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「モンスター・テイマー」と呼ばれた少年  作者: olupheus
第1章 覚醒する能力 –メザメルチカラ–
17/66

銀の狼の行く先を求めて

へい、お待ち!

9パート目でございます。

本日は大・容・量! でお送りします(当社比)。

 抜けるような青い空の下、1台の馬車が中央都市(セントラル)の外に出た。その馬車に乗っているのはアルス、マルタとグレイブの冒険者グループ、そしてクルムと銀色の()(おおかみ)である。どこか緊張感が空気を支配する馬車の中で、

「うわあぁぁ……」

 ただ一人と一匹、クルムと仔狼だけは初めて見る外の景色に大興奮、といった様子であった。

(((はあぁ~~~)))

 その様子を見た大人たちは心の中で一斉にため息をついた。そして、こうなってしまった原因である、「あの日」を思い出した。



 クルムがシルバーウルフの子どもを連れ帰った日の夜、ギルドハウスでは緊急の会議が開かれた。参加者はアルス、マルタ、ヴェリベル、たまたま居合わせたグレイブの冒険者グループ、そして何が起こるのか興味津々な様子のクルム、眠たそうにあくびをする仔狼である。

 なお、魔物が都市の中にいる、という情報が漏れて無用な混乱を引き起こさないようにするため、ギルドハウスは早々に閉店、玄関前に見張りをつけるという徹底ぶりであった。


「……でだ、クルムが言うには、自分が遊んでた犬たちの中にそいつがいたらしい」

「子どもをさらったら街が滅ぼされたとか、本当なの? 私はてっきり、新人の子たちを戒めるための作り話だと思ってたんだけど」

「残念ながら実話だ。ギルドの公式な記録にもしっかり残ってる。実際見に行った奴の話だと、街は文字通りの廃墟だったらしい」

「じゃ、じゃあここも滅ぼされちゃうんですか!?」

「いや、そもそもどうやってこの都市に入りこんだんだ? そっちの方が信じられないが……」

 あれやこれやと言い合うも、中々話がまとまらない。そんな中で、

「とにかくだ。シルバーウルフが都市の中に入り込んでいることは、どうしようもない事実だ。北から群れがやって来ているという情報も確認されている以上、下手な手を打つと大変なことになる。冷静に方針を考えなければならん」

 とアルスが締めた。


「もうこれは私たちの手に負える問題じゃないわ。個人で判断できる範囲を超えてるわよ。本部にいる先生の判断を仰ぐしか無いと思うわ」

 マルタが意見を述べた。

「俺も同意見だ。というか、何で俺たちをこんな場に呼んだ」

 続いて、グレイブもマルタの意見に同意した。

「いや、すまん、近くにいたもんだから、つい……。俺も結構混乱してるんだ」

 深いため息をつきながらアルスが弁解した。

「まあ、立て続けにこんなことが起きればね……」

 ミラがどこか憐れむような目線をアルスに向けた。


「ところでさっきまでそこにいたクルム君は?」

 ふと、ヴェリベルが見渡すと、さっきまで椅子に座っていたクルムがいなくなっていた。

「ああ……、それなら、そこにいるわよ」

 マルタが指差した先に、仔狼と遊ぶクルムの姿があった。初めは興味津々だったが早々に飽きてしまい、仔狼と遊ぶ方向にシフトしたようである。

「今まで魔物は凶暴な生き物で、だから人間の敵なんだとずっと思って冒険者をやってきたけど……」

 クルムの様子を見続けているミラがぼそっと呟くと、

「あれを見るとなあ……」

 グレイブが続いた。それにつられて、ギルドハウス内の全員がクルムを見た。


 クルムはじゃれつく仔狼と楽しそうな声を上げながら遊んでいた。どこから持ってきたのか、クルムがボールを転がすと、仔狼が追いかける。まだ短い脚をちょろちょろ動かしながらボールを追いかけ、追いつくとボールをくわえ、クルムの元に戻ってくる。クルムが頭をなでると気持ちよさそうに目を細めて、またボールを投げて、とせがむ。

