少女は灰色の世界で夢を見る
Q:この1週間何してたの?
A:ちょっと家族をぬっ殺したあんちくしょうに復讐するため、自分らしく生きるための旅をしてました…。
<リピアの過去:概要版>
幕間で掲載したお話、過去リピアの身に何があったかのダイジェストをこちらに掲載します。
①:リピアはハーフエルフ。「森の国」にある集落で家族と仲良く暮らしており、集落に住む老婆に魔術を教えてもらっていた。
②:ある日、ドラゴンが襲来。リピアの父親を含む村の男衆が残り、リピア、母親、妹を含む女性・子どもは村から逃げる。
③:辺りが暗くなったところで野宿。老婆が張った魔物除けの結界の維持をリピアが引き継ぐも、途中で意識が途切れる。気づいた時には目の前にドラゴンがいた。
④:老婆がリピアの身代わりとなり死亡。その隙にリピア達は逃げ出すも、リピアを除く人間は全員死亡。リピアも襲われるが、気絶してしまう。気づいた頃には冒険者に救助されていた。どうやらドラゴンはリピアを襲わなかった模様。
⑤:リピアはカフェの店主に引き取られる。リピアは今学校で魔術を学んでいるが、それはドラゴンに復讐するため。事件以降、リピアの周りにいる精霊は激増したが、それに気づいた者は今のところ誰もいない。
中央都市の中心にあるギルド本部。その上階に位置する大会議室の上座に座るギルドマスター・カイゼルは、今日何度目かのため息をついた。周りのギルド職員が噂し合う。
「なあ、あれ、一体どうしたんだ?」
「さあ、いじりがいのあるものが見つからないんじゃないか?」
など、散々な内容だが、どれも真実とは異なっていた。確かに無茶ぶりをしては、困る様を楽しむという迷惑極まりない趣味を持つカイゼルだが、今考えていたことというのは、
(最近、クルム君、遊びに来ねえなあ……)
だった。
「はあ……(学校に行き始めたって聞いたが、うまくやってんのかなあ。いじめられたりしてなけりゃいいが……。寂しいもんだな……)」
カイゼルの考えを読める人がいれば、カイゼルの今の姿が「孫が遊びに来なくて寂しがっているおじいちゃん」のように見えただろうが、そんな能力を持っている人はいなかった。
そんな中、大会議室の扉が開いた。
「カイゼルさん! 最新の予報です!」
ギルド職員は手に持った紙をカイゼルの前に叩きつけるように置いた。
「……やっぱり近付いているのか」
カイゼルは頭を掻きながら呟いた。
2週間ほど前から中央都市の東側で、大型の魔物の目撃情報が相次いで報告されるようになった。詳細を確認するため、幾つかの予報用気球を差し向け、24時間体制で監視させたところ、1週間ほど前より何か大きな影が映り込むようになった。対象がすばやく動いているせいかぼけて映っており、細かい姿形までは分からなかったが、非常に大型の魔物であると見られていた。
そして数日前、その魔物について、ある冒険者の一団より情報がもたらされる。——曰く、ドラゴンだった、と。
ドラゴンと見られる影は段々と中央都市に接近していた。そのため、先日から各所に「コード・グレー」を発令。いつ魔物が来ても迎え撃てるよう、準備を進めていた。
「都市の出入りは?」
「既に都市にやって来ている連中については受け入れを急がせていますが、外には一切出していません。他の国や都市にも連絡を飛ばしているので、ここに来ようとしている連中は近くの拠点まで引き返していると思います」
カイゼルの問いにギルド職員が答えた。中央都市は物流の拠点なので、1日でも留めてしまうと、周囲への影響が非常に大きく出てしまう。が、この状況下では仕方の無い措置だった。
「そろそろ戦える連中にも召集をかけるべきかな……」
「そうなると都市中がパニックに陥る可能性がありますが……」
魔物が都市に接近する、となった場合、都市の正規兵とギルドの冒険者が協力して防衛を行うことになる。ただ、正規兵はともかく冒険者はすぐに集まらないため、各ギルドハウスで緊急の募集をかけることになる。そうなると、他の一般市民たちにもすぐに情報が伝播していく。ちょっとした魔物が来るというのならまだいいが、今回はドラゴンである。都市中でパニックが発生することは十分に考えられた。
「背に腹は代えられん。準備だけはしておいてくれ」
「分かりました」
ギルド本部では、水面下で脅威に対抗する用意を進めていた。
ところ変わって学校の中。登校したクルムはいつものHRクラスに入り、中を見渡す。
「……」
クルムが探しているのはリピアだった。昨日ミルトニアに誘われ、リピアと仲良くしようと懸命に話をした。だが、クルムの言葉はリピアの琴線に触れてしまい、怒らせてしまった。ミルトニアに慰めてもらったが、クルムの気分は晴れなかった。
リピアにまた会って謝ろう。そう思ったクルムだが、リピアに会えない。知らず、目に涙が浮かんでいた。
「クルム君」
