ダム・プリンセス<声を失ったお姫様>
さあさあお待たせしました。
年末のまったりムードにも負けず、更新しますよ~!
……コタツでのんびりしたいなぁ。
クルム達が砂の国の首都にたどり着く当日の朝。首都の中心部にある王城の一室にて。
外の喧騒とは打って変わって静寂が包み込んでいる。その中で動きだす小さな影があった。その影は窓から外を見て、一つ決心したように頷くと、近くに置いてあった日除け用のフードを手に取り、自分の体に纏った。そして扉を開け、誰もいないことを確認すると、するりと扉の外へ体を滑り込ませた。後には誰もいない、静かな部屋のみが残された。
王城の別の部屋。そこには筋骨隆々の男性と、初老に差し掛かろうとしている男性がいた。
「大地の国からの子ども達は今日到着するのか?」
筋骨隆々の男性が尋ねる。
「はい、その予定でございます。南門から入ることになっておりますので、確認次第、こちらに連絡する手はずに」
初老の男性が淀みなく答える。
「うむ。歓迎の方も抜かりなくな。子どもとはいえ、外国からの貴賓だと認識するように」
「心得てございます」
初老の男性が腰を折る。その時。
「またいなくなりました~!」
けたたましくメイド服の女性が駆け込んで来た。
「こら、王の前ですよ」
「あ、申し訳ありません……」
「よい。またいなくなったのか?」
「そうなんです。今部下たちにお願いして町中を探してもらってるところです」
「ふぅむ……。まあ、良い。歓迎会までには戻ってくるだろう。取りあえず見つかり次第、保護せよ」
「畏まりました!」
どたどたと女性は出ていった。
「心配ですかな?」
「まさか、いつものことだ。それより準備を進めさせろよ」
体重を背もたれに預ける。ぎしっと音が鳴った。
時を進めてクルム達が首都にたどり着いた頃。
まだ目をこすってあくびをしているクルムの手を引っ張りながら、リピアが馬車から出てきた。
「足元気を付けて、転ばないようにね!」
馬車を降りたクルムの目の前に、砂の国の雰囲気が一気に押し寄せてきた。中央都市では決して感じられないその雰囲気に目を奪われそうになった、が。
「……あつい」
既に陽は傾き始めていたが、気温は高いままだった。
「みんな~、日焼けしないようにフードをかぶっておきなさい!」
マリーは既にフードを被っていた。言われた面々もそれぞれフードを被る。
「こんなに日差しが強いなんて……、日焼けしちゃうわ……」
ミルトニアがぼやく。
「早く涼しい場所に行きたい……」
コナーも続いた。他も大体同じことを思っているようで、げんなりした表情を浮かべていた。
「これからはさっき説明した通り、あそこに見えるお城まで行くから、はぐれないようにね!」
そして集団は動き始めた。
シモンやクルム達は中央都市では見られない光景に目を奪われながら進んでいた。
「そんなにきょろきょろしてるとぶつかるぞ」
コナーが注意した直後、
「あぅっ!」
そんな声が聞こえてきた。
見ると、クルムが尻もちをついていた。近くには、クルムと同じくらいの背丈の子どもが倒れていた。
「もう、よそ見ばかりしてるから!」
「ごめんね、大丈夫?」
リピアがクルムを、ミルトニアが子どもをそれぞれ起こす。
「ケガしてない?」
ミルトニアが聞いたが、子どもから返事は返ってこない。口をパクパクさせてはいるようだが……。
「どうしたの? まさか、さっきぶつかった衝撃で……!」
「そんな訳ないだろ……」
リピアがとんでもないことを言い出し、フィンが突っ込んだ。
その時、突然ぴゅぅと風が吹き、全員の被っていたフードが脱げてしまった。口をパクパクさせている子どものフードも脱げ、顔が露わになる。
「あら……」
フードの中から見えた顔は、少女だった。
