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上皿はかり

 江戸時代、はかりと言えば天秤(てんびん)桿秤さおばかりであり、重量を正確に量るのは面倒だった。


 そこで前田拓也は、簡単に重さを計測できる現代の上皿はかりを江戸時代に持ち込んだ。


 そのままだと、単位がグラム表示なので、一貫(約3.736キログラム)とした新しい目盛りを追加した。


 なお、一貫は1000(もんめ)であり、銭貨1000枚の重さでもある。

 天秤と違い、面倒な分銅による釣り合いを取ったり、竿(さお)秤のように重りの位置をずらしたりしなくとも、物を置くだけでその重量が一発表示されるのだから、非常に便利だ。


 これは売れる……と、タクヤは何個も現代から持ち込んだのだが、これを見た涼から『待った』がかかった。


「これって、お役所から正式に秤と認められたものじゃないですよね?」


「まあ、そうだけど……」


「だったら、お咎めを受ける可能性がありますよ。最悪の場合、死罪になることも……」


「……」


 彼女の指摘を受けて、いろいろと調べてみると……確かにこの時代、秤に関する規制は非常に厳しかったことが分かった。

 物の取引に使われる天秤は、幕府が認めた江戸の守随家か京都の神家が作成した、刻印のあるものしか認められないのだ。


 これらのことは漠然と知ってはいたものの、構造がまるっきり異なる上皿はかりが規制対象に該当するとは考えが至っていなかった。


 これを知って、拓也はこの上皿はかりは、自分達の店の中でしか使用しないことにした。

 まず、料理屋『前田美海店』でその使い勝手を試してもらった。

 すると、米や小豆、塩、味噌、醤油などの重量が手軽に量れると大好評。

 手間の削減と、料理の味の安定に貢献することができ、それだけでも持ち込んだ価値があったと、拓也は少しほっとした。


 ユキとハルの双子は、その動きが面白いとはしゃいで、いろんな食材を片っ端から測って、ナツに「いい加減にしろ」、と叱られていた。


 また、『前田妙薬店』でも、何種類か重さを量れる上皿はかりを用意して、店主である凜に使用してもらった。

 これも、店頭で使用するとあらぬ疑いを掛けられるので、使用するのは専ら店の奥だ。


「ニンニクが5グラム、ニラが10グラム……」


 彼女は最も精密に主さが測れる、最大2キログラムの秤を使って、何か調合するような感じで測定していた。

 ちなみに、彼女は相当現代の知識を持っているので、グラムやキログラムという数字の意味を完全に理解している。


「熱心だね……何を作っているんだい? 新しい薬の調合、とか?」


「ええ、まあ、そんなところですね」


「へえ……そんなことまでするんだね……」


「せっかく便利な道具を用意してくださったのだから、使わないと罰があたります」


「そんな、大げさだなあ……ちなみに、何の薬?」


「今夜拓也さんに食べて頂く、精力剤ですわ」


 拓也はそれを聞いて、飲みかけのお茶でむせた。

 それを見て、彼女はイタズラっぽく笑っていた。


 数日間、拓也は、上皿はかりを使ってもらった全体的な感想を、家族会議の場で尋ねた。

 予想以上に好評で、これ自体を販売できないのは残念だが、これによって仕事の効率が上がったし、ミスも減るようになったと大好評だった。


 ただ、今回持ち込んだ物は最大でも20キロだったので、できるならばもっと重量が量れる物が欲しい、という意見が出た。


 大根を大量に仕入れたときなどに、ざっくりと重さを量りたいが、二キロを超えているので数回に分けないといけない、というのがその理由だった。


「それなら、そういう商品を調べてみるよ。50キロぐらいまでなら量れるものがあるはずだ」


 それを聞いて、全員五十キロが何貫なのか計算し、驚いたような顔つきになった。


「そんなに重い物まで量れるのですね……私達の体の重さも、大丈夫なんじゃないですか?」


 凜が目を見開いたまま話す。


「うん、まあ、そうだろうけど、ヘルスメーターっていう、体重だけを量る機械があるんだ。これも、上皿はかりの一種と言えなくもないけど」


「……それって、どうして人の重さなんか量るんだ?」


 ナツが、興味深そうに尋ねた。


「体重っていうのは、急に重くなったり、軽くなったりすると、病気になってる可能性があるんだ。みんな経験としてそれは分かるだろう? それが、定期的に体重測定することにより正確に判断できるようになるんだ」


 と、彼が自慢げにそう話すと、凜以外の全員が、分かったような、分からないような、微妙な表情になった。


「……そういえば拓也さん、私達って、『健康診断』を受けていないわね……」


 突然、凜から指摘が入った。


「健康診断? ……うん、まあ、この時代では設備も揃っていないし、できなかったな……」


「でしたら、ちょうどいい機会ですし、その『へるすめーたー』を導入して、従業員の女の子全員の『健康診断』を実施しませんか?」


 現代の知識を多く持つ凜が、そう提案した。


「なるほど……それは良い考えだな……うん、よし。『健康診断』を実施しよう!」


 と、上皿はかりがきっかけで、前田屋号店の女性従業員に対する、体重測定をはじめとする健康診断が実施されることとなった。


 これが拓也にとって、かなり刺激的な内容ものになると、彼はこの時点ではまだ予想すらできていなかった。

※健康診断の様子は、近日公開の『身売りっ娘 俺がまとめて……[ハーレム編]』の『健康診断(身体測定)』にて詳細を書く予定となっています(^^;。


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