銀の狼の躯を抱いて
やっとタイトル回収ができるぞ~!
8パート目です。前回と比べるとちょい短めです。
ある日のこと、アルスは本部に顔を出していた。見てほしいものがある、と言われたからである。そして今、「見てほしいもの」を見たアルスの顔は苦虫をまとめて噛み潰したような顔をしていた。
「なあ、これ本当か?」
「ええ、何度も確認しましたが、観測機の異常ではありませんでした。他の観測機も全く同様の結果を示しています」
今アルスが見ているものは、魔物の動向を観測する、通称「予報」の観測結果である。その結果に示されているのは、
「北の雪国にいるはずのシルバーウルフがこっちに来ている? 何の冗談だ?」
であった。
シルバーウルフは白に違い銀色の毛並みを持つ、外見は狼に酷似した魔物である。雪の多い地方に生息し、集団で連携して狩りを行うことで知られている。この時、銀色の毛はいわゆる迷彩として活躍する。
シルバーウルフの毛並みは他の魔物には見られない色をしていることと、その美しさ、機能性の高さから非常に価値がある。だが、とある理由から安易に手を出してはいけないというのが、冒険者やギルドの共通認識になっている。その理由とは魔物の中でも上位に位置する戦闘能力、そして群れに手を出したことに対する報復行動である。
シルバーウルフは集団行動を基本とする。集団行動を行う魔物というのは、単体での戦闘能力が高くないが故の性質であることが多いが、シルバーウルフに関してはその性質は当てはまらない。それが集団行動を取り組織的に行動するのだから、手を出したらあっという間に返り討ち、なんてことが頻繁に起こる。
もう一つの報復行動とは、そのままの意味である。以前、子どもなら捕らえやすいだろうとシルバーウルフの幼体を狙った冒険者がいた。結果から言うと、幼体の捕獲はうまくいってしまった。その冒険者はどうにか追跡を振り切って、拠点とした街に引き返したのだが、翌日、その街は地図から消滅した。
自分たちの子どもを狙った冒険者に激怒した親たちが、街を一晩で壊滅させてしまったのである。その時の人間側の生存者は0、シルバーウルフの群れは取り返した子どもを連れて悠々と帰っていった、と言われている。
このように冒険者の間では恐れられている魔物であるが、実際のところは危害を加えたり、敵対する意思を見せなければ何もしないという、魔物にしては珍しい性質を持っている。そういった諸々を含めて、むやみに手を出すな、という認識が広まっていったのだった。
なぜシルバーウルフが南下しているのか、現状では分からないことが多く判断できないため、ギルドとしては経過を注意深く観察するという方針になった。アルスはもやもやした気持ちを抱えながらいつものギルドハウスに戻った。
「戻ったぞ。……クルムはどうした?」
「あ、お帰りなさい。クルム君なら外でワンちゃんたちと触れ合ってます」
アルスの声に反応したのは受付嬢のヴェリベルだった。
「そうか……」
「何かあったんですか? お疲れのようですが……」
「ああ、実はな……」
とアルスが本部であったことを説明しようとした時、「ただいま~」という声がドアから聞こえてきた。その幼い声の主がひょこっと顔を覗かせる。
「あ、クルム君、お帰りなさい。……どうしたの?」
「あ、うん、いまわんちゃんたちとあそんでたんだけど……、いっぴきついてきちゃって……」
「ウチじゃ犬は飼えんぞ」
「うん、だけど、ぼくがどこにいってもついてくるんだもん」
「しばらくほっときゃ帰るだろ。……でだ、ヴェリベル、北からシルバーウルフが来てるという情報が届いた。掲示板に警告用の紙を貼っといてくれるか」
「シルバーウルフ? あのすごく強い狼の魔物ですか? 何かの冗談では?」
「いくつかの観測機が全く同じ結果を示した。観測機が一斉に狂ったんでもない限り、事実だよ」
ため息をつきながら、アルスがぼやく。
「分かりました。掲示板に貼ればいいんですね」
「頼んだ」
「おとーさん、『しるばーうるふ』ってな~に?」
横からクルムが聞いてきた。
「ん? シルバーウルフってのはとても強い狼の魔物だ。今中央都市に向かってるそうだぞ」
「へえ~。おおかみってどんなどうぶつだっけ……」
クルムがうんうん言いながら一生懸命思い出そうとしている。
「狼って犬みたいなやつだぞ。だからシルバーウルフも犬みたいな魔物だ。まあ、普通のと違ってシルバーウルフは銀色の毛並みをしてるんだがな。他にそんな色の毛を持つ魔物や動物はいないから一発で分かるぞ」
アルスが答えた。
「じゃ、このこもシルバーウルフなのかな?」
クルムが自分の足元にいたらしい動物を持ち上げた。
「ははは、そんな訳ないだろ。魔物が都市の中にいるな……んて……」
アルスの言葉は途切れ途切れになってしまった。その目線はクルムの腕に抱えられた動物に向けられている。
その動物はどこから見ても子犬だった。小さくて、愛らしい顔をした子犬。狼の雰囲気も少し感じる。いや、そんなことよりも注目すべきは子犬の毛並みだ。キレイな銀色をしている。もふもふしていて、触ると気持ちよさそう……、いや、そうじゃなくって。
その子犬はどこからどう見ても。
「なんで、『シルバーウルフの幼体』がこんなところにいるんだよおおおおぉぉぉぉぉぉぉ~~~!!!」
それは、ここのところ色んな騒動に巻き込まれ続けている哀れな人間の、心の叫びだった。
とうとうクルム君の周りに動物だけでなく、魔物が出るようになりました。
これからどうなる!? 次回もお楽しみに!
※注:「魔物を天誅!」みたいな展開やら、「狼を駆逐してやる!」みたいな展開には絶対しないのでご安心を……




