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「モンスター・テイマー」と呼ばれた少年  作者: olupheus
第3章 パール・プリンセス<砂漠の真珠姫>
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ファー・ホーム<故郷は遠く>

そろそろここに書くネタが尽きそうだなあ……。

あ、新しいパートですよ、どうぞ~。

 翌日。馬車は西の都市(ウェスト・ポイント)を出発し、西に向かってひた走っていた。緑が多かった景色も、段々と砂が覆い始めるようになり始めている。

「みんあ、白いローブを用意してあるから、今のうちに着ておいて!」

 マリーが白いローブを手渡しながら言った。

「先生、これどうやって着るの?」

 ライムが首を傾げながら聞いた。

「ああ、そっか、こういうの着る機会って、あんまりないもんね。ちょっと待ってて……」

 マリーがライムにローブの着方を教えている横で、クルムも同じものを広げたり、ひっくり返しながら、「?」マークを浮かべていた。

「ほら、手伝ってあげるから」

 声がした方を見ると、既にローブを着終えたリピアがいた。

「袖を通したら……、飛ばないようにここを留めて……、そうそう」

 そうして、何とかクルムもローブを着終えたのだった。

 まとったローブを見たクルムは、何となくクルリとその場で回った。動きに合わせてふわりと裾が舞う。それが面白かったのか、クルムは笑顔になった。その様子をリピアと、いつの間にか隣にいたミルトニアが見ていた。

「クルム君、かわいいわね~」

「そうね」

「リピアばっかり独り占めはずるいわよ」

「……え?」

「クルム君たら、気づいたらあなたの隣にいるんだもの」

「独り占めなんてしてないわよ!」

「ホントかしら~?」

 ミルトニアはニヤニヤとリピアを見る。気恥ずかしくなったリピアはそっぽを向いた。

「着終わったらまた椅子に座るのよ~!」

 マリーがまた声を掛けた。



 同じ頃、中央都市(セントラル)にて。

「……」

 マルタは黙々と依頼の整理をしていた。

「……」

 アルスは目の前の紙に何かを書き込んでいる……、と思ったら、紙はほとんど真っ白だった。ただ一つ、文字になっていない曲線がペン先から伸びている。

 そしてアルスは立ち上がり、意味もなくギルドハウスの中をうろうろし始めた。その音に気付いたフェリがアルスの方をちらと見たが、またすぐ目を閉じた。ちなみに、フェリはメルと一緒にギルドハウスの隅、日の光が差すところで重なり合って昼寝をしていた。

「アルス、うるさい」

 マルタが紙から目を離さないまま呟いた。

「ああ……」

 アルスは生返事を返した。

「もう、ちょっとは落ち着きなさいよ」

 今度はアルスの方を見て言った。

「そうですよ。グレイブさん達が護衛なんですから、大丈夫ですって」

 受付で暇そうにしているヴェリベルも加わった。

「そうは言うがな……、ってかマルタには言われたくない」

「何でよ」

「あの荷物は何だ」

 アルスが指さした先には、一般の冒険者なら1週間くらいは野宿ができそうな量の荷物が、冒険者用のリュックに収まっていた。いや、正確には無理やり押し込んだせいで、リュックの形が丸に近い状態になっていた。だが、出掛けようと思えばいつでも出掛けられる状態ではあった。

「うっ……、べ、別にいいでしょ」

 マルタがそっぽを向く。

「似たもの夫婦……」

 その様子を見ていたヴェリベルが呟く。親バカ達の昼下がりはおおむね平和に流れていた。



 所は戻って馬車の中。列は既に砂漠に入っていて、砂の国が総力を挙げて整備した道路の上をカタカタコトコトと進んでいた。

「なあ、ちびっ子たちの声がしないんだが、何が……」

 フィンが顔を出すと、リピアが声を出さずに人差し指を唇に当てた。

 下の方を見ると、リピアの膝を枕にして、クルムが眠っていた。

「すぅ……、すぅ……」

「さっきまで砂漠を見て、4人してはしゃいでたんだけどね、すぐ飽きちゃったみたい」

 見慣れないと砂漠は物珍しいものである。それは海を見たときの感動と似ているだろう。だが何しろ砂しか無いのである。目新しい物が好きな子どもにとっては最初は良くても、すぐに飽きてしまうというものである。

