そして少年は、少女の秘密を知る
ヒャッハー! 連続投稿だー!
第2章、5パート目です!
授業が終わった後、クルムはまっすぐギルドハウスに帰った。ギルドハウスにはヴェリベルとミラがいたので、クルムは気になることを聞いてみることにした。
「ねえ、ミラおねえちゃん、聞きたいことがあるんだけど……」
「ん、何かな?」
「”精霊”ってなあに?」
クルムを膝の上に乗せ、頭をなでながら満面の笑みを浮かべたまま、
「”精霊”? どこで聞いてきたの?」
と聞き返してきた。そこでクルムは学校であったことを話すと、ミラは少し真剣な表情になり、
「ふぅん、その子の周りにキラキラしたものがね……。う~ん、クルム君になら話しても大丈夫かな……」
と、ひとりごちた。
「え~とね、その子の周りに見えたキラキラしたものが”精霊”って呼ばれるものなんだけど……。魔素が何かのせいで意志を持つようになることがあるんだけど、そうして生まれた存在のことを指すの。……ちょっと難しいかな?」
何とか理解しようとしているのか、クルムはうんうん唸っている。
「まあ、キラキラしたもの = 精霊って思っておけば大丈夫よ。でね、その精霊とコミュニケーションが取れるのって、一般的に『エルフ』と呼ばれる人達だけって言われてるの。その子の周りに精霊がいっぱいいたのよね? 多分、その子はエルフだと思うわ」
エルフは人間の一種で、古くから森の中で暮らしていたとされている。彼らは魔素の扱いに優れ、精霊とコミュニケーションを取りながら自分の身を守り、森の恵みを享受しながら暮らしている。
中央都市がある「大地の国」の東には大きな森林地帯があり、そこは通称「森の国」と呼ばれている。エルフは基本的に森と共に暮らすので、何か特別な事情がない限り「森の国」からは出ない、と言われている。
そんなエルフは他の人間種とは違う特徴が幾つかあり、身体的特徴から挙げると、
・基本的に背が高く、細身
・耳が尖っている
・髪色は金や銀がほとんど
などである。
それ以外では魔素の扱いに優れるため、魔術的素養が最も高く、魔法使いが誕生する率もトップであるという面もある。
魔素の扱いが優れるエルフは前述の通り、魔素が意志を持った存在――精霊とコミュニケーションを取ることができる唯一の種族でもある。精霊が生まれる理由については現在も分かっていないが、エルフの近くで発現することがほとんどであるため、エルフの持つ特定の魔素に惹かれるのだろう、と考えられている。
ところが……。
「エルフが皆魔術がすごいってわけじゃないのよ。実際に精霊とコミュニケーションを取れるのはエルフの中でも一部、『愛されし者』でないと無理、って言われてるの。見るだけならほとんど全員できるんだけどね」
「どうしてみんなおしゃべりできないの?」
「精霊がね、選ぶの。『この人とならおしゃべりしてもいいかな』って。だから愛されし者っていう呼ばれ方になるのかな。多分だけど、その子も愛されし者よ」
「そうなんだ……」
何かを思い出したのか、クルムは視線を虚空に向けた。
「だけどね、精霊とおしゃべりできるってそんなに良い事でもないの」
「え?」
「別に精霊が何かする訳じゃないんだけど、周りの人達がね……。魔術にあんまり詳しくない人達から見ると、精霊と一緒にいるってだけで怖くなるの。『何かされるんじゃないか』って……」
「……でも、だって」
「そう。本人にその気はない。でも魔術って、魔素に働きかけて色んな現象を起こす技術でしょ? そしたらこうは考えられない? 『魔素が意志を持ったら勝手に魔術をまき散らすんじゃないか』って」
「……」
「その子、多分周りに愛されし者だってことは言ってないと思うわ。もしかするとエルフだってことも隠してるかもね。でも、どっちにしたって、辛いはずよ。秘密を持ったまま集団の中で暮らすって。しかも自分以外はエルフじゃないから、相談することもできやしない」
「……」
クルムは何かをこらえるようにぐっと唇をかみしめている。それを見たミラはフッ、と微笑んだ。
「クルム君は本当に優しいのね。今日の夕方来てほしいって言われてるんでしょ? 行ってあげなさい。なんでかは分からないけど、クルム君にも精霊が見えた。それなら、クルム君がその子の支えになってあげられるかもしれない」
「……うん」
「マルタには私から言っておくから。その子としっかりお話できるといいわね」
「……うん!」
クルムの顔に、笑顔が戻った。
そして夕方になる頃、クルムは学校に向かった。ギルドハウスではミラがマルタに事情を説明したが、クルムが誘拐されないか心配だとアルスが騒ぎ始めたため、ギルドハウス職員と冒険者による急ごしらえの「見守り隊」が結成され、ドタバタと騒がしくクルムを追いかけていった。
そうとは知らないクルムはやがて学校に到着。その後を追って見守り隊が入ろうとしたが、当然入り口の守衛に捕まり、すったもんだの言い争いが始まってしまった。何とか説得して(アルスのギルド職員証をチラ見せして)、目的地である屋上までの道をひた走ったが、クルムを発見することはできなかった。
慌てる大人たち。試しに屋上の様子をこっそり覗いてみたが、女子生徒が2人いるだけだった。
その頃クルムは。
「あれ? 屋上ってこっち?」
屋上までの道が分からず、校舎の中で迷子になっていた。
毎日暑いですね~。なお、作中の季節はまだ春……。
この調子で行くと、秋が深まる頃に夏の話をすることに……。
暑い夏の記憶を無理やり思い出させる。あれ? これなんて拷問?
……えー、とにかく今回もお読み頂きましてありがとうございました!




