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そして少女は、想いを知る

Q:この2週間何してたの?


A:仕事が忙しくなって1週間とちょっとはそちらに集中、あとの数日は戦場を走り回ってたらいつの間にか荒廃したモス○ワにたどり着いて、地下鉄のトンネルで化け物退治してますた。


…はい、すみませんでした。

 リピアは体内にある魔素を全て活性化させ、暴風の刃を全方位に放ち続けていた。ドラゴンは刃を躱しながら炎を吐き出すが、ことごとくが暴風に切り裂かれ、リピアの元まで届くことは無かった。その後ろでは、東門の防衛をしていた兵士、冒険者の一部がドラゴンに攻撃を加えている。その現場にアルス達が到着した。


「リピア!」

 店主が飛び出そうとする。

「待て待て待て! 今飛び出したらあの風にやられるぞ!」

 アルス達が引き留める。

「放せ! リピアがドラゴンの目の前にいるんだぞ!」

「あの風の魔術は無差別に撃たれるんだ、無理に近付くとお前でも危ないぞ。まずはドラゴンを何とかするのが先だ!」

「アルス、どうするつもりだ?」

 後ろに付いて来ていたグレイブがアルスに尋ねる。

「リピアがドラゴンの目の前にいてかなり危険な状況だが、定石通り、機動力を削ぐところから始める。ドラゴンの翼に集中攻撃をかけ、自由に飛び回れないようにするんだ」

「地上に落ちた後は?」

「全員で攻撃するが、一度にやられるのを防ぐためにチーム単位で散開する。同時にリピアをドラゴンから引き離して保護するぞ」

「分かった」

「よし。リピアの魔素はあの調子だとそうかからずに枯渇するはずだ。急ぐぞ!」



 ドラゴンは変わらずリピアをにらみつけている。一方でリピアは段々と息が荒くなり始めていた。体中の魔素がごっそりと抜き取られ、体に力が入らなくなっていた。

「リピアが限界に近いぞ! 急いで攻撃を開始しろ!」

 アルスの号令で遠距離攻撃ができる冒険者たちが、ドラゴンの翼を狙って攻撃を始めた。東門の守備隊も呼応して、ドラゴンの動きを制限させるように攻撃の方針を変更した。

 魔術、矢、投げ槍などがドラゴンの翼に向かって放たれる。

 が、そのほとんどが弾かれる。

 魔術は一部は翼を貫通し、穴を空けた。

 しかし、ドラゴンの機動力を削ぐには至らなかった。

「ダメだ! 俺たちの武器じゃあいつの翼に届かないぞ!」

「魔術ならまだ何とかなる! 武器はドラゴンの牽制に使え!」

 体制を入れ替える隙を突き、ドラゴンが火球を吐き出した。

 魔術に集中している冒険者たちは動き出すのが遅れた。

「逃げろぉっ!」

 火球が直撃する。

 ……寸前に、リピアからの暴風が火球を切り裂いた。

 集中をかろうじて保った冒険者が、魔術を放つ。

 鋭い矢とも槍とも取れるそれは、ドラゴンの翼にダメージを与えた。

 翼が傷ついたことに驚いたか、魔術の衝撃か、ドラゴンの体制が崩れた。

 それを見逃さなかったか、はたまた無意識の産物か。

 今まで無差別に飛び回っていたリピアの暴風全てが、ドラゴンに向いた。

 獲物を求めて暴風がドラゴンに迫る。

 胴体に傷は付かない。

 だが、元々幾つかの傷が付いていた翼は、暴風により更に傷が広がった。

 ドラゴンの体が地面に向く。

 衝撃。轟音。

 ついに、ドラゴンは絶対優位を失った。


「やったぞ!」

 冒険者の1人が叫び、自らの得物を掲げ、獲物に向かう。

 だが。

「待て! ドラゴンはまだ……!」

 その言葉の通り、ドラゴンは自らの足で体制を立て直し、向かってきた冒険者に顔を向けた。

