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幕間 少女が見た風景

♪ピンポンパンポン♪

今回はかなり、かーなーり、グロ表現が多いです。

リピアに何があったのか、当時の惨劇を語るお話なのですが、

R15がバッチリ仕事してくれてます。


後日上げるお話にダイジェスト版を付けますので、耐性の無い方はこのお話は

避けて頂きますよう、お願いいたします。

一応、その手の表現は中盤くらいから出始めますので……。



……よろしいですね? では、どうぞ。

 その日は何ということのない、いつもと変わらない1日だった。……そのはずだった。


 リピアはその日もいつも通りの時間に目覚めると、日課である家事の手伝いを始めた。

「お母さん、洗濯物干しとくね!」

「あら、ありがとう。お願いね」

 リピアは「森の国」にある小さな集落で、父親、母親、妹と4人で暮らしていた。父親がエルフ、母親は普通の人間種だったので、その間から生まれたリピア、妹は両者の特性を半分ずつ受け継いだ、いわゆる「ハーフエルフ」であった。

「おねえちゃ~ん、朝ごはんできたって~!」

「は~い、今いく~!」

 集落は小さいながらも、気の良い人々が助け合いながら暮らす、居心地のいいところだった。リピア自身もハーフエルフであることを特には気にされず、色々な人々から可愛がられていた。


「リピア、今日も魔術の練習?」

「うん、おばあちゃんのところに行ってくる」

「そう、気を付けてね」

「は~い、行ってきま~す」

 朝食を済ませたリピアは、これまた日課である魔術の練習を受けるために家を出た。リピアの暮らす家は集落の西端にあり、そこから集落東端に居を構える魔術の先生のところへ向かうのである。


「おはようございます!」

「おや、リピア、おはよう。今日も早いね」

 リピアが魔術の師として教えを仰いでいるのは、集落の中で最高齢の老婆である。現役時代は高い魔術の腕を見込まれ、近衛として活動していた実績もあるほどだった。

「さて、早速始めようか。……精霊の様子はどうだい?」

「はい、今日も一緒にいてくれてます」

 そう言うリピアの周りには、3、4個ほどの光がふわふわ漂っていた。

「よしよし、じゃあ精霊との交信から始めようかね」

 老婆の顔には満足気な表情が浮かんでいた。



 数十分が経った頃。

「……何か外が騒がしいね。ちょっと見てくるかね」

 外で誰かが何かを叫んでいる声が聞こえてきた。不審に思った老婆は何があったかを確かめるため、外に出た。

「騒がしいね。何があったんだい?」

「ドラゴンです! ここに向かってきてるとかで!」

「はあ、ドラゴン? なんだってまた?」

「そんなのドラゴンに聞いてくださいよ!」



 ドラゴン。全ての生態系の最上位に位置するこの魔物は、非常に高い生命力と知能を有し、小国程度なら単体で滅ぼすことができると言われている。ただし、ドラゴンが人を襲うのは自分の身に危機が迫っている時くらいで、平時は人がいるところには現れないとされている。であるのだが……。



「う、うわあ!」

 果たして本当にドラゴンは現れた。胴体は全体的に赤黒く、翼は広げると人の背丈の10倍ほどはあるだろう。目はまるで飢えているように血走っており、口からは赤い炎が漏れている。それが、集落の東端(’’’’’)に降り立った。

「な……、何、あれ……」

 リピアはドラゴンから目が離せなくなった。だが、目の端に映ったものを認識した瞬間、体が勝手に動き出していた。……ドラゴンが降り立ったすぐ近くには、自分の家があった。


『高まる円舞曲(ワルツ)