 あれこれと悩む大人たちを差し置いて、そんな光景が繰り広げられていた。

「なんていうか……、悩んでるのがアホらしくなってくるな……」

 グレイブが何とも言えない表情を浮かべながら呟いた。今までの常識がガラガラと音を立てて崩れるのを感じながら、それを理性で押し留めようと葛藤している。


「はあ……、とにかく明日、本部に行って判断を仰いでくる。最悪の事態も想定するとなると時間が無い。グレイブたちもこんな時間まで引き留めて悪かったな」

 アルスが立ち上がって、声を掛ける。

「いや、いいんだ。結果が分かったら教えてくれ。……で、あのシルバーウルフはどうすんだ?」

 グレイブが応じた。

「いざとなったら何とかするさ。とりあえず今日はギルドハウス内で預かることにするよ」

 覚悟を決めたのか、開き直った様子でアルスが答えた。遊ぶのに満足したのか、いつの間にか大人たちの観察に戻っていた1人と1匹は、そろって同じ方向に首を傾けていた。



 そして翌日。本部の最上階でギルドマスターのカイゼルは一仕事を終えて、のんびりとお茶をすすっていた。そこにコンコン、とノックの音が響いた。

「うん、誰だ」

「おじいちゃん、こんにちは」

「お、クルムか。入っていいぞ」

 ガチャ、と扉が開き、クルムが顔を覗かせた。

「とつぜんごめんなさい。おじいちゃんにそうだんしたいことがあって……」

「おお、いいぞ。どれ、話を聞いてあげるから、こっちに来なさい」

 その言葉を聞いたクルムは嬉しそうにととと、とカイゼルに近寄る。


「で、何を相談したいのかな」

「うん、きのうわんちゃんをひろったんだけど、どうすればいいかわかんなくって……」

「ふうん、犬をねえ……。アルスとかには相談したのかい?」

 それを聞いたクルムはうつむき、

「うん、したんだけど……。もうおじいちゃんにしかそうだんできないの」

 と呟いた。それを聞いたカイゼルは、

「なんだ、あいつもだらしないな。よし、俺に任せとけ! きっちり話を付けてやる!」

 と何やら張り切った様子で立ち上がった。

「ホント、おじいちゃん!」

「ああ! あー、ところでアルスに反対されるなんて、一体どんな犬を連れて来たんだ?」

「あ、うん。じつはここまでつれてきたんだ」

 クルムが言った直後扉が開き、一匹の子犬がクルムの元に走り寄って来た。それを見ていたカイゼルは子犬の正体にたどり着き、次の瞬間にはひきつった表情を浮かべた。

「ま……、ま……、まさか……」

 カイゼルが指差した先にいる子犬は、銀色の毛並みをしていた。どこか狼のような雰囲気もあるその子狼は、先日クルムにくっついて来た、

「し、シルバーウルフ……」

 であった。



「いやー、驚かせて悪かった。こんなことを相談できる相手はじいさんしかいなくってなぁ~」

「お前、分かっててやったのか……」

「ホント悪かったって。はっはっはっは」

 恨めしそうな目を向けるカイゼルの前で、アルスは高笑いをしていた。

「はぁ……、アルスは本当に、もう……」

「おとーさん、なんかたのしそうだけど、どうしたの?」

 マルタはため息をつき、クルムの頭の中には疑問符が踊っていた。


「……で、シルバーウルフがクルム君に付いて来て、そのまま離れなくなった、と」

「ああ、北から来ている群れがその関連だとしたら、この都市は大変なことになる」

 ようやく落ち着きを取り戻し、事情の説明を行った。カイゼルは眉間にぎっちりとしわを寄せた。

「ふうん、どこから入り込んだかは事態が落ち着いてから調べることにするか……。取りあえず都市の防衛部隊に『コード・レッド』を発令しないといけないかね」

「コード・レッド」は冒険者や都市の外に関わる者の間で使われる緊急用の符丁で、その意味は「緊急事態の発生」である。なお、コードは他にも存在し、色によって意味が変化する。

