冒険者ギルドにて ①
まだまだチュートリアルは続きます。そして書きたいことを書いてたら長くなってしまいました……。
子どもを抱え医者に駆け込んでからはや数日。子どもは体力を取り戻し、自力で動けるようになっていた。その様子を見ながら、マルタは医者との話を思い出していた。
――数日前、医者の家にて。
「それで、この子はどうすんだ?」
「このままほっとくわけにはいかないでしょ。とりあえずはいろんなギルドにこの子の情報を流して、親がどこにいるかを探すことになるでしょうね。けど……」
「けど、なんだ?」
「しゃべれないみたいなのよね、この子……。だから名前が分からないわ」
医者は驚いた顔を子どもの方を向けた。
「おいおい、見た感じ3、4歳くらいだぞ? しゃべれないだなんて……」
「う~~、あ~~」
「……」
相変わらず子どもは言葉にならない音を上げていた。
「親は一体何をやっていたんだ……。普通に育てていればしゃべれるようになっているはずだぞ……、だが、この感じは……」
「何か分かるの?」
医者はマルタの方に顔を向けた。
「もしかすると、赤ん坊と同じ状態なのかも知れないぞ?」
「赤ん坊? なにが?」
「言葉がだよ。赤ん坊は最初言葉がしゃべれないから、あ~とか言ったり泣いたりして自己主張するだろ?それと同じで、つまり『言葉』というものを全く知らない状態なのかもしれない」
マルタは茫然とした表情で、
「そんなことあるの?」
と聞くと、
「言葉を一切かけたりしなければあるんじゃないか?」
と返した。
「まあ、『言葉』については話しかけたりしてるうちに勝手に覚えるだろうさ。そんなことより、これからどうすんだ?」
「え? さっきも行ったでしょ? 親を探さないと……」
「その親を探してる間、この子は一体どこで暮らすんだ?」
「……あ」
医者はこれ見よがしにため息をつき、
「ちなみにうちじゃ預かれんぞ。この頃の子どもなら1日中見張ってないといけないだろうが、うちは独り身だ。そんな余裕はない」
と告げた。
「え~、じゃあ孤児院とか探すしかないかしら……」
とマルタが思案していると、
「それでも良いかも知れんが、入れるかどうか分からんぞ?」
医者が横やりを入れた。
「なんでよ」
「親代わりとなって預かってくれるところがあるなら、基本的にはそこで暮らしてもらうように孤児院の方から手配するからな。この子もそれに当てはめられるんじゃないか?」
「親代わりって……、そんな身寄りがいるかどうかもわからないのよ?」
それを聞いた医者はあきれた顔をしながら、
「あのなあ……、親代わりになりそうなところなら、俺の目の前にいるんだが?」
と告げた。
「……まさか、私たちのところ?」
「他に誰がいるんだよ。お前たちのところ、子どもいないだろ?」
――といった経緯があり、結局マルタ達が子どもを預かることになってしまった。なお、孤児院に問い合わせたところ、医者が予想した通り、「そちらで預かることができるなら預かってください」 という反応が返ってきた。
これは別に孤児院が満杯でこれ以上預かれないだとか、経営がひどくて余裕がないなどという訳ではなく、子どもの成長には(たとえ生みの親と違っていても) 親という存在が欠かせないという考えがあるからである。
そのため、里親の募集を積極的に行っており、たとえ孤児院に入れる子どもであっても、里親になってくれるところがある場合は入院を断ることもあった。今回はそのパターンに当てはまったのだった。
「まさか私たちで預かることになるなんてね」
マルタは子どもらしい艶のある黒い髪を撫でながら呟く。子どもはくすぐったそうな表情をした。
「でもこうしてみると女の子らしい顔つきしてるわよねぇ。線も細いし……」
色々と落ち着いてから改めて子どもを観察してみると、まず中性的な顔つきが目に付いた。まだ幼いということもあるが、ぱっと見ただけでは性別の区別がつかないくらいである。実際は男の子だったのだが、そうと確信したのは少年を風呂に入れた時だった。
そして少々長め(といっても肩にかからない程度だが) の艶のある黒髪、同年代と比べるといささか細めの体つきと、これらが少年の特徴である。
ちなみに医者によると、少年の年齢は身長、体重から判断して4歳くらいだろうとのことだった。こればかりは本人に聞かないと分からないが、当の本人はまだしゃべれない。したがって、当面は4歳ということにしておいて、本人がしゃべれるようになったら確認しようということになった。
そして。少年が「クルム」という名前を付けられ、そう呼ばれるようになったのは、医者に世話になった日からである。
百面相のお医者さん。名前はまだ無く、姿形も分からない。
そして3話目にしてやっと名前やら特徴が分かる主人公……。
《今回のまとめ》
・結局拾った子どもはマルタ達が預かることになったよ!
・何か言葉がしゃべれないみたい。ふしぎ!
・女の子に間違えそうだけど男の子なんだって!
・「クルム」という名前を付けてもらったみたい。良かったね!
お読み頂き、ありがとうございます。