うしろに
今? 今は駅にいるよ。
お家までは10分もかからないと思うけど。
なんだか遅くなっちゃった。もっと早く帰るつもりだったんだけどなぁ。
もう暗くなっちゃったねぇ。
え? 声が聞こえにくい? おかしいなぁ。あ。そういえば電話機の調子が悪いってママが言ってたよね。きっとそのせいじゃない?
だって、ワタシにはおねぇちゃんの声、よく聞こえるよ。
でね、さっきの話の続きなんだけど……。
今度パパの休みが取れたらみんなでピクニックに行くって話だよ。ワタシすごく楽しみなんだけど、パパったら仕事が忙しいってなかなか連れて行ってくれないよね。
あれ? おねぇちゃんだって、すごく楽しみにしてたでしょう?
ワタシが着る服だって、せっかくおねぇちゃんが選んでくれたのに……ピクニックに行けないんじゃあ、着る機会がなくなっちゃうよ。
なに? その話はもういい、って?
ああ。おねぇちゃん、この前そのことでパパと喧嘩してたもんね。
え? そんなこと関係ないって……。
じゃあ、ちょっとはワタシの話にも付き合ってよ。いつもはワタシの方がおねぇちゃんの話を聞いてるんだから。たまにはワタシの話も聞いてよね。
……でも、そうだよね。行けないピクニックの話しててもしょうがないもんね。
じゃあ、違う話なんだけどね。
おねぇちゃん、前に都市伝説が載ってる本、友達に借りて読んでたでしょ? 車のバックミラーに幽霊が映ってたり、人形の髪の毛が伸びたりするような話。
なによ? この話もやめろ、って?
なんか、さっきからワタシが話すことに否定的だね。
そっか、確かおねぇちゃんこういう話苦手だったよね。あの本も、おもしろいからって無理やり押し付けられたって言ってたっけ。
それにしてもおねぇちゃんは怖がりだなぁ。怖がるような話じゃないのに。
そういえば。今日は確かパパもママも仕事で遅くなる日だよね。
お家にはおねぇちゃん一人だけなんだ?
小さい頃はさ、心細くなるとよく手を繋いでパパとママの帰りを待ってたよね。最近そういうこともなくなっちゃったけど。ちょっと懐かしいなぁ。
……そうそう。話がそれちゃったよ。
つまり、ワタシが言いたいのはね。そういう都市伝説って、馬鹿馬鹿しいって思う人も多いんだろうけど意外とあなどれないなって思うんだ。
うん? やっぱりそんな話聞きたくない、って?
やだなぁ。別に怖がらせるために言ってるんじゃないんだよ。
あ。もう公園の角のところまで来たよ。お家までもうすぐ。
あー! ダメダメ! 切らないで。
ひどいなぁ、おねぇちゃん。ワタシの話はこれからなのに。
あのね。その本に書いてあったよね。捨てた人形がその持ち主のお家に帰って来る話。
まず持ち主に電話がかかってきてさ、「何で私を捨てたの?」みたいなことを言うんだよね。ワタシは、そんな恨みがましいこと言う人形なんて人形として失格だと思うんだけどね。
で、その人形は「今家に帰ろうとしているのよ」って言って、自分が今いる場所を言うのね。
そしてしばらくしてからまた電話がかかってきて、また人形が居場所を言うと前よりもお家に近づいてるの。そんなやり取りが何回かあって、最後にかかってきた電話では「今あなたのうしろにいるの」って言うのよ。
覚えてる? その話を本で読んだとき、おねぇちゃん怖がってたよねー。
隣にいたワタシにもその話を読み上げてくれたんだよ。
そんなに怖いなら読まなければいいのに、ってその時は思ったんだけどね。
でも、今となっては、ワタシが思うのは……。
その話がそんなに怖かったんなら、ワタシのこと捨てなければよかったのに。
前はどこにでもワタシのことを連れて行って、みんなに「私の妹なの」って紹介してくれてたのにね。
ママに言われたから、っていう理由で捨てられた妹の気持ち、わかるかな?
今……?
おねぇちゃんのうしろにいるよ。