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ドラゴン襲撃における状況報告書

やっと第2章のエピローグができたぞ~……。

お待たせしました。ホントにもう……。


 某日、中央都市をドラゴンが襲撃した。それにより発生した被害、および当日の状況を以下にまとめる。


■ドラゴンの発見から襲撃日までの動向

 ドラゴンが中央都市(セントラル)に接近していることが発覚したのは、ドラゴン襲撃から2週間ほど前のこと。それ以降はドラゴンの動向を観測情報から常時モニタ、並行して防衛の準備を進めていた。

 しかし、ドラゴン襲撃当日の朝、観測情報から忽然と姿を消してしまった。当時は念のため、目視確認を行うための観測員も動員させていたが、観測員も姿を見失なったと証言している。

 今のところ、この現象の原因は不明。ドラゴンの新しい能力という見方が濃厚である。


■東門における防衛戦の状況

 姿を消す前までの観測情報から、ドラゴンの到着を翌日の夜と推定したギルドは防衛準備と一般人の避難を急がせた。……しかしこの判断は誤りであったと、程なく判明することとなった。

 夜、東門にドラゴンが出現、東門に詰めていた部隊が交戦を開始した。これにより東門は全壊、部隊はほぼ壊滅という状態に陥いる。

 あわやというところで、あの事件の生き残りであるリピアが乱入。恐らくリピア本人にその気は無かったと思われるが、ドラゴンを都市の外に誘導したことで、都市内部への被害が発生することは無かった。


■東門以外の状況

 突然ドラゴンが襲撃してきたことにより、東門以外の各門は一般人が大挙して押し寄せるたことにより、あっという間に混乱状態に陥ってしまった。幸い大きな被害が発生することはなかったものの、緊急時の対応に関する課題が浮き彫りになった。

 詳細は別紙にまとめるが、再度の訓練を要するものと思われる。


■ドラゴンが沈静化するまで

 東門側のギルドハウスでは動ける人員をまとめ、ギルドの長である『鬼神』アルスを先頭に東門へ向かった。東門に残っていた人員から事情を聞き出し現地に向かうと、リピアがドラゴンと交戦しているのを確認。直ちに援護に入った。

 リピアはハーフではあるものの、エルフから受け継いだ豊富な魔素を全開、強力な魔術を放つことでどうにか渡り合っていたが、それほどの時を置かずして魔素が尽きてしまった。魔術が止まったところをドラゴンに狙われたが、そこを救ったのがあの少年、クルムだった。

 クルムは巨大化したシルバーウルフのフェリ(と思われる)に乗ってドラゴンに突撃、クルムが唯一使える癒しの魔術でドラゴンを沈静化させた。


■その後について

 沈静化したドラゴンは元のサイズから大幅に縮小、フェリより一回り大きいくらいのサイズになっていた。

 沈静化直後はクルム共々気絶していたが、程なくして目を覚ますと、クルムから離れなくなってしまった。また暴れられても困るということで、アルスの判断により、ドラゴンの身柄はいったんギルドハウス預かりとなった。


■その他、特記事項など

①:フェリについて

 子どもとはいえ、クルムを乗せられる大きさにまで巨大化したフェリ。後から調べたところによると、シルバーウルフは魔素の消費を抑えたりする目的で、体のサイズをある程度までならコントロールすることができるとのこと。現在王城の担当者が不眠不休で確認に当たっている模様。


②:黒い物体について

 ドラゴンが沈静化した後、フェリがクルムとドラゴンを抱えて戻ってきた。その時に黒い物体を吐き出したのだが、それから嫌な魔素を感じたアルスは調査を依頼した。

 まだ詳細は明らかになっていないが、沈静化したドラゴンのそばに落ちていたと見られること、ドラゴンの体表を脈打つように取り囲んでいた何かが無くなっていたことなどから、優先度を上げて調査を行うことが決定した。この件については詳細が判明次第改めて報告する。