「ひっ……!」

 思わず足を止めてしまう。そこに。

 ドラゴンから吐き出された火球が浴びせかけられた。

 悲鳴を上げる間もなく、そして原型も残らず、燃え尽きた。

「くそっ……!」

 アルスが毒づく。確かにドラゴンの飛行能力を奪うことはできたが、いまだドラゴンの生命力を削ることはできないでいた。先ほどリピアが放った暴風もそうだったが、ドラゴンの胴体には武器でも魔術でも有効打を与えることはできていない。このままでは、ドラゴンを討伐、ないしは撃退することなど不可能だった。それに、

「なんだ、あの模様は……」

 分からないのは、ドラゴンの胴体を覆う、まだら模様の黒い何かである。ドラゴンの胴体はピンクに近い赤色をしているが、その上を鎧うように黒い何かがまとわりついている。生物から自然に生み出されるとは到底思えないそれは、異質な雰囲気を放っていた。当然、そんなものを生み出すドラゴンなど自然界に存在しない。

「とにかく、やるしかないか……」

 アルスは一人首を振った。


 だが、とうとう恐れていた事態が起こる。

「おい、リピアが……!」

「何!?」

 リピアから放出されている暴風がどんどん弱まっていく。それに伴い、リピアが崩れ落ちるように座り込んでしまった。

「しまった、魔素が尽きたか!」

「リピア、逃げろォ!」

 店主が叫ぶが、それに応じるだけの力はもう残っていなかった。ただ、目だけはギラギラとドラゴンを睨んでいる。

 ドラゴンが距離を取る。

 そして、大きく息を吸い込み、喉に溜める。

「ドラゴンの気を逸らせ!」

 アルスの号令で冒険者達が動き出す。だが、ドラゴンはそれら一切を無視して、リピアのみを睨みつけた。自分を傷つけた者に、鉄槌を。

 そして、火球が吐き出される。

 永遠とも、一瞬とも取れる時間。

 誰もが動けず、しかし火球は確実に迫り来る。

 店主が走り出す。無駄と冷静な生存本能が告げるのを無視して。

 店主が伸ばした手の先、リピアの目前に火球がある。

 炎の抱擁が、リピアを包み込むーー。



 リピアは迫り来る火球を見つめていた。意外なほど、心は揺れなかった。

 あの赤く、黒いドラゴンに何もかもを奪われた時から、リピアの生きる目的は復讐になった。そのために、周りの雑音など無視して、ひたすら魔術を鍛えた。いつか来るその時のために。自分がいなくなっても、悲しむ人がいないように、孤独に。

 だけど、自分の陰が告げる。

 無駄だと。

 意味が無いと。

 殺せるはずがないと。

 その声は、いつも自分の周りにまとわりついていた。

 けれど、それさえ糧として、陰を振り払うように、徹底的に打ち込んだ。

 その結果が、これだった。

 もうすぐ自分は、あの炎に焼かれる。でも、それでもいいのかも知れない。大切な人たちがいるところに、行けるのなら……。


 そこまで考えたとき、炎は目の前に広がっていた。口元に笑みを浮かべて、その炎を迎えようと、目を閉じるーー



「おねえちゃん……!」



 どこかで聞いた声がした気がする。でも、もうどうでも良かった。もうすぐ、そこまで……。


 と、急に体が引っ張られる感覚が襲った。訳も分からないまま、本能でバタバタとしばらく暴れていると、突然感覚が収まり、続いて落ちる感覚が襲った。そして、痛み。

 慌てて上を見ると、そこには大きな真っ白い狼と、

「おねえちゃん!」

 狼に乗った小さな子どもがいた。



 ことを離れて見ていた冒険者一同の衝撃は大きかった。特に子どもと親しくしている者達は、開いた口が塞がらなかった。

(な、なんでクルムがこんなところに……!)

 子ども――クルムは、大きな真っ白い狼——多分フェリに乗って、炎に焼かれる寸前のリピアを助けたのだった。


「あ、あれ、クルム君?」

「それにあの白い狼って、フェリ?」

「仔犬くらいのサイズじゃなかったのか?」

 ミラやグレイブ達も、流石の事態に呆然としている。


 冒険者たちの視線の先、クルムはフェリから降りて、リピアの元に向かった。フェリはクルムに背を向け、ドラゴンを睨む。


「え、クルム……?」

「おねえちゃん、大丈夫!?」

 リピアも予想だにしなかったクルムの登場に驚いていた。

「なんで、ここにいるの……?」

「おねえちゃんが、ドラゴンのところにいるって聞いて、でもドラゴンが……」

「……何やってるの! こんなところにいちゃダメでしょ! 早く……!」

 自分が今まで何をしていたかも忘れ、思わず叫んでいた。

「でも、おねえちゃん、あのドラゴンは……」

「……え?」

「あのドラゴンは、きっと、おねえちゃんを襲ったドラゴンじゃ、ないと思う」

「何を……?」

みんな(’’’)、そう言ってるよ?」

 そう言って、クルムはリピアの手を握った。


 気が付くと、リピアの目の前には色とりどりの光があった。それらは時折点滅しながら、リピアの周りをぐるぐる回っている。この場にはとてもそぐわない幻想的な雰囲気の中、一つの光がリピアに近付いてきた。

『……リピア』

 頭に響いた声に、リピアの目が見開かれた。その声の主は、かつて自分が暮らしていた集落で、魔術を教えてくれていた老婆のものだったからである。聞き間違えようも無いその声に、

「お……ばあ、ちゃん……?」

 何とか声を絞り出す。

『リピア、やっと感じて(’’’)くれたかい』

 それらは、平和だったあの頃の、魔術を教えてくれていた時の、しゃべり方と全く同じだった。その衝撃に、あの時の光景がフラッシュバックする。

 集落がドラゴンに襲われた時、老婆と共に戦えない人達は逃げた。1日では動ける距離に限界があり、森の中で結界を張って一夜を明かすことになった。結界の維持をリピアは引き継いだのだが、途中で意識を失い、気が付くと結界が切れていた。そして老婆は、逃げるリピア達をかばうため、ドラゴンに1人立ち向かい、命を落としたのだった。


「でも、どうして……?」

『あたしくらいになれば、これくらいはできるのさ。《精霊化》なんて大層な名前が付いてはいるがね』

 精霊化とは、その名の通り自分の体を精霊に変える技術である。魔素の扱いに長けた者だけが使えるこの技術は、自らの死後も特定の人物を手助けしたい場合などに使用される。老婆はドラゴンに殺される寸前に発動、死後リピアの元に向かったのである。

『この子のお蔭でようやく話ができるよ。感謝しないとね』

「え? クルムの?」

『全く。一番近くにいるあんたが気づかないもんだから、どうしようかと思ったよ。ほら、周りを見てごらん!』

 言われて周りを見ると、いくつもの精霊がリピアの周りに浮いている。そして、いくつもの懐かしい気配がリピアを包みこんでいた。

 それは、集落で一緒に暮らしていた父の、母の、妹の、よく話相手になってくれていたおじさんの、料理を教えてくれたおばさんの、自分にとって大切な人達の精霊だった。

『精霊の姿で《精霊化》するのは大変だったけどね、何とかなったよ。みんなも分かってくれた。まあ、リピアのあんな姿を見たら当たり前だろうね』

「っ……、それは……」

『いいかい、復讐なんて考えるもんじゃないの! こんな世の中だ、大切な人が殺される度にそんなこと考えたてたら、命がいくつあっても足りないよ!』

「でも……!」

『それに、あのドラゴンは集落を襲ったのとは別だよ! 全く、あんな目にあったのに覚えてないのかい!』

「……え?」

 リピアの目が点になった。

次くらいが第2章の最後かな~? とりあえず休みの間にあげちゃいますので、よろしくです!

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