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絶望、来たりて

Q:この『3』週間、何してたの?


A:自分探しの旅してる途中で4つ目の戦場に迷い込んでしまったので、鉛弾飛び交うバーチャルサバゲをやってました。←ここまで2週間経過

その後体調崩し、書くに書けず…… ←これで1週間経過


こりゃあ、しばらくほったらかしにした罰が当たりました……。ホントにすみませんでした。

 リピアは大通りを走っていた。時々人にぶつかりそうになるが、そんなことは気にも留めず、銀色の長い髪をはためかせてひた走っていた。

(やっと仇に会える……!)

 心の中に昏い想いが広がる。中央都市(セントラル)に来るというドラゴンが、かつて自分の村を滅ぼした個体と同じであるという確証はないというのに、そんな判断力も鈍っていた。


(それにしても……)

 走り続ける中、ふと思ったことを考える。

(いつからだろう……、こんな見え方になったのは……)

 リピアの前に広がるのは、いかにも新鮮そうな果実をずらりと並べた露店。色とりどりの個性が通りゆく人の目を引き付ける。上を見れば、どこまでも抜けるような青空と、控え目ながらも存在を主張する白い雲が、季節特有の爽やかさを演出していた。……それらが放つ色が、その通り目に映るのならば、きっとそう感じるだろう。

 いつからか、いや、きっと、あの時(’’’)から、リピアの目には、まるで白黒のフィルターがかかったようにぼんやりとしか色彩を感じられなくなってしまっていた。鮮やかな赤い果実を見ても、爽やかな青い空を見ても、そこに灰色を無理やり混ぜ込んだような色でしか見えなくなっていた。

 それを自覚した瞬間から、リピアはあらゆることに対して無気力になっていた。いや、一つだけ、学校で学んでいる魔術だけは、目の色を変えて取り組んでいる。なぜなら、その力があれば集落のみんなの仇を討てるから。色が感じられなくても、あらゆることに関心が向けられなくなっても、それでも構わない。その感情もろとも魔術に変え、あのドラゴンに向けるだけ。

 そこまで考えたところで、昏い想いがそれらを全て飲み込んでいった。それを自覚する暇もなく、リピアは東門に向かってひた走った。



 同時刻、ギルド本部。

 大会議室にけたたましい足音を響かせながらギルド職員が駆け込んで来た。

「ギ、ギルドマスター! た、大変です! ……ゼハァ」

「おい、落ち着け。何があった?」

 ヨロヨロとしながらも、カイゼルの前に紙を叩きつけ、

「ハァ……、ドラゴンの影が、予報の画像から消えました……!」

 と、何とか報告することに成功した。ただし、その内容が与える衝撃は、直ちに会議室中に広がった。


「バカな! どういうことだ!?」

「これを見てください。……1時間おきの画像です」

 ドラゴン接近の報を受けてから、詳細を探るために複数の予報用気球に連携させ、短い時間で結果を送れるように要請していた。その甲斐あり、1時間おきに結果が送られるようになっていた。そして2時間前までは中央都市(セントラル)に近付いていることをはっきり示していたのだが、1時間前の観測結果を見ると、いるはずのドラゴンの影は、キレイさっぱり消えていたのである。

「目視での観測もやっていたはずだが?」

「そちらの結果も一緒です。いきなりドラゴンの姿が消えたって言って、軽くパニックになってたそうです」

 魔物の姿が消える。明らかな異常事態である。あり得ない状況に全員が思考の海に沈もうとしていた。そこに、パン、と乾いた音が響いた。全員が音のした方を見る。

「とにかく、姿が消える直前までそのドラゴンはこっちに向かってたんだ。今更進路を変えたとも思えない。なあ、普通にこっちに飛んできてたとしたら、ドラゴンは今ごろどの辺にいることになる?」

「距離的には中央都市(セントラル)から徒歩で3日分くらいです」

「ドラゴンの飛行速度から考えると、どれくらいでここに到着する?」

「明日の夜には着くものと思います」

「……分かった。各所に連絡してくれ。監視体制を強化する。ついでに、依頼を受領した冒険者にも連絡だ。各自、いつでも出られるよう準備しろ、と。それと、住民の避難も始めてくれ」

