章間 謎のお客さん
今回はちょっと短め。第2章へつながるお話です。
どうぞ~。
ある日、クルムはいつもの日課であるギルドハウス前の掃除をしていた。ふんふふ~ん、と鼻歌まじりに、身の丈よりも大きな箒を器用に動かし掃除をしている横では、フェリが寝そべって大きなあくびをしていた。
そこに近寄ってくる影が2つ、クルムがそれに気づくと笑顔を浮かべた。
「あ、こんにちは!」
「おう、こんにちは。今日も手伝いか、偉いなあ」
近付いてきたうちの1人は、アルスが贔屓にしているカフェの店主である。クルムも何度か連れていってもらっていたので、お互いの顔を知っていた。
「アルスはいるか?」
「おとーさんならなかにいるよ?」
「お、そうか、ありがとう。……じゃ、悪いがここで待っててくれ」
店主がもう一つの影にささやくと、ギルドハウスの中に消えていった。もう一つの影は店主に言われた通り扉の前で立ち尽くしている。フードを目深に被っているため、表情を伺うことはできない。背丈はクルムより頭1つ高いくらいで、時折フードの中から銀色の長い髪が見える。
クルムはその様子を見て、箒を片手に横からそろ~り覗き込んでみた。だがフードが邪魔をしてやはり良く分からない。クルムが不思議そうな顔をしていると、覗き込まれていることに気付いたフードの人物がクルムの方を向いた。
見つめることしばし。す……、とフードの人物の手が動き、クルムの頭の上に置かれた。ポンポン、と。クルムはそれを不思議そうに見つめていた。
その頃。ギルドハウスの中ではこんな会話が繰り広げられていた。
「アルス、今戻った」
「お帰り。で、どうだった」
「……全滅だ。生き残っていたのは今表で待たせてるあの子だけ。ひどい有様だった。どれが誰の死体か判別できたのは極一部。五体満足で死ねた奴はいなかっただろうよ」
「……そうか、分かった。それで連れてきたその子はどうする?」
「俺のとこで預かる。一応は親戚の子だしな。それに、しばらくはゆっくり休ませてやらないと……。どんな光景を見せられたのか、ひどい顔をしてるんだよ……」
「分かった。ギルドにはそのように報告しておくよ。お前も、ゆっくり休んでくれ」
「はは、ありがとう。だけど、俺よりもまずはあの子だな……」
1週間ほど前、中央都市のギルド本部に集落が魔物に襲われているとの情報が入った。いくつかの冒険者グループが先行して現地に向かったが、後詰で調査部隊が現地に向かうことになっていた。店主は集落に親戚がいたため、調査部隊に同行させてもらえるようアルスに掛け合ったのである。一応冒険者の資格を持っていたので許可が降り、集落へ向かったが、そこで見たのは更地と見紛うほどに破壊された集落の跡と、原型を留めていない死体の山だった。
のちの調査で生存者は1人のみと判明。その1人がたまたま店主の親戚の子どもだったため、身元を引き取り連れて帰ったのだった。
なお、集落を襲った魔物についてはまだ正体が掴めていない。生き残りの子どもなら知っていると見られているが、無理に尋問を行い精神が壊されるリスクを考え、現状は観測機のデータを頼りに捜索することになっていた。
店主が外に出ると、フードの人物――生き残った子どもがクルムを撫でていた。
「待たせたな。俺がカフェをやっているところの2階に家があるから、まずはそこでゆっくり休もう。この後のことはそれからだ」
店主が語りかけると、フードがゆっくり縦に動いた。
「クルム君、相手してくれてありがとう。今度またお店においで」
「うん!」
クルムが頷くと同時、2人は大通りに向かって歩き出した。しばらくその様子を見ていると、フードの子どもがこっそりと、クルムに向かって小さく手を振っていた。
その日の夜。寝る直前までクルムはマルタから離れようとしなかった。
「クルム、どうしたの? 今日は随分甘えんぼさんなのね」
「うん……」
結局クルムはマルタを掴んで離さなかったので、マルタはそのまま自分のベッドでクルムを寝かしつけた。
(ううん、今日はどうしちゃったのかしら……)
クルムが掴んでいた服越しに、クルムの手が少し震えているのを感じた。せめて安心していい夢を見られるように、マルタはクルムをゆっくりと、優しく撫で続けた。
しばらく報告をさぼっていたらいつの間にかPV数10,000、ユニーク数2,500、ブクマ40件突破してました。本当に、本当にありがとうございます!
次からようやっと第2章が始まります。これからもクルム君の活躍を見守って頂ければと思います。よろしくお願いいたします!