声を掛けられ、顔を上げる。ミルトニアが苦しそうな笑顔を向けていた。
「昨日はホントにごめんね。……リピアがあんなに感情を出したのって、初めてだったから」
ミルトニアはクルムの頬に手を当て、親指を目をぬぐった。
「私もどうしたらいいか分からなかったの。リピアってここでも授業でもずっと1人で、それがなんだか寂しいのを耐えてるみたいで……。それが見ていられなかったから、色々やってみたんだけど、だめだった」
胸の内を吐き出すミルトニアを、クルムはじっと見つめていた。
「クルム君が精霊が見えるって知った時、もしかしたらこれで、って思ったんだけど……。でもやっぱりだめだった。……どうして、うまくいかないんだろうね。苦しそうにしてるリピアを助けてあげたいっていうのは、余計なことだったのかな」
ミルトニアはそっと、自分の額をクルムの額にくっつけた。
「……ねえ、クルム君。もし、リピアが学校に来たら、またお話してくれる?」
「……うん」
クルムが小さく頷くのを見て、ミルトニアは小さく笑った。その様子を、フィンはじっと見守っていた。
結局、午前の授業が終わるまでリピアは現れなかった。クルムは学校で待とうとしたのだが、ミルトニアに「もしリピアが来たら一緒にクルム君のところに行くから」と言われ、しぶしぶ家に帰ることにした。
そしてギルドハウスに帰ると、中が騒然となっていた。
「あ、クルム、お帰り」
クルムが帰ってきたことに気付いたマルタが声を掛けた。
「どうしたの?」
「ドラゴンが来るから、都市を守ってくれる人を募集してるのよ」
「ドラゴン……?」
「そう。ここに近付いてるらしいの。クルムも、いざという時のための準備をしておきなさい」
マルタはクルムを部屋に導く。いざという時とはつまり、「いつでも避難できるようにしておく」ことだと察したクルムは、黙って頷いた。
部屋に入るとシルバーウルフのフェリが尻尾を振って出迎えてくれた。
「ただいま、フェリ。何かドラゴンが来てるんだって」
フェリの頭を撫でながら語りかける。フェリは2年前からクルムと一緒にギルドハウスで暮らしているが、体長はあまり大きくなっておらず、相変わらずの子狼サイズだった。今や、クルムと並ぶギルドハウスのマスコット第2号となっている。
「……あれ?」
荷物を入れる用のリュックを引っ張り出したクルムがふと窓の外を見ると、見知った顔の人物が外を走っていた。
「おねえちゃん?」
スカートをはためかせながら、東門の方へ向かっていくリピアが見えたのである。
時間を少し巻き戻し、中央都市のとあるカフェにて。
リピアは朝を過ぎても、布団にくるまり横になっていた。いつまで経っても起きてこない店主が心配して様子を見に来てくれたが、「気分が悪い」と伝えて以降、ずっとこの状態だった。
頭の中では昨日の会話がぐるぐると渦を巻いていた。特にクルムからかけられたあの言葉……。誰にも言っていないはずなのに、なぜ自分がドラゴンを殺すつもりなのが分かったのか。いや、それよりも……。
(誰も悲しませたくない? 私が?)
それが分からない。確かに中央都市に来てから人付き合いと言えばカフェの店主くらいで、学校でまともな人付き合いはしていないが……。それはひたすらに魔術を鍛え、村のみんなの仇を討つため、不必要な要素を排除した。それだけのはず……。
なのに、クルムの言ったあの言葉が、頭の中でいつまでも回っている。それが、どうしようも無く理解できなかった。
「……?」
下から聞こえる話し声に反応したリピアはのっそりとベッドから起き上がった。部屋のドアをそっと開け、下の様子を伺う。
<……本当なのか?>
<ああ、ドラゴンが近付いているらしい。ギルドで迎撃用の人員を募集してるそうだ>
「……ドラゴン?」
<それで、そのドラゴンって、どんな姿をしてるんだ?>
<俺も又聞きなんだが、ところどころ黒かったそうだ。あんなドラゴンは今まで見たことが無いと言ってた>
「……黒い?」
リピアの脳裏に、あの時の光景が浮かんできた。あの時のドラゴンも赤黒い色をしていた。まさか……。
気づいた時には、リピアはカフェを飛び出していた。誰かの声が聞こえたが、振り返る余裕は無かった。
はい、またまた1週間ぶりでございます。テイルズが面白いのがいけないんや…(責任転嫁
えー、前回から今回までの間に総合評価200ポイント越え、アクセス数も20,000越えしました。本当にありがとうございます。まさか、こんなに見て頂けるとは思いもしていなかったので、本当に驚いています。
…いやもうホント、何を言えばいいのやらわかりません。この感謝を、これから作るお話に還元していきたいと思います。今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。
え、更新速度? あー、はい、ソウデスネ…。ヤンナルネ……。




