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ランドセル

 江戸時代に於いては、時として予想だにしない商品がヒットすることがあった。


『前田妙薬店』店長の凜は、阿讃屋の主人から、

「姪っ子が寺子屋に通うことになったが、そろばんや書道の道具を上手く風呂敷に包むことができない。書物を持たせることもあるが、荷物が多くなりすぎて、袋を下げさせると重そうで可哀想だ。かといって、背中に籠を背負わせると不格好だし、何か良い物はないか」

 と相談を受けていた。


 そこで、主人である前田拓也に相談したところ、彼は現代から『ランドセル』を持ち込んだのだ。


 その姪っ子は、満年齢でいうと六歳、ちょうど小学校一年生ぐらい。使い方を覚えやすいランドセルは最適だ。


「気に入ったら使ってもらう」

 という事にして、とりあえす貸し出しという形をとった。


 この時代としては赤色が映える珍しい逸品。

 いろんな教材が入るし、背中や肩に当たる部分は柔らかく加工されており、長時間背負っても痛くなることがない。

 なにより、その女の子によく似合っており、本人もとても気に入っていた。


 軽くて丈夫、使いやすいランドセルはすぐに寺子屋で評判となり、他の子の親たちも、多少金額が高いにもかかわらず、ある程度裕福な家庭ではこぞって買い求めるようになった。


 やはり、男の子が黒、女の子が赤を求めるのはこの時代でも同じ傾向のようだった。


 寺子屋に通う子供達、その背中のランドセルを見た、主に十代前半の若い女性達は見慣れぬアイテムに興味津々。


 この時代の女性は平均身長が百四十五センチ程度と小柄であったことから、実際に彼女たちが背負ってもそれほど違和感がなく、むしろよく似合って見えた。


 ただ、問題となったのが帯の存在。

 大きな結び目を背中に作っていると、ランドセルが当たってしまう。


 この時代、地方の子供達はよほど裕福でない限り豪華な着物ではなく、寺子屋に通うぐらいなら男女とも紐のような帯であったため問題なかったが、おしゃれに気を使う町娘は話が違う。


 そこで彼女たちは『らんどせる』をおしゃれに使うため、半幅帯(はんはばおび)を用いて結び上がりが平面的な『貝の口』という手法を取り入れた。


 ……ランドセルを背負った着物姿の十代前半の娘達が、キャッキャとはしゃぎながら歩くシュールな光景。その中には、『前田美海店』で働くユキ、ハルの双子の姿もあった。

 

 もちろん、見た目だけではなく、荷物を手軽に運べるという実用性もあってのことだ。そこには、「ランドセルは小学生だけが身につける物」などという現代日本人の常識は存在しないのだが……。


(……ひょっとしたら、俺は歴史上の文化を、書き換えてしまったのかもしれない……)


 一時の流行にすぎないとは思いながらも、拓也はほんの少し、歴史を操作してしまっているかもしれない自分に不安を覚えたのだった。


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