「あぁ〜、づがれた〜」

 若いギルド職員がペンを放り投げた。

「お、終わったか」

 そこにアルスが近づいて来た。

「今終わりました。あとはそれぞれの関連資料をまとめて、提出です」

「そうか、苦労をかけるな」

「書いた自分が言うのも何ですが、今回も結構ムチャクチャですよ。ドラゴンと魔術で渡り合うだの、魔物が大きくなるだの、ちっちゃくなるだの……」

「ああ、すまんな……。まあ、あのギルドマスターのことだから、多分何とかするだろ」


「へえっくし!」

 くしゃみの音が響き渡る。

「誰か噂してんのか?」

 呟きながら、ギルドマスターーーカイゼルは1枚の紙を拾い上げた。

「また、厄介ごとかぁ……?」

 その紙には「学生交流会 招待状」と大きく書かれていた。


「で、今回はどうしたんです?」

 職員がニヤリとしながら聞いてきた。

「どうしたって、何を?」

「クルム君ですよ、数年前と同じような状況だったじゃないですか」

「あぁ……」

 避難しろと言われていたのにギルトハウスを抜け出し、よりにもよってドラゴンに突撃するという蛮行に走ったクルムは、当たり前だがアルスとマルタから揃ってお説教を受けた。道行く人の話をまとめると、2時間くらいは外まで声が聞こえていたようである。

 その後しばらくは目元や鼻を赤くした状態で、グレイブやミラに慰められていた。

 同じ頃、リピアもやはり店主からお説教を受けた。だがリピアの表情はどことなくすっきりしていて、それを見た店主もどこか安心した顔をしていた。


「はあ、子どもを叱るって辛いし、難しいな……。心が痛む……」

「その優しさがヒヨッ子冒険者にも伝われば良かったんですがねえ。アルスさんの訓練を受けた奴の半分くらいは、今でもトラウマだそうですよ」

「いいんだよ、あいつらは。自ら命を投げ出そうとする連中なんかにはちょうどいいのさ」

「そっすか」

「ああ。んじゃ、報告書の残りも頼むぞ」

「了解です」

 そしてアルスは歩き出し、途中でひとり呟いた。

「あのドラゴンどうしよう……」



 ドラゴン襲撃から数日。夕方の学校、その屋上に二つの人影があった。

「もう、大丈夫なの……?」

「うん……」

 ぎこちなさを残す2つの影。風がそよりと吹き、背の高い影から伸びる、長い銀色の髪を揺らした。背の低影は、何かを耐えるように俯いていたが、やがて決心したように顔を上げ、

「「あの……」」

 しゃべろうとしたが、タイミングが被ってしまった。背の高い影ーーリピアは薄く微笑み、

「お先にどうぞ、クルム」

 と言うと、背の低い影ーークルムは、また俯きながら、

「お姉ちゃん、ごめんなさい……。ぼく、お姉ちゃんにひどいこと、言っちゃったん……だよね?」

 とたどたどしく伝えた。途中で、何か雫のようなものが落ち始めていた。

 それを聞いたリピアは一瞬驚いた顔をしたが、クルムの前でしゃがみ、

「ううん、いいの。私がずっと隠してたのが悪いんだから」

 クルムの頭を撫で、優しく伝えた。

「それに、おばあちゃんに会えて、怒られて、ちょっとだけすっきりできたし、クルムのおかげよ? だから泣かないの!」

 親指で、そっと涙をぬぐう。いつしか、リピアの顔には笑顔が浮かんでいた。

 ぐずぐずと鼻を鳴らすクルムを慰めながらふと、リピアは空を見た。


 西に見える赤い太陽が空を赤く照らす。東の空には夜空が見え始め、気の早い星が瞬いていた。丁度リピアの頭上で赤と夜の空が交差して、美しいコントラストを描いている。リピアの目には、それらの色が、その通りに飛び込んで来た。

「こんなに綺麗な景色が見れるようになったのはクルムのおかげ。……ありがとう」

 2つの影は、伸びたその先で交差した。その周りを、幾つもの光が楽しそうにクルクルと回っていた。

いつもいつも申し訳ないです。ようやっと第2章に区切りをつけることができました。今回はもう少し大事な情報をしっかり開示できなかったのが反省点です。閑話頼りにはしないようにしたつもりだったんですけどね……。

次の第3章を何にするかはもう決まっているので、1か月もお待たせするような事態にはならない……ハズ。多分……。


最後になりますが、お読みくださった皆様、ブックマークしてくださった皆様、過分な評価をくださった皆様にたくさんの感謝を。次もよろしくお願いしますね。

このお話が、皆様の心の彩りとなりますことを……。

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