが入って来た。
「あ、先生、今までどこに?」
ミルトニアが聞くと、
「ちょっと他の先生と、この後の段取りを確認してたの。そろそろ歓迎会が始まるみたいだから、みんな準備して」
と返した。
「あの、僕たち、正装みたいなの持ってないし、着てないんですけど……」
レナルドが聞くが、
「あ、いいのいいの。そういうのはいらないって事前に言われてるのよ。さ、行くわよ」
生徒たちはそれぞれ顔を見合わせた。
「ふわぁ……」
「すご~い……」
クルム達を含む生徒全員は目の前の光景に目を奪われた。中央都市では決して見ることのない異国の料理が、大広間にずらりと並んでいたからである。
「はっはっは、そんなに驚いてもらえると、頑張って用意させたかいがあるというものだな」
生徒たちの後ろから声がした。振り返ると、長身で筋骨隆々の男性が立っていた。
「ようこそ、『砂の国』へ。全国民を代表して、君たちを歓迎するよ」
生徒たちが全員「え?」という顔をした。
「とと、そういえばまだ名乗っていなかったな。失礼した」
かつ、かつ、と音を立てながら応接間に一人入り、生徒たちの方へ振り返る。
「私が砂の国の王、ビジュ・エーデルシュタインだ。一つ、よろしく頼むよ」
今度は生徒たち全員の目が点になった。
「ははは、驚かせてしまってすまなかったな。遠いところから何日もかけてやって来たんだ、まあ、ゆっくりして行ってくれ」
というビジュの言葉で、歓迎会はスタートした。長時間馬車に揺られ、いい加減空腹だった生徒たちは思い思いに料理を取り、がっつき始めた。その様子を、ビジュは微笑ましげに眺めていた。
「これ、すごくおいしい!」
「ホント!」
「おい、次はあっちの料理だ!」
「コラ待て、落ち着け!」
「二人とも待ってよー!」
たちまち大広間は喧騒に包まれた。
クルムも大皿から取ってきた料理に夢中になっていた。と、左腕をちょんちょんとつつかれた感触がした。そっちを見てみると、ドレスをまとったペルルがいた。
「あれ、ペルルちゃん、ドレスに着替えたの?」
クルムの後ろからライムが声を掛ける。ペルルは少し照れた様子で、クルリと回って見せた。
「きれいなドレスね!」
「そうだね~」
ちょうど料理を取って戻って来たレリアとヴァルターが感想を言った。
(じっ)
「え? どう……って、すごく似合ってるよ! お姫様みたい!」
「クルム、みたいじゃなくて、本物のお姫様だ」
感想を言ったクルムだったが、コナーにツッコミを喰らってしまった。
「ペルル、どこにいたかと思えばここにいたのか」
大広間中を回っていたらしいビジュが、クルム達のいるテーブルにやって来た。
「おや、君たちは確か、ペルルと一緒に城まで来た子達だったね。手間を掛けさせて悪かった」
「あ、いや、そんなことは……」
「一緒に歩いて、楽しかったもんな!」
「うん!」
一国の王に話しかけられ、つい恐縮してしまったフィンたち上級生組とは対照に、シモンやクルム達下級生組は元気に答えた。
「はは、そうかそうか。それは良かった。……ふむ、ペルル、その子が特に気になっているのかな」
ビジュは、ペルルの隣にいるクルムを見た。クルムはフォークを持ったまま首を傾げた。
「同年代、それも女の子同士の友達なんて中々できなかったからな、良かったじゃないか」
その時、フィンやシモン達の空気が固まった。
「おや? どうしたのかな?」
ビジュはいまいちピンと来ていないようである。ふと、クルムを見ると、どことなく落ち込んでいた。ペルルが頬を膨らませている。
「何? 女の子ではないのか?」
ペルルを見てそう言ったビジュが、もう一度クルムを見る。
「そういえば、男の子にも……、むぅ、これは中々分かりづら……。あ~、すまなかった。許してはくれないか?」
クルムの目線の高さまでしゃがんだビジュが言うと、クルムはこくんと頷いた。
「やっぱり王族でも間違えるんだな……」
「だよな、本当に分からないもんな……」
「僕たちも、時々悩んじゃうもんね……」
後ろでフィン、コナー、レナルドがうんうんと頷き合っていた。
「ま、まあとにかく楽しんでいってくれ。あと、できればペルルの話に付き合ってくれると助かるんだが……」
「別にいいよな! クルム!」
「うん、いっしょに食べよ?」
それを聞いたペルルは満面の笑みを浮かべた。
こうして砂の国、1日目の夜は更けていく。クルム達はビジュやペルル、砂の国の人々と色んな話をしながら、お腹いっぱいになるまで料理を堪能した。
今年の投稿は恐らくこれが最後になります。のったりゆったり更新の、時々妙な日本語を吐き出すお話にお付き合いくださって、誠にありがとうございます。
来年も皆様の糧となるようなお話が作れれば、と思います。ちょっとでも覗いて頂ければ、私にとってこれ以上に勝る喜びはありません。どうぞ、よろしくお願いいたします。
それでは皆様、A HAPPY NEW YEAR!<良いお年を!>