少女はフードが脱げたことにも構わず何かを伝えようとしたが、そのうち伝わっていないことを察すると、段々涙目になってきた。慌てる一同。と、たまたまクルムと少女の目が合った。
「ぶつかっちゃってごめんなさい。ケガはないの? でも……」
クルムが謝りながら続ける。
「右手は、痛くないの?」
その時、少女の顔に目一杯の驚きが広がった。
「右手? 擦り傷みたいのは無いみたいだけど……」
リピアが確認するが、外傷のようなものは無い。
「うん、でも手をついたときにひねっちゃった? のかな、痛いって……」
そして驚いたまま固まっている少女の手を取り、
『いやしの聖光』
――クルムと少女の手が、あたたかな光に包まれた。
少女は自分の右手をさする。
「いたいところはない?」
クルムが問いかける。少女はクルムの顔を見た。
「うん、よかった」
少女の顔を見返したクルムはにっこりと笑った。少女は唖然としたままクルムを見る。
「え? 考えてることが分かるのかって? う~ん、何となく?」
傍から見ればまるでクルムが一人で喋っているようだが、意志の疎通はできているらしい。その様子を見て、
「いつ見てもすげーよなあ……」
シモンが呟く。
「ほんとよね~」
ライムも続いた。
そして。
「それでなぜか付いてくるようになった……と」
マリーが困惑した顔で言った。
「城に行くって説明したんですけど、クルム君曰く『大丈夫』って言ってるようで……」
レナルドがマリーに説明しているのは、さっきまで自分たちの後ろで起こっていた状況についてである。いや、今もその状況は継続していると言ってよかった。なぜならマリーが言った通り、
「へぇ、じゃあペルルちゃんはこの近所に住んでるのね」
(コクコク)
「お父さんとかお母さんとか心配してるんじゃないの?」
(じっ)
「『出掛けることは知ってるから大丈夫』だって」
「そうなの? でも僕たち、お城に行くところなんだけど……」
(じっ)
「『それも大丈夫』だって」
さっきクルムとぶつかった少女――クルム曰く「ペルル」という名前らしい――が集団に付いてきているからである。そしてクルムの翻訳付きで会話を繰り広げていた。クルムを介して話ができるからか、ペルルはとても嬉しそうである。
「う~ん、まあ私たちじゃ親御さんは探せないし……。仕方ないから、お城に着いたら兵士さんに事情を話して、親御さんのところまで送ってもらいましょうか」
「はあ……」
取りあえずの方向性を示したマリーに対し、レナルドは生返事を返した。
そうこうしているうちに、首都中心部にある王城に着いた。
「さて、入城の手続きとペルルちゃんを連れていってくれる方を探さないと……」
とマリーが呟いた直後。
「あーーっ、見つけました!」
「えっ、何、なに!?」
突然向けられた大声に驚くマリーと後ろの一同。
「やっと帰ってきたんですね! 姫様!」
「えっ? 姫様?」
訳が分からず混乱していると、声のした方からメイド服を着た女性が走ってくるのが見えた。女性の視線を辿ってみるとペルルに行きついた。そのペルルは女性に手を振っている。
「姫様って、まさか……」
「ああ、あなた達が見つけてくださったんですね! ありがとうございます!」
「じゃあ、この子が……」
「はい、私たち『砂の国』の王女、ペルル姫でございます」
「「「「……」」」」
一瞬の間。
「「「「ウソぉっ!?」」」」
ほぼ全員の声が重なった。
「ペルルってお姫様だったんだ~」
クルムは呑気にそんなことを言った。
ペルルはクルムを見て、にっこり笑った。
早いもので今年もあと数日ですね。
年内にあと1回くらい更新できればな~、と思っていますので、
どうぞよろしくお願いします。
P.S
先日とうとうユニーク数が10,000を超えました。自分の書いたものがさらっとでもがっつりでも、1万人もの方に見て頂けたなんて、とても不思議な気分です。本当に、ありがとうございます。