「分かりました。おい、行くぞ!」

 ドタバタと全員が慌ただしく動き出した。

「姿が……消える? そんな魔物、聞いたことがない。……新種か?」

 カイゼルが一人呟く。

「ドラゴンが来るのは明日の夜……か。嫌な予感がするな……」



 リピアは東門に到着した。そこでは、たくさんの兵士と冒険者があちらこちらへと忙しく走り回っていた。

「あれ? 嬢ちゃん、こんなところで何してんだ?」

 リピアの姿を見た兵士が声を掛けた。リピアが暮らすカフェの常連であるこの兵士は、どこか影のあるリピアにも気さくに声をかける気の良い人物である。

「……ドラゴンが来るって」

「ドラゴン? 来るのは明日の夜って聞いてるが? それよりなんでこんなところにいるんだ、もうすぐ避難が始まるってさっき連絡がいってただろ?」

「……でも」

「いいから、不安になる気持ちは分かるが、さっさと戻れ。ここは俺たちに任せるんだ」

「……」

 リピアはその兵士に背を向け、走って来た道を歩き出した。それを見送った兵士は満足気に頷き、元の作業に戻っていった。

 だがリピアは言われたことに素直に従う気は無かった。その証拠に、いつまで経ってもカフェにリピアは戻って来なかったのである。



 もうすぐ夜になろうという頃。ギルドハウス内は様々な人々の喧騒で溢れかえっていた。現在中央都市(セントラル)内の各ギルドハウスは、本部での指示を元に冒険者の人員配置、住民の避難状況の把握など、前線指揮所のような役割を与えられていた。そのため、どこも修羅場のような状態に叩き込まれていた。

「ドラゴンの目撃報告は……!」

「まだないそうだ!」

「東門側に行く予定の連中がまだ来てないぞ……!」

「避難の状況は……!」

「もっとこっちに物資をよこしてくれ……!」

 そんな中、避難する準備を終えたクルムは、フェリと一緒にギルドハウスの隅で大人しくしていた。

「大変なことになっちゃったね……」

 ぽそり、とフェリに話しかける。フェリもくぅん、と鳴いて応じた。

「さっき、おねえちゃん、どうしてあんなに急いで走ってたんだろ……?」

 学校から帰ってきて、自室の窓から見えたリピアの様子を思い出していると、バァンとけたたましい音を立ててギルドハウスの扉が開かれた。


「ハァ……、ハァ……」

 息も絶え絶えに立っていたのは、カフェの店主であった。ギルドハウスの中は一瞬で静寂に包まれた。

「何だ、どうした?」

 うろたえつつも、アルスが近寄って尋ねた。

「ゼェ……、リピアが、ハァ……」

「とりあえず息を整えろ、何言ってるか分からん」

 ちょうどクルムがコップに水を入れて持ってきた。それを受け取った店主は、一息に飲み干した。

「あぁ、ありがとう、クルム君。……ここにリピアが来てたりは、しないか?」

「いや、来てないが、どうした?」

「昼過ぎにカフェを飛び出していって、まだ戻ってないんだ」

「何?」

 眉をしかめるアルス。後ろにいる面々も何事かと聞き耳をたてている。

「飛び出していったって、なぜ?」

「それが分からないんだ。丁度店に知り合いの冒険者が来てて、ドラゴンが来てるって話をしていたときだったんだが、急に血相変えて走ってったんだよ」

「……ドラゴン?」

 クルムがその言葉に反応した。

「ああ、クルム君、何か心当たりがあるのか?」

「うん、同じ時間くらいにリピアおねえちゃんが走っていくのを見たの。東門のほうだったと思うんだけど……」

「本当か!? 東門って、何で……」

「なあ、東門ってドラゴンが来てる方向だったよな?」

 冒険者の一人が呟く。その言葉に店主の顔色が変わった。

「まさか……」

「何だ?」

「まさかリピア、ドラゴンに……」

 その時、都市中に咆哮が響き渡った。



 数分前。東門にて。

 兵士たちが目をこらして、暗闇をにらんでいた。

「来るのは明日って言ってたか?」

「ああ、そうらしいが……」

「なあ、あのドラゴンだろ? 本当に来るのか?」

「分からん。ドラゴンだっていうのも、しっかり姿を見たわけじゃないらしいからなぁ……」

 ふと都市の方を見れば、そこかしこに篝火がたかれている。普段はそれなりに暗い都市も、まるで昼間のように明るく照らし出されていた。

 その時、ゴゥ、と風が吹いた。

「っ、何だ?」

 慌てて前を見るが、何も見えない。

「気のせい、か?」

 そう呟いたが、隣にいる同僚の反応が無い。そのことを訝しみ、横を向くと、口を開けたまま放心したかのような顔で上を向いていた。

「おい、どうした?」

 呼ばれた兵士は震える腕で、上を指した。その方向を見る。

 暗闇の中、不自然に赤いものが見え隠れしている。

 バサッと、大きな翼が空気を叩く音がする。

 見紛うはずもない、その姿は。

 ドラゴン、そのものだった。

 絶望が、舞い降りた。

はい、お疲れ様でした。

第2章もそろそろクライマックスですね。

最強の魔物であるドラゴンにどう立ち向かうのか、次回をお楽しみに!

……次は1ヵ月くらいかかるのかなぁ……。


※次の話は1ヵ月もお待たせする気はありませんので、どうかご容赦を……

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