章間 あいつがやってきた!
はい、第3章の前にちょっとした小話ですよ~。
良く晴れたある日のこと。学校から帰ってきたクルムはお昼を食べた後、ギルドハウスの中でフェリ、仔ドラゴンと遊んでいた。その光景をヴェリベルや、たまたま仕事が休みのグレイブ、ミラなどが微笑ましく見つめている。そんな、穏やかな時間が流れていた。……あの時までは。
突然、ギルドハウスの扉がバン! と開いた。
「ここに魔物と暮らしている少年がいると聞いたぞ! さあ、どこだ!」
そんなことを言いながらズカズカ入ってきたのは、長身で白衣を着た女性だった。後ろで1つにまとまった長い黒髪を揺らしながらギルドハウス内をずらっと見渡し、
「ううん? 君だな?」
口を半開きにしているクルムを見つけた。
周りがあっけに取られる中、ツカツカと歩み寄り、
「ほほう、噂通り、いや、それ以上だ! 本当に魔物と仲良くしているんだな! それに、なんて可愛らしい顔をしているんだ! ギルドの連中が騒ぎたてる訳だ!」
クルムを至近で観察し始めた。クルムは目を白黒させている。
「ううん? あれ、どこかで見たことあるような……」
「ちょっとグレイブ、そんなこと考えてる場合じゃないでしょ!」
早口でまくし立てる女性を見たグレイブが何かを思い出そうとしたが、ミラに遮られた。
「クルム君が困っているでしょ! やめなさい!」
「アルスとマルタは……、今出掛けてるんだった、全く……」
ミラが足早に止めに入る。グレイブはクルムの親2人がいないかと思ったが、所用で出掛けていることを思い出した。
「大体いきなり入って来て、あなた誰ですか!」
「私かい? 別に名乗るほどの者じゃないさ。ただね……」
クルムの顔をぺたぺた触りながらミラに答える。そしてクルムの方を向き目を合わせ、
「君のカラダに、興味があるだけかな……?」
ニィっと笑った。それを見たクルム、色々と限界を迎えてしまい、ぴゃあああぁぁぁ……、と何とも言えない声を上げたのだった。
その時、またバン、と扉が開いた……、と思ったら短時間で2回も乱暴に扱われたことが効いたのか、扉が外れてバタン、と倒れてしまった。それを踏み超え、また女性が入って来た。
「今の声何!? クルムに何かあったの!?」
その女性は、所用で出掛けていたマルタだった。用事が終わり帰ってきたところでクルムの悲鳴が聞こえたのである。
血相を変えてギルドハウスに飛び込んだマルタは、白衣を着た女性に抱き着かれ涙目になっているクルムを目撃した。その瞬間、マルタの何かが外れた。一瞬で魔素を活性化させ、
『踊り狂う風精!』
――手に暴風を纏わりつかせ、女性の頭頂に叩きつけた。
しばらくして。
「痛たた……、全くひどいじゃないか。風の魔術付きのゲンコツとか、どこの拷問だい?」
「クルムを泣かせておいて、その程度で済ませてるんだから、ありがたく思いなさい!」
ぐずるクルムをなだめながらマルタがびしぃ、と女性を指差した。
「で、マルタ、コイツ誰?」
どこか疲れた表情を浮かべたグレイブが尋ねる。
「ああ、この人はね……」
「そんなに気になるなら教えてあげよう!」
いきなり立ち上がった女性が割り込んだ。
「中央都市王城研究部長、ダリア・マルコムズとは私のことだ! 以後、お見知り置きを……」
「マルコムズ……、ああ! 思い出したぞ!」
「わっ、ビックリしたなぁ、もう……。思い出したって、何を?」
いきなり大声を上げたグレイブに、ミラが驚きで体を震わせた。
「マルコムズ家って確か魔物研究で名を馳せた家系で、俺たちが使うような装備に魔物の素材を使うようになったのも、マルコムズ家が生み出した基礎理論があったからこそだと言われてるんだ」
「いやぁ、知っててくれて嬉しいなあ。そうなんだよ、確かにウチの家で基礎理論を生み出した。だが最近どうにもアイデアが出なくってねえ、煮詰まってたんだが……。丁度そんな時に魔物と仲良くしてる子どもがいるって言うじゃないか! だから気晴らしも兼ねて飛び出してきたってワケさ!」
「……グレイブ、本当に? これが?」
「ああ、本当なんだ……。だが自信が無くなってきた……」
ミラが疑問の眼差しを向ける。グレイブは頭を抱えた。
「だが真面目な事情もあるぞ。もしその魔物たちに何かあったとき、まさか獣医に見せるわけにはいかんだろう? その点、ウチの研究所ならある程度の設備も揃っているし、少なくとも魔物の扱いには慣れているからな。まあ他にも目的はあるが、とりあえずそのことを伝えたくて来たんだ」
「あら、そうなの? ひょっとして、ギルドから?」
「ああ、要請があった。まあ、他に頼めるところも無さそうだし、妥当と言えば妥当だろうさ」
「あ、そ。先生も相変わらず抜け目ないわね……」
「そんなわけでこれからよろしく頼むよ、クルム君? 君たちもね?」
だがクルムはぷいっとそっぽを向いてしまった。マルタの足元にいる魔物2体は毛と尻尾を逆立て一生懸命威嚇していた。
「あらら……、嫌われちゃったかね」
「自業自得よ」
頭に手を置いたダリアは白衣を翻し、
「まあ、また来るさ。時間はたっぷりあるからね。これからが楽しみだよ」
はっはっは、と笑いながら去っていった。
「一体何だったんだ……」
「ダリアはああいう人なの、あんまり気にしちゃだめよ」
急に静かになったギルドハウスで、その声はやけに大きく響いた。
その頃。受付にいたヴェリベル。
「……ハッ、あまりの勢いに空気になってしまった」
一人でぽつりと呟いていた。
アルス「あれ? 俺は?」
???「今回出番なしですって」
アルス「なん……だと……」
第3章は次からスタートです!