 ――リピアの周りを風が覆い始めた。


 そして物凄いスピードで駆け出した。

「リピア、待つんだよ!」

 老婆の叫びは届かない。

「ええい、魔術の才能があるとこんな時は厄介だね!」

 そして毒づき、自らも魔術の詠唱を始めた。


 リピアが家の前にたどり着いたとき、そこは地獄と化していた。今、ドラゴンの前に武器を持った青年が2人、対峙している。1人は剣、もう1人は弓を構えていた。

 剣を突き出す。

 鱗に阻まれ、弾かれた。

 目の辺りを狙い、矢を放つ。

 顔の一振りで、全ていなされた。

 そして2人の動きが止まったところに。

 ドラゴンの尾が剣を持った男を捉えた。

 近くの家屋まで吹き飛ばされる。

 その衝撃で家屋は崩れた。

 今度は爪が弓を持った男を捉える。

 一薙ぎで両腕が消し飛んだ。

 呆然とする間も無く。

 次の一薙ぎで上半身が消えた。

 力を失った下半身が倒れた。

 赤いものが垂れ流される。

 それを意に介さず、ドラゴンは。

 ぐっと喉に力を入れ、吐き出した。

 灼熱の炎がまき散らされる。

 リピアの目には全てがスローで流れていた。

 自分に炎が迫っている。

 でも、何もできなかった。

 炎が自分の体を包み込もうとした。


 その時、リピアの周りにあった風が急激に強くなり、炎を吹き散らした。

「リピア、大丈夫かい!?」

 その声で、スローだった光景が元に戻った。

「あ……、おばあちゃん……」

 先ほどの老婆と、その後ろには自分の家族、そして武器を持った大人たちが揃っていた。

「リピア、無事だったか!」

 父親がリピアをしっかりと抱き抱える。そしてそのまま集約の西端に移動し始めた。それ以外の大人たちは各々手に持った武器を構え、ドラゴンの気を引くために交戦を始めた。


 集落西端、老婆の家の前。

 そこには戦う力を持たない女性や子ども達が集まっていた。その中に、リピアの母親と妹もいた。

「リピア、ああ、良かった……!」

「おねえちゃん……!」

 だが、無事を喜んでいる暇は無かった。

「いいか、『大地の国』に救助を要請した。冒険者たちがこっちに向かってくれてるはずだ。ここを出て道をまっすぐに進めば『大地の国』に行ける。静かに、素早く進むんだ、いいね」

 リピアの父親が早口で説明する。だが、そうすると、

「お父さんはどうするの……?」

「俺たちはしばらくドラゴンを釘づけにしたら森の中へバラバラに逃げ込む。なあに、大丈夫だ。森が助けてくれるさ」

 父親はニカッと笑い、手に持った大弓を掲げた。手首にはかつてリピアが編んだお守りがあった。

「だから、大丈夫だ。お母さんたちをしっかり守ってやるんだぞ? ……じゃあ、お願いします」

「ああ、任された。そっちも無理はするんじゃないよ?」

 老婆の言葉に一つ頷き、父親は集落に戻っていった。それと同時、集落に背を向け、移動を始めた。



 どれくらい歩いたか、気づけば周りは暗くなっていた。だが、まだ森を抜けられないでいた。

「……今日はここまでだね。今魔術で結界を張る。ここで一晩明かして、明日早くに移動しよう」

「……でも、ドラゴンに追いつかれるかも」

 老婆の判断に、周りから反対意見が出る。しかし、

「このまま森の中を歩き続けたら、今度は違う魔物に襲われるかもしれない。昼と夜じゃ、全く違う顔を見せることくらい、知ってるだろう? それに、こんな状況で歩いたんだ。体力をかなり使ってるはず。子どもたちはもう限界のはずだよ? 休めるときに休むんだよ」

 かつての経験から、そう判断した。集落の最年長の判断に、反対意見を出した人間も納得し、準備を始めた。


 老婆の張った結界は魔物の目からこちらの存在をごまかすためのもので、野営には必須の魔術と言われている。頭では分かっているものの、そうそう安心できるようなものではない。大人たちは不安と緊張で眠れずにいたが、子どもたちは老婆の言った通り体力の限界だったようで、早々に寝付いてしまった。

 そんな中、老婆は結界の維持と周りの監視のため、寝ずの番をしていた。

「……おばあちゃん? まだ起きてるの?」

 一度は横になったリピアだが、中々眠れずにいた。母親と妹は自分の横で、寝息を立てていた。

「おや、リピア。起こしてしまったかい?」

「ううん。違うの。眠れなくて……」

「そうかい。……あんなことがあれば、無理はないね」

 2人は周りを起こさないよう小声で話をしていた。

「となりのお兄ちゃんも、おじさんも、あんなに、簡単に、し、死んじゃ……」

「いいんだ。思い出さなくていい。無事逃げられた後でまた、ゆっくり弔ってやればいいのさ」


 それから少し会話が途切れた。何も聞こえない静寂の中、老婆が少し身じろぎした。

「……おばあちゃん? 大丈夫?」

「何がだい?」

「だって、おばあちゃん朝からみんなよりずっと動いてるんでしょ? ずっと魔術使ってて、辛くないの?」

 老婆をふぅ、とため息を一つつき、

「リピアは優しいね。……そうだね、正直言うと、ちょっと辛いんだ。そろそろ体の魔素がね、底をつきそうなんだ」

「そうなの? ……私じゃ結界の維持はできないの?」

「一度作ったものの維持だけだからね、リピアでもできると思うけど、私はまだ大丈夫だよ? 明日早くに移動するから、リピアこそ早く休んだ方がいいんじゃないのかい?」

「でも、おばあちゃんも辛いんでしょ? 私にやらせて。おばあちゃんの力になりたい」

 老婆はリピアの目をしばらく見つめ、

「……分かったよ。ありがとう、リピア」


「いいかい、いつも通り魔素を使うことを意識し続ければ結界は動き続けるからね。あと、この結界にはいざという時のために警戒機能をつけてあって、魔物が来れば分かるようになってるから。リピアの体にちょっとした刺激が行くから、それを感じたらすぐに私を起こすんだよ」

 ありがとう、と何度かお礼を言ってから老婆は横になった。

 一人になったリピアは体内の魔素を活性化させながら色々なことを考えた。お父さんは無事逃げられたかな、私たちはちゃんと逃げられるのかな……。後から後から湧いてくる答えのない疑問は、リピアの頭の中でいつまでも、いつまでもグルグル回り続けていた。



