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7話

4


「やっほー! うーみだーー!」

 雲一つない晴天の下、日光が発射して綺麗な珊瑚礁が緑に輝く。そんな絶景を目にして舞は駆け出した。

「まだ海には入れないわよ。この季節じゃ水が冷たいから」

 潮風にさらわれた黒髪を耳にかけ直しながら陽奈が舞を呼び止めた。しかし舞には通じるはずがない。

「そんなこと気にしなーい!」

 無邪気にはしゃぐ彼女を、ゆっくりと歩いて陽奈が追う。更にその後から竜喜と真帆が続く。

 四人が着ているのは奏ヶ丘学園の体育用のジャージ。竜喜の男子用は緑、真帆たち三人の女子用は赤色をしている。

 身軽な格好ではしゃぎ回る舞と、それに付き合う陽奈を見て竜喜と真帆は微笑む。

「真帆は海に来るの初めて?」

「はい。見たことはあるのですが、実際に来るのはこれが初めてです」

 もう二人とは離れた位置で舞と陽奈の水の掛け合いが始まっている。

 目を輝かせてその様子を観覧する真帆も心が躍っている様子だ。

「まほたんとたっつーも早くー!」

 舞に呼ばれるがままに二人は歩く。

 雲一つない晴天。そこへ照りつける強く穏やかな日差し。

 そう、彼らは今、修学旅行に来ていた。


 真帆が転校してきてから二週間。

 日を重ねるごとに彼女は学校に馴染んできた。中でも、部活が一緒になる三人には特に心を許していた。そのため、修学旅行の班も自由ということで四人の班となった。


 時間は約四時間前に遡る。

 高校生活一のビッグイベントである修学旅行の朝、生徒たちは落ち着かない様子で学校に集合した。

 それは竜喜たちも例外ではない。

 竜喜は集合時間の三十分も前に集まった。小学生のようにそわそわとする彼だが、当然まだ誰もいない。

 そこへ、正門から暁に照らされながら一つの影が姿を見せた。

 遠くからでもはっきりと分かる銀色に輝く髪は、 歩みを進める度に存在を強調する。

「真帆、早いな」

「おはようございます竜喜。楽しみで早く目が覚めてしまったので、その分早く家を出ました。でも竜喜もお早いのですね?」

「え? 俺も一緒だよ。だって三年にしかない修学旅行なんだからさ。そう言えば真帆は初めてだよね?」

「はい。ですからとても楽しみです」

 竜喜にとっては高校生活最初で最後の、真帆にとっては人生初の修学旅行に心躍らせる二人。

 そこへ、

「やっほー! たっつー、まほたんおっはよーー!」

 朝からテンションの高い舞と一緒に陽奈も校門をくぐってきた。

「二人とも一緒だったのか」

 舞と陽奈の家は近くない。一緒に来なければ滅多に出会うことなどないのだが、

「偶然であったから一緒に来たのよ」

 ということはつまり、その偶然が示すことは一つ。二人とも早く起きたのだ。竜喜や真帆と同じように。

「やっぱり考えることはみんな同じなんだな……」

「そうね」

 無意識のうちに溢れた竜喜の独り言に陽奈が反応する。

 二人の目の前では舞が身を躍らせながら話している。

 この調子で最後までもつのだろうか、という心配は舞なら必要ないだろう。そして、この二週間で表情が柔らかくなってきた真帆は三人の前では特に色んな表情を見せ始めた。時々、常識的なものを知らないことには驚かされるが、今、舞と笑いながら話す彼女の様子も一つの進展と言える。

「それにしても、舞の荷物はなんでそんなに多いんだ?」

 竜喜たちが持っている荷物は、普通の旅行用の大きな鞄やボストンバッグなのに対し、舞はそれにリュックサックまで背負っている。

「えっとねー、着替えとか、お菓子とか、お菓子とか、お菓子!」

「結局お菓子ばっかりじゃねぇか!」

 限界まで膨らんだそのリュックサックには一体どれだけの量のお菓子が入っているのか分からない。これだけで相当な重量があるのは確実だ。

 舞はリュックサックの中を開け、一つ一つお菓子を確認を始める。底なしかというぐらい次から次へと溢れ出てくる。

 かと思えば今度は物凄いでかき出し、何かを見つけたかと思うと、あめ玉を掲げて目を輝かせる。

 その様子に陽奈と竜喜の二人は、同時に苦笑まじりの溜め息を漏らした。

 そうこうしているうちにすぐ、集合時間になった。

 校長先生の話や、諸注意を聞き終えた後、空港までのバスに乗車する。

 バスの中は打って変わって静かに時間が過ぎた。賑やかだった舞は、朝が早かったために眠りに落ちていた。彼女だけでなく、竜喜たちも含めてほぼ全員が睡眠していた。

 空港に着くと、荷物を預け、飛行機に搭乗する。この時、竜喜だけ金属探知機が誤作動し、執拗にボディチェックを受けて狼狽した。

 幸い、機内の座席はおたすけ部全員が横並びだった。

「真帆は飛行機初めて?」

 竜喜の右隣に座る、落ち着き払った様子の銀髪の少女に話しかける。

「いえ、幼い頃に乗ったことがあります」

「そっか。俺も初めてなんだけど……ん?」

 言いかけて竜喜は左隣から緊張感が伝わり、言葉を止める。

 そこに座る陽奈がいつになく固く強ばっていた。

「どうしたんだ丹里?」

「え、わ、わたし、高いところ苦手……」

「飛行機なら大丈夫だろ? 落ちる心配ないんだから」

「お、おおお落ちるなんて言わないでよ! 縁起の悪い……。余計に怖くなってきたじゃない!」

 若干震えながらも決して左側の機窓を見ようとはしない。

 長年付き合ってきたが、今初めて知る幼馴染みの弱点に意外性を感じた。

 だが、思い返せば、遊んできた中で陽奈は一度も高いところには行かなかった気がする。竜喜が木に登ったときも、大きな岩の上に立ったときも、ジャングルジムの頂上に立ったときも 彼女は付いてくることなくそれを下から見上げていた。それに少し高い橋を渡るときも常に真ん中を歩いていた記憶がある。

 それでも飛行機がダメとなると、竜喜はこの先が心配になった。

 それから飛行機は、約三時間ほど空を飛び、着陸した。


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