銀の狼の意志に触れて
10パート目でっす!
タイトル回収できてない……! 次回に持ち越しで、どうかご勘弁を……。
晴天の下、ゴトゴトと音を立てて馬車が行く。中央都市に近付いているという、シルバーウルフの意志を確かめるために。そして、中央都市の壊滅という未来を避けるために。
自分たちが追った責任の重さを感じながら、それでもいつも通り油断なく周囲を見渡すグレイブ率いる冒険者たち。何故こんな状況になってしまったのか、その激変に流されながらも、自分たちの子どもを守るために同行を決めたアルスとマルタ。そして騒ぎの渦中にいるにも関わらず、普段と全く変わる様子のないクルム。その腕に抱かれた仔狼。どこかちぐはぐな雰囲気の中、旅路は続いていた。
クルムは初めて見る外の光景にすっかり目を奪われていた。グレイブと同じ冒険者であるミラに何度もせがんで話してもらった冒険譚、それが自分の目の前にあるからである。
「おとーさん、あれなーに!?」
「んん? ありゃ『竜もどき』の群れだ。この辺には結構な数が生息してたはずだぞ」
「じゃあ、あれは?」
「あっちは『牛もどき』……。見た目は牛だが魔物だ。こっちから何もしなけれりゃ、向こうも何もしないおとなしいタイプだな」
「すごいなあ……!」
好奇心のままに輝く笑顔を方々に向けるその姿に、周りの大人たちは緊張感が薄れていくのを感じた。どうにも締まらない。
クルムはハイテンションのまま、そのエネルギーを好奇心を満たすために消費し続けた。
30分後。
「くー……。すー……」
ハイテンションを維持し続けた結果、あっという間にエネルギーが切れてしまい、マルタの膝枕の上で眠りについてしまった。仔狼はクルムの足と座席の背もたれの間にすっぽり収まり、こちらも寝息を立てている。
「やれやれ、寝ちまったか……」
アルスが呟くが、声音に呆れは混ざっていなかった。
「で、どうだ?」
アルスが外にいるグレイブに尋ねる。
「今のところ予定通りだ。このまま行ければ出発前に設定したポイントに余裕を持って着けるぞ」
出発前、最新の予報から群れの進行スピードを予測、どの辺りで群れと出くわすかシミュレーションを行っていた。今のところ魔物の妨害も無かったため、時間的には余裕があった。
「そうか、じゃあこのまま予定通り、この先の村で予報を受け取ることにしよう。ついでに小休止だ」
「分かった」
短く方針を再確認するアルスとグレイブ。程なく道の先に建物の影が見え始めた。
クルムたちのたどり着いた村は、冒険者用の小さな拠点がある、比較的規模の大きい所である。拠点脇に馬車を止めると、休息もそこそこに予報の情報を受け取った。
パラパラと複数の紙をめくりながら、時間ごとの群れの推移を追うアルス。しばらく紙をめくったところで、ピタリと動きが止まった。
「……ウソだろ……」
何か信じられないものをみたような、呆然とした表情を浮かべるアルス。
「何だ、どうした……?」
その様子を見たグレイブが近寄り、アルスが持っている予報の紙を覗く。
「……は? なんだ、これ……?」
グレイブもアルスと同じ表情を浮かべた。
魔物の動きを想定しながら立てた計画では、シルバーウルフたちが現在の進路を取った場合、アルスたちが今いる村の付近で群れに出会う想定だった。ここしばらくの予報を確認し、群れがまっすぐ目的地――おそらく中央都市――を目指していると確信したアルスたちは、村で準備を整えた後群れと接触することにした。したのだが……。
「俺たちが村に到着したと同じくらいの時間から、群れが全く動いていない……」
予報の結果が指し示したのは、アルスたちが全く予想もしなかった群れの動きであった。
「こんなことって、あるの……?」
予報の結果を見たマルタが呟いた。
「全く予想してなかった。過去の予報を見ても、群れが動いていない時間は深夜のわずかな時間だけだった。多分休息を取ってたんだと思うが……。少なくとも、まだ明るい時間帯に動きを止めたなんてことは1度も見られなかった」
今わかっている事実を1つずつ整理していくように、アルスが説明した。
「こうまで動きが無いのは異常だ。何か理由がある」
「ひょっとしたら……」
ミラが何かを閃いたように顔を上げた。視線が集中する。
「ひょっとしたら、クルム君が仔狼を連れて来たことに、気づいたのかも……」
今度はミラの隣にいるクルム、正確にはクルムに抱かれている仔狼に視線が集中した。
「いや、それはない……、そうでもないのか……?」
アルスが否定しようとしたが、何か別の可能性に気付いたようである。
「そうだな、基本的に犬や狼は感覚が優れていると言われているし……、近づいているのが分かったから、止まったのか? だとすると……」
「本当に、自分たちの子どもを取り戻したいだけ?」
グレイブの言葉を、マルタが引き継いだ。それは何の確証も無いはずなのに、奇妙な真実味を帯びていた。
「現段階では何とも言えん。マルタの言ったことも可能性が高いだけだ。幸い、群れは今のところ動いていないようだ。一晩ここで様子を見る。交代で見張りを立てて、動きが無ければこちらから出向き仔狼を返す。いいな」
特に反対意見は上がらなかった。ミラが横目でクルムの様子を見ると、仔狼を抱く腕の力が少し強くなっていたような気がした。
夜。マルタは拠点内を歩き回っていた。
「何してんだ?」
それを見つけたアルスが声を掛けた。グレイブ達は見張りのため、外に出ていた。
「クルムがどこにもいないのよ。さっき部屋に戻っていったのを見たんだけど……」
「何? ……まさか、外にいるのか?」
2人は急いで外に出た。
「クルムーー! 返事をしなさい!」
クルムを呼ぶが、返事は返ってこない。
「どうしたんだ? 大声で……?」
「クルムが部屋から抜け出したみたいでな」
見張り場所から走って来たグレイブたちに、アルスが事情を話した。
「まさか、仔狼と離れたくなくって……とか?」
ミラが呟く。
「そういえば、だいぶ懐いてたからなあ……。この旅の間もずっとくっついてたし……」
誰が呟いたか、その言葉に全員が今までのクルムの様子を思い浮かべた。……その時。
「おとーさーん……! おかーさーん……!」
遠くから幼い子どもの声。それを聞いた全員が、一瞬で現実に戻り、声のする方へ駆け出した。
「クルム、だいじょうぶ……か……」
クルムの元にたどり着き、声を掛けようとしたが、最後まで発することができなかった。
アルスたちの方を振り向いたクルムと仔狼のその後ろに、月の光に照らされ輝く、巨大なシルバーウルフが佇んでいたからである。
次回、第1章最終話、お楽しみに。