「……?」

 考えることに夢中になっていたようで、意識がもうろうとしていた。それに気づいたリピアは瞬きを何度かして、意識を覚醒させた。すると、目の前に妙なものが映っていた。赤黒いごつごつした岩のようなものが……。

 視線を上にやると、そこには血走った赤い目が輝いていた。あれが何なのか、誰かに聞く必要など無かった。リピアの目の前に、ドラゴンが鎮座していた。

「……おばあちゃん!」

 悲鳴のような声に、全員が飛び起きた。いつの間にか、結界も消失していた。

「リピア!」

 老婆が叫び、物理結界を発動させた。その直後、ドラゴンからの火炎が降り注いだ。

 悲鳴が飛び交い、人々が森の中に逃げ込む。リピアは目の前の光景に動けないでいた。

「……ぐっ!」

 老婆は必至に結界を維持している。

「……おばあちゃん!」

 リピアも結界を張ろうとするが、

「リピア、来るんじゃないよ!」

 老婆の鋭い声が響いた。リピアがすくむと、

「リピア、いいかい、森に逃げた人達をまとめてすぐに移動するんだ。頼まれてくれるかい?」

 老婆の表情は状況に合わず、穏やかだった。

「でも、そしたら、おばあちゃんが!」

「私はここで何とかコイツを食い止めるさ」

「そんな!」

 リピアは悲鳴にも似た声を上げた。知らず、目から涙がにじんだ。

「リピア、いいかい。リピアには魔術の才能がある。ここで死んじゃだめだ。もっと広い世界を見るんだ」

 老婆は訥々(とつとつ)と語る。

「さあ、行くんだ、行くんだよ、リピア!!」

 老婆の絶叫に押されたかのように、リピアは駆け出した。

 その様子を最後まで見た老婆はふっと微笑み、

「頑張るんだよ、リピア……」

 直後、ドラゴンの炎が老婆の体を抱いた。



 リピアは走る。逃げ散った人達を探す。

 体の疲れも、足の痛みも忘れ、ひたすら走る。だが、見つからない。溢れる涙を気に留める余裕などなかった。

 ふと、上空に影が差した。……先ほどのドラゴンが飛び回っている。ドラゴンは何かを見つけたのか、地上に急降下した。直後に聞こえる悲鳴。

 ドラゴンは何かを蹂躙するかのように暴れ回っている。ドラゴンが(こうべ)を垂らし、もう一度上げたとき、口から2本の何かがバタバタと暴れていた。直後、2本の何かが噛み切られ、下に落ちた。

 リピアはドラゴンの元にたどり着くべく、走った。


 ドラゴンの下は、地獄もかくやという様相を呈していた。落ちているのはヒトの首、腕、足……。首が無い死体もあれば、上半身だけ、下半身だけ、というものもあった。

 そしてリピアは見た。母と、妹が並んで倒れているのを。一瞬笑顔を浮かべたが、それもすぐに凍り付いた。……2人とも、上半身しか残っていなかった。

 ふと、上を見る。ドラゴンがこちらを見ていた。目はいつの間にか藍色になっていた。口に目をやると、何かが出ていることに気付いた。それは、人間の腕だった。リピアはそれに、正確には手首にあるものに見覚えがあった。なぜなら、それはリピアが編んで、プレゼントしたお守りだったから。

 ドラゴンが咆哮した。そして、リピアを噛み砕こうと長い首を素早く伸ばし……。



「……!」

 リピアは寝台から体を起こした。そこは中央都市(セントラル)の、リピアが下宿しているカフェの2階にある一室だった。

 リピアは毛布をどけ、床に足をつける。体中、寝汗でびっしょりだった。

「……」

 両手で顔を覆う。今日もまた、あの時の夢を見た。


 リピアはドラゴンと対峙した後、気を失ってしまったらしく、救助に来た冒険者に助けられるまで、その場で気絶していたとのことだった。救助部隊が全て到着した後、リピアの身柄は母親の親戚だというカフェの店主が引き取った。本当は事情を聞かれるところだったのだが、本人が受けた精神的ショック、その他諸々を考慮し、免除となった。

 中央都市(セントラル)に連れられたリピアはそのまま店主の元で暮らすこととなった。今はカフェから学校に通い、時間があるときはカフェでアルバイトをしている。少しでも嫌なことを考えないように、という店主の配慮だが、あまり良い効果は生んでいないようだった。

 リピアは今日も学校で魔術を学ぶ。故郷を滅ぼし、自分が愛した人々を滅ぼした、あのドラゴンに復讐するために。

 あの惨劇から、リピアの周りを漂う精霊は数十体に増えていたが、それに気づく者は誰もいなかった。

お疲れ様でした。

必要だから入れたとはいえ、やっぱり辛いです……。

つか、この話が文字数最長とか、どういうことだよ……。


とにかく、ありがとうございました。次はちょっと口直しを用意しときます。

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