少女、邂逅する
今回は前回までのと比べると、比較的字数は少な目です。
まあ、クライマックスに向けてタメを作るという意味でご容赦くださいまし。
それでは、どうぞ~。
『コード・レッド』は打ち上がらなかった。正確に言えば、打ち上げる暇は与えられなかった。なぜなら、
<ゴアアアアァァァァ!!>
咆哮と共に、ドラゴンが火球を吐き出した。それが、城壁を一発で半壊に追い込み、凄まじい音を立てたからである。
東門付近はパニック状態に陥っていた。事前の連絡では明日の夜くらいに到着すると聞かされていたはずだった。いや、いつ何が起こっても良いように準備だけは進めていたが、発見が遅れ、先制攻撃を許したおかげで、何がどうなっているのか、正確に把握できなくなっていた。
「何だ! どうなってる!」
「ドラゴンだって!?」
「バカな、明日の夜来るんじゃなかったのか!?」
「被害は!?」
その間にも断続的に轟音が響く。振動が建物を包む。
「誰か、様子を見に行ってくれ! あと、本部に伝令だ!」
パニック状態の中、突然現れた絶望に抗するための戦いが始まろうとしていた。
轟音はクルムのいるギルドハウスにまで届いていた。
「な、何だ!?」
ギルドハウス内は再び騒然とし始めた。
「誰か、上に登って外を見てきてくれないか」
アルスが大声を上げると、それに反応した何人かが階段を上がっていった。それからしばらく経たないうちに、外から声が聞こえてきた。
「……東門の方が燃えてるぞ!」
「どういうことだ!」
「……何かいる? 暗くてよく……、あれは……」
「おい、はっきりしろよ!」
「ちょっと待て! ……あれは、ドラゴン!?」
暗闇の中、ぼんやりとではあるが、ドラゴンらしき影が炎に照らされた。
「ドラゴンだと! もう来たのか!?」
更に騒がしくなるギルドハウスの中。
「ちょっと待てよ。さっき……」
アルスはカフェの店主を見た。
「リピアは東門に向かったと、クルム君が……。あの子、集落の仇を取るつもりか!」
そう言うが早いか、店主はギルドハウスを飛び出した。
「あ、ちょっと待……、クソ! 動ける奴は全員ついてこい! マルタ、本部に伝令だ! ドラゴンが現れた、正式に『コード・レッド』を発令!」
「分かったわ!」
ギルドハウス内にいたほとんど全員が飛び出していった。
「さて、私も急がないと……。クルム~? いつでも出られるようにしておきなさい」
マルタは本部へ連絡する準備をしながら、クルムに呼びかけた。
東門付近は地獄の様相を呈していた。何度かドラゴンの火球を喰らった城壁は既に崩壊寸前、その役割を果たしていない中で、兵士と冒険者たちが何とか侵入を食い止めていた。だが、秒単位で被害は拡大し続けている。
「重傷者だ! 手当を!」
「ダメだ! 手が足りない! 応急処置だけでもそっちでやってくれ!」
「クソッ、しっかりしろ!」
また轟音が響く。そして、その時が来てしまった。
「城壁が……」
ドラゴンの放った火球が東門に着弾した。そして、ドラゴンの攻撃を受け続けていた城壁が崩壊した。辺りに石の崩れる音と、土煙が広がる。更に、城壁の上で戦っていた兵士、冒険者が何人も崩落に巻き込まれてしまったせいで、ドラゴンへの攻撃が目に見えて少なくなった。
「まずいぞ、ドラゴンに入られる……!」
「誰か、戦える奴はいないか!」
「だめだ、ここにいるほとんどが重症を負ってる、動ける奴は俺たちか、向こうで治療してる連中しかいない……」
「クソ、ここまでか……!」
その時。
『死の舞踏』
――暴風の刃が、ドラゴンに向かって吹き荒れる。
ドラゴンは大きく羽ばたき、暴風の刃をかわした。
声の元を見ると、一人の少女が魔素を滾らせ、佇んでいた。
「やっと、みつけた」
ここにいるはずの無い少女。あまりに不自然だった。
だが、その迫力に押され、誰も声をかけることができない。
「みんなの仇」
まるで自分に言い聞かせるように、一言ずつ呟く。
「やっと叶えられる」
一歩ずつ、ドラゴンに近付く。
暴風を躱し終えたドラゴンが少女をにらむ。
少女の長い銀の髪が、ふわりと浮いた。
「……死ねええぇぇぇぇぇぇ!!!」
少女を中心に再び暴風が吹き荒れた。
「うわ、何だこれは……」
アルス達は東門にたどり着き、その惨状を目の当たりにした。
「リピアはどこだ!」
あたりを見渡すが、それらしい影は見当たらない。
「ここに詰めてた守備隊はどこに? 姿が見えない……」
アルスも辺りを見渡す。と、
「あ、アルスさん!」
守備隊の指揮を執っていた兵士が駆け寄ってきた。
「おお、生きてたか! 他の連中はどうしたんだ?」
「重傷者がかなり増えてしまったので、まだ動ける連中と合わせていったん後方に下げました」
「ドラゴンは?」
「それが……、いきなり女の子が現れて魔術を放ったと思ったら、そのまま両方とも向こうの方に……。下がった以外の戦える連中に追いかけさせてます」
「向こうか!」
店主は兵士の示した方向に向かって走り去った。
「あ、おい!」
「アルスさん、ここは任せても?」
「え、どうするんだ?」
「ちょっと後ろに下げた連中の様子を見に行きたいので……」
「ああ、分かった、引き受けた。すぐに戻って来てくれよ」
「助かります!」
「俺たちも急ぐぞ!」
クルムはギルドハウスの屋上に上がり、東門の方を見ていた。
炎に照らされ、ぼんやりとドラゴンのシルエットが浮かび上がる。
一瞬、ドラゴンと目があった気がした。その目に映っていたのは怒りというよりも……。
クルムはフェリと顔を見合わせる。そして何かを決心したかのように、一回頷いた。
一通りの作業を終えたマルタは、
「クルム~? どこにいるの~?」
と呼びかけた。だが返事は返ってこない。不審に思いギルドハウス中を探し回ったが、クルムとフェリを見つけることはできなかった。
「……あの子、どこいったの……?」
マルタの中で、嫌な予感が膨らみつつあった。
毎日雨。ヤンナルネ……。
変に寒かったり暑くなったり。ヤンナルネ……。
明日も仕事。yannnarune……。
次はいつ上げられるかな~?