 なお、クルム以外にもシモンとライムがもたれ合って、カリンはクルムの膝を枕にして、それぞれ眠っていた。


「リピア、クルム君の髪の触り心地どう?」

 ミルトニアが聞く。

「うん、すごく柔らかい。女の子の髪みたいよ……」

 膝の上にあるクルムの頭をそっと撫でてみた。それを感じたか、クルムの寝顔がフニャっと緩んだ。

「ねね、私にも触らせてよ」

「だめよ、あんまり触ってたら起きちゃうわよ」

「ちょっとくらいいいじゃないの」

 上で繰り広げられる争奪戦をよそに、クルムはすやすやと眠り続けていた。


 一方、馬車の外。

「クルム君を膝枕……、私の特権だったのに……」

 みっともない嫉妬は、外を警戒しているミラから放たれていた。

「ミラ、みっともない真似するな。変なオーラを出すな」

「だって~、グギギギ……」

「学生連中がお前の様子を見て、変に周囲を警戒し始めたぞ」

 ミラの尋常ならざる様子を見た冒険者コースの生徒たちが、何か魔物の気配でもするのかと、周囲をきょろきょろし始めた(実習の一環で、馬車護衛の訓練をしているのである)。

 こうして、訳も分からないまま緊張を強いられた生徒一同は、目的地にたどり着く頃にはヘロヘロになってしまったのである。それを巻き起こした当の本人は。

「クルムく~ん……」

「こりゃダメだ」

 グレイブが匙を投げるレベルだった。



 ふわふわと体が浮いている。それはとても気持ちいい感じがした。まるで何かに包まれているようで……。

「……ルム」

 誰かが呼んでいるような気がする。その声に答えなきゃいけない気がした。でも、もう少し……。

「……ルム、クルム!」

 そこでクルムの意識は現実に戻った。

「クルム! ほら、起きて! 砂の国の首都に着いたわよ!」

 クルムは目を開けたが、まだ意識はぼーっとしている。ゆらゆらと目を動かした後は、取り合えず本能に従うことにした。

「……ぅん、ねむい~……」

 と言いながら、リピアにギュっと抱きついた。

「わ、ちょっと! 何抱きついてるの! 早く起きなさい!」

「あはは~、クルム君寝ぼけてる~」

 その様子にミルトニアが笑い声を上げた。

「ミルトニアも見ていないで手伝って! この子、全然離れないんだから」

「はいはい」


 しばらくして。

「おおぉ~……!」

 やっと起きたクルムは、シモンと一緒に窓の外の景色に夢中になっていた。窓から入ってくる風が、寝ぐせのついた柔らかい髪を揺らす。

「すげ~なぁ! クルム!」

「うん、すごい! 見たことない家ばっかり!」

 馬車の列は首都の大通りを進んでいた。首都といっても中央都市(セントラル)ほどの規模ではないが、それでも人々の活気に溢れていた。

「なあ、ところで……」

「?」

 シモンが声を潜める。

「カリンのやつ、どうしたんだ?」

「わかんない……」

 2人して困惑した顔をした。そして馬車の中をちらっと見た。

「ひくっ……ぐすっ……」

「よしよし、大丈夫よ」

 クルムが起きた少し後に目覚めたカリンは、いきなり泣き始めてしまったのである。シモンやライムはおろおろするばかりだったが、何かを察したミルトニアはカリンを慰めていた。

「おとうさん……おかあさん……」

「夢に出てきちゃったのね……、よしよし」


 カリンにとっては親と何日も合わない、というのは始めてのことである。シモンやライムのような親しい友人がいたとしても、その寂しさは埋められるものでは無かった。早い話が、ホームシックになってしまったのである。

 実のところ、学生交流会中にホームシックになる生徒は毎年のように出る。傾向としては年齢1桁で、始めて親と離れる生徒に出やすい。また、性格的に繊細な方の生徒に出やすいとも言われており、カリンは全ての条件に当てはまった。

 そもそもなぜ、学校に入ったばかりの子どもでも学生交流会の参加対象にするのか。結論を言ってしまうと、「親から離れる」ということを早くに経験させるためである。

 このご時世、例え都市の中にいたとしても、魔物に襲われる可能性というものは常に付きまとう。そして、そうなってしまった場合、運が悪ければ家族と散り散りになるというのは良くある話である。その時に寂しいからと立ち止まることは許されない。最悪、切り捨てられる。

 生き延びるには、自分の意志で足を動かす勇気が求められる。交流会での旅は、その勇気を養うための第一歩、という意味も込められていた。


「落ち着いた?」

「……」

 何も言わず、コクンと頷いた。ミルトニアは優しく笑い、頭を一撫でした。

「みんな、もうすぐ馬車が止まるから、降りる準備をしてね!」

 マリーの声が聞こえてきた。馬車の旅の終わりは、もうすぐそこまで来ていた。

いつの間にやらブックマーク数が100件超えました。本当にありがとうございます!

た~らた~ら書いているお話を登録してくださって、嬉しい限りです。これからも変わらずご愛顧いただければ、と思います。

第3章もこれから盛り上がってきますよ! 多分!



次回、やっと出したかったキャラが出せるぞ……(予定)


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