騒ぎのあとに
5パート目です!良いGWを!
こうして砂象を巡る騒動は幕を閉じた。
後で調べたところによると、砂象の脚に刺さっていたのは、砂漠地帯に生息しているサンドワームの牙であることが分かった。砂象を襲った際に脚に噛みつき、抵抗され折れた牙がそのまま残ってしまった、と推測された。脚の裏に残っていたため、サーカス団も気づかないままだったという。
後日、王城から来た担当者に厳重注意を受けたものの、砂象を厳重に管理し、外に出さないという条件付きで興行そのものは許されたのだった。
計5日にわたり行われた興行は大成功のまま幕を閉じ、サーカス団は砂象を初めとした動物たちと共に旅立って行った。
さて、事態沈静化の立役者はというと。
象が去った後も、辺りは静寂が支配していた。
手から光が出なくなってからしばらくして、クルムは立つ力を失ったようにぺたん、と座り込んだ。
クルムの後ろから軽い足音が響く。シモンたちがクルムを取り囲んだ。
「クルム、いまのどーやったんだ!?」
「クルム、大丈夫!?ケガしてない?」
「あのどうぶつ、どうしてかえっていったの?」
シモン、ライム、カリンが口々に言葉を投げかける。クルムは突然のことに目を白黒させていた。と、その後ろから大きな影が差した。
「クルム……」
アルスがしゃがむと、クルムの肩をがしっとつかんだ。
「お前、なんであんな危ないことしたんだ! 下手したら死んでるところだったんだぞ!」
クルムはびくっと体を震わせ、驚いた顔をアルスに向けた。近くにいたシモンたちも同じ反応をした。
その後は数分に渡り、アルスの説教が続いた。不注意に体の大きい動物の前に出るなだの、癒しの魔術が効かなかったらどうするんだだのと話は終わらず、クルムが泣きそうに顔を歪め、ギルド職員がいい加減止めようかと一歩を踏み出した頃、不意にアルスがクルムを抱きしめた。
「だから、あまり心配させるな……。本当に無事で良かった」
最後の方は声が震えていた。それを聞いたクルムはアルスの大きな体に顔を埋め、
「ごめん……なさい……」
と呟いたのだった。
帰り道でのこと。
「ねえ、さっきクルムがやってたのって、何だったの?」
ライムがアルスに尋ねる。アルスの背にはクルムが背負われていて、時々くすん、という鼻をすする音が聞こえてくる。
「ああ、あれは癒しの魔術だ」
「クルムって、まじゅつつかえたの!?」
「ん、ああ、ウチの嫁が何か知らんが張り切って教えててな。調べてみたらクルムは癒しの魔術の適正が高い、……というよりそれ以外がてんでダメ、ということが分かってな。それからは癒しの魔術ばかり訓練してたんだ。……まさか、象に効くとは思わなかったが」
3人は感心したようにへえ~、という声を出した。いつしか、クルムから鼻をすする音は聞こえなくなっていた。
シモン、ライム、カリンをそれぞれの家に送ってから(簡単な事情の説明と謝罪もした)、アルスとクルムはギルドハウスに戻った。アルスから何があったかを話すとマルタは大層驚き、クルムを軽く叱った(軽く、なのはアルスが既に済ませていたからである)。
その後夕食、入浴を済ませると、3人で並んで寝たのであった。
翌日。
朝のギルドハウスにはグレイブ、ミラを初めとした冒険者の一団がいた。取り留めのない話をしていると、奥の扉が開いて、クルムが現れた。
「あら、クルム君、おはよう」
ミラが声をかけると、
「おはよー……ございます」
とクルムが返した。しかし、声に力が無い。おまけに歩き方にも力が無い。右へフラフラ、左へヨロヨロしている。顔はなぜか下を向いていた。
「おい、クルム? どうしたんだ?」
「ああ、昨日色々あったからね。まだ眠いんじゃないかしら」
グレイブが不審がって声をかけると、カウンターの方からマルタが返した。
やがてミラの元にたどり着くと、ぽすっと抱き着く。すぐにすー、という寝息が聞こえてきた。
クルムが寝始めるまで全く動かなかったミラが、首だけをグレイブに向けた。
「ねえ、グレイブ。今日休んじゃダメ?」
「バカなこと言ってないで準備しろ」
ミラの案はバッサリと切り捨てられた。グレイブの周りも頷いていた。ミラはクルムを抱きながら、泣きそうな顔になっていた。
クルムの力の一端が現れ始めました。癒しの魔術は訓練して得た力ですが、どうやらクルムの持つ能力はそれだけではないようです。まあ、この小説のタイトルやら、クルムの言動やらから、ある程度分かってしまいますが……。
次はちょっとした幕間話でも入れようかな、と思います。冒険者と呼ばれる人たちがどんな風に依頼をこなしているか全然触れてないので、いい加減はっきりさせようと思います。お楽しみに~。




