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6話

「いいねー青春してるなー」

「皆川先生!?」

 勢い良く扉を開けて出現した訪問者に、陽奈は驚いて机を叩き立ち上がる。そんな彼女は僅かな戸惑いが窺える。

 人一倍生真面目で生徒会長を務める彼女は、部室となっているこの部屋に無関係な自分がいるということをまずいと思ったのだろう。

 だが、変化を見せたのは陽奈だけではなかった。

 舞までもが縮こまり、顔をしかめている。普段無邪気にはしゃぎ回り、落ち着く、という言葉とは無縁の彼女にしては珍しい。

 それだけ皆川琉美という教師の威光はすごい。そう、見かけ上の威光だけは。

「いい加減生徒の話を盗み聞きするのやめてもらえます?」

「一々細かいことを気にするな。気にしたら負けだ」

「それでもアンタ教師か! よくこれまで教師してきたな、おい!」

「お前も失礼だな。ちゃんと教師してるから金ももらって、金ももらって食ってるんだから」

「二回言うセリフがやらしいな!」

 やはり金を最優先にする琉美は全くブレがない。そんな彼女の教師らしい姿を竜喜を見たことがない。

「様子を見に来たんだが……お? 二人増えてるな。茜沢舞と丹里陽奈入部っと」

「ちょっと待ってください! わたしはまだ入部するなんてまだ言ってません!」

 琉美に対して苦手意識を持つ舞は渋面したまま目を逸らす。一方の陽奈は納得できないとばかりに言い返した。

「いいだろ。部員多い方が都合いいし。いろいろな面で」

 嫌な予感がして竜喜は口を挟む。

「それで増えた部費を横領するのはナシですよ?」

「そそそ、そんなわけないだろ。い、いきゅらなんでもそこまではしないさ……」

 やっぱり図星のようだ。その証拠に呂律(ろれつ)が回っていない。

 竜喜は諦念のあまりため息をついた。

「とにかく、二人は入部でいいな」

 それだけ言い残すと、琉美は逃げるように去っていった。

「ちょっと待ってください! わたしはまだ……」

 陽奈は琉美を追って部室を飛び出したが、その時にはもう既に琉美は姿をくらませていた。

「もういない……」

 竜喜が陽奈に歩み寄り、そっと肩を叩く。

「丹里、諦めた方がいいよ」

「どうして!? 納得できるわけないじゃない。生徒会と部活を両立させるなんて無理よ」

 生真面目な性格ゆえ、余計に陽奈はこうして一方的に決められることが釈然としないのだろう。

 無理もない。竜喜自身もあっさりとは納得できなかったのだから。

 それに、と彼女は竜喜を一瞥して言葉を紡ぐ。

「竜喜くんと……」

「俺と……?」

「……ううん、なんでもない」

「なんだよ、気になるだろ?」

「なんでもないの! と、とにかく! わたしには時間がないから部活なんて無理よ」

 確かにこんな一方的で強引なものかご納得などいくはずもない。最初の竜喜のように。ましてや彼女は生徒会長だ。部活などしている余裕はないだろう。

「大丈夫だよ。多分」

「え?」

「この部は部だけど部じゃない」

 あえてややこしい言い回しで説明すると、予想通り陽奈はクエスチョンマークをいくつも漂わせている。

「要するにこの部は活動がない……らしい。名前の通り依頼が来れば活動するけどあまり来ないだろうから。暇な時に来てくれればいいよ」

「え、ええ……考えておく」

 まだ腑に落ちない様子の陽奈は困惑しきっている。

 少なくとも形式上での入部は回避できないだろう。だが、顧問の琉美からすれば肝心なのは形式上だけであり、顔を出すかどうかではない。

 今更ながら琉美はいい加減で適当な教師だ。だが、竜喜は小さい頃から琉美を知っている。それ故に彼は別の捉え方もできる。適当なのは自分たちを自由にさせてくれているのではないか。自分の給料だの評価だのもまた事実だとは思うが。

 部室に入ると真帆と舞が話していた。舞にはいつもの活発さが戻っている。

「舞、よかったのか?」

「ん、何がー?」

 舞は振り向くことなくぶっきらぼうに訊き返す。

「何がって、入部することになってよかったのか?」

「うんいいよー」

 陽奈とは違い、あっさりと承諾する舞に、竜喜は拍子抜けする。

 舞は一応部活には所属していない。だから生徒会で忙しい陽奈とは違い、時間は充分にあるはずだ。

 だが、竜喜や陽奈のように抵抗することもなくあっさりと受け入れた舞は、逆に竜喜がおかしいかのように首を傾げてくる。

 舞の性格からすれば可能性はなくはなかったが、ここまでとは思いもしなかった。

「だって、部に入ればずっと一緒に話せるんだよ? そんな楽しいことってないじゃん!」

 そんな無垢で純粋な赤髪の少女が羨ましく思えた。

 そうは言うものの、巻き込んでしまった申し訳なさを感じながら、竜喜は再び座って陽奈の様子を窺う。

 儚げに目を伏せたままの彼女はまだ迷っている。そう思ったのも束の間、陽奈は顔を上げた時、その顔には当惑は些かも無かった。

「わ、わたしも入るわ!」

「いいのか? 無理しなくてもあの先生なら何も言わないけど」

「い、いいでしょ? わたしがいた方が楽しいじゃない!」

「自分でそれ言うか……」

 顔を真っ赤に染め、半ばヤケになりながら叫ぶ陽奈を見て、竜喜少し安堵する。

 もし、ここで陽奈が拒否した場合、真帆が信頼できる人物を増やすという目的は叶わなくなる。それは真帆のためにも望ましくなかった。

 それに、陽奈がいた方が部が明るくなるのも否定できない。

「と、とにかく! 舞が入るならわたしも入るから」

「やったー!」

 そう喜んだのは舞だ。

「こんな時はお菓子で盛り上がろー!」

 鞄からチョコレートを大量に取り出し、机にバラ撒ける舞に、真帆が不思議そうな眼差しを向ける。

「もしかしてまほたんはチョコレート食べたことない?」

「ちょこ、れえと?」

「そ、甘くておいしいよ」

 とても初めてとは思えないほど器用に包装紙を剥く。そこから出てきた茶色の立方体のチョコレートを摘み、首を傾げてから恐る恐る口に含む。

「っ! おいしい……!」

「でしょでしょ?」

 その二人を横目に、竜喜は新入部員である幼馴染みの方を向き、

「改めてよろし……うわぁ!」 

 立ち上がった刹那、勢い余って倒れる椅子に巻き込まれる。

「いってぇ」

 肝心なところで姿を現す自分のドジさにうんざりしながら起き上がる。

「ふふっ」

 だが、そんな彼に対して聞こえたものは、何の嫌味もない純粋な笑い声だった。

 口元を押さえて上品に笑う真帆に誘われるようにして黄色い笑い声が部屋にこだまする。

 この時初めて、竜喜は自分のドジを悪く思わなかった。

 これが、たった一日にして二人から四人へ増えた部活の第一歩。

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