「いや、完全にそうと決まった訳ではないし、今発令すると都市全体が混乱状態に陥るかも知れない。緊急待機用の『コード・グレー』で良いと思う」

「コード・グレー」の意味は有事に備えた待機で、事態の沈静化を示す「コード・ブルー」が発令されるまで解除されないというものである。


「分かった。では都市全体に『コード・グレー』を発令する。あとはシルバーウルフの群れがなぜ南下しているかを確認しないと……。予報に異常な点はないのか?」

「ここのところ特には無いな。相変わらずシルバーウルフの群れが目立ちまくってるよ」

「観測機も異常なし……か。こうなると、直接確認するしか方法が無いな……」

「おいおい、危険だぞ……」

「こうなったらやむを得まい。本当にここを目指しているか確認する必要もあるしな」

「……グレイブたちに頼もう。少人数で調査しないと挑発と勘違いされるかも知れない。それに、あいつらなら上手く生き延びるだけの実力もある」

「よし、では調査依頼は本部から出すことにする。報酬も本部持ちとしよう」

 と、あらかたの対応策が決まったところでアルスたちが退出しようとしたが、

「ああ、そうだ」

 とカイゼルが呼び止めた。


「ん、何だ?」

「調査依頼だが、クルムとシルバーウルフも連れてけ」

「んなっ……!」

 カイゼルの発した言葉に絶句するアルス。マルタも驚いた表情を浮かべていた。

「クルムを危険な場所に連れてける訳ないだろうが!」

「もしシルバーウルフの群れがその子どもを取り返しに来ているのだとしたら、その子どもをこちらから返しに行けば、都市の全滅は免れるかも知れない」

「もしそうならなかったら、どうすんだ……!」

「その時は何もしなかった時と同じ、都市と狼の戦争になるだけだ。争いを引き起こさないようにするためなら、試してみる価値はあると思う」

「それなら、このシルバーウルフだけ連れてけばいいだろうが! わざわざクルムまで巻き込む必要はない!!」

「アルス、お前昨日からクルム君とシルバーウルフの様子を見てたんだろ? なら分かると思うが、そのシルバーウルフはクルム君に懐いているんだ。引き離したら多分、暴れるぞ? クルム君と一緒に群れの元まで連れていくしか、穏便に済む方法はないんだ」

「先生、先生の提案はリスクが高すぎます。クルムの命を投げ出させるような真似はできません」

 マルタの言葉を聞いて、ふぅー、とカイゼルは息を吐き出した。


「俺はギルドマスターだ。この都市を守る責任がある。クルム君の命を掛けるのはかなりでかいリスクではあるが、都市1つを守れる可能性があるのなら、そのリスクも許容しなけりゃならん。……これはギルドマスターからの命令(’’)だ。群れの調査にクルムとシルバーウルフの子どもを同行させろ。……もしかしたら、クルム君のチカラ(’’’)が上手く働いて、予想以上の結果になるかも知れないしな」



 こうしてクルムと仔狼はカイゼルの鶴の一声で、シルバーウルフの群れ調査に同行することとなった。アルスとマルタは最後まで反対したが、決定が覆ることは無かった。その後、クルムを一人で外に出す訳にはいかないと、アルスとマルタがクルムに同行することを決めたため、今の状況が完成したのであった。


 クルムたちを乗せた馬車は、中央都市(セントラル)に背を向け、北に向かって進んでいく。馬車が進む道の先にどんな未来が描かれるのか、それを知る者はまだ、誰もいない。

 銀の狼の行く先を追う旅が始まった。

5,000PV & 1,500UA突破しました。いつもご愛顧頂きましてありがとうございます!

第1章もそろそろ終盤、最後までお付き合い頂ければと思います。


このお話が、皆様の彩りとなりますよう……。